エッセイ#29『石油ストーブ』

 毎年この季節になると、中学生時代の係を思い出す。
 私の母校には、生物係や刑事係の他にも国語係や数学係のような教科係があり、クラスの全員が何らかの係に属するような仕組みになっていた。このシステムは学期毎に一新され、長期休暇明け最初の週には必ず係決めのホームルームが催される。私は毎年3学期には、ここに所属しようと決めていた係があった。
 その係とは、「給油係」だ。なんだかガソリンスタンドみたいな名前だが、この場合の油は「灯油」のことである。つまり給油係とは、冬季限定で教室に設置される石油ストーブに灯油を補給する係のことで、週に1回ポリタンクを運んで給油するだけの簡単な仕事だったので、毎回立候補していた。
 金曜日の放課後、全校の給油係達は駐車場へと集合する。物置に入れられたポリタンクとポンプを早いもの順で手に取り、各々の教室へと運ぶのだ。これが毎回争奪戦であった。一体これのどこにそんな競争の要素があるのかと思うかもしれないが、皆電動の給油ポンプを選ぶために一所懸命だったのだ。
 電動と手動だと、給油が完了するまでの時間がかなり違う。手動ポンプの場合、勝手に灯油が流れるまでに1分程要するため、その分のラグが発生する。たかが1分、されど1分。この1分の差が早く帰りたい中学生にとては大事なのだ。私は部活をやっていたが、早く活動に合流するために電動ポンプを選んでいた。
 手動にしろ電動にしろ、ポンプ自体が壊れていた場合は、確実に帰宅が遅くなる。電動の場合は動かなければ故障だとわかるからまだ良いが、手動の場合は故障なのか自分の技術の問題なのかがわからず、教室でしばらく右往左往してしまう。10分程ポンプをいじくった結果、中の弁が欠けていたり、キャップが上手いこと開閉しないようになっていることが、ようやく理解できる。
 今では石油ストーブ自体をあまり見なくなってしまったが、まだまだ現役で動いているところもあるだろう。クラスメイトが誰もいなくなった教室で、数人で駄弁りながら作業したあの頃を思い出せる限りは、世界のどこかで稼働し続けていてほしい。


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