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日記・エッセイ

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日々の日記、または過去のエッセイ。
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2023年2月の記事一覧

エッセイ#58『こだま』

 初めて新幹線「こだま」に乗った。びっくりした。停車駅が多いのは知識として知っていたが、まさかここまでとは。  乗車したのは品川~名古屋の区間だ。「のぞみ」で行けば、品川→新横浜→名古屋の短い旅だが、今回は凄い。同区間の「こだま」の停車駅は、品川→新横浜→小田原→熱海→三島→新富士→静岡→掛川→浜松→豊橋→三河安城→名古屋である。  この間にこんなに駅があったのか。普段は半分も出席していない講義の試験の日に、初めて受講生が全員集合した時のような驚きだった。身を持って経験しない

エッセイ#57『ヤッターペリカン』

 先日、私より年下の唯一の親戚と思われる再従弟氏に会ってきた。  以前彼に会った時、私が幼少期に遊んでいたおもちゃを、母親が勝手にセレクトして彼にプレゼントしていた。そのほとんどはプラレールである。再従弟氏も私同様にプラレールに造詣が深いらしく、その日は大いに喜んでくれた。  気掛かりだったのは、母親が勝手に選別したことである。正直、今後それで遊ぶ予定は全くなかったので、おもちゃが消えたところで私自身への被害は特にないのだが、1点だけ「これはちょっと惜しかったな。」と思ったフ

エッセイ#56『ささくれ』

 指に埋まったささくれが取れない。  左手の親指に木のささくれが刺さってから、かれこれ2週間が経過した。刺さった当日は、ピンセット片手にささくれと格闘していたが一向に抜ける気配はなく、諦めてもう気にしないことにした。これが悪夢の始まりだった。  指に深く刺さったそこそこ太めのささくれを、気にしないなんてことは不可能に近い。日常生活にはほぼ支障がないが、不意に触ってしまった時に激痛が走る。その度にペンケースの中のピンセットで刺抜きを試みるが、やはり抜けない。初日に抜けないものが

エッセイ#55『千葉ポートタワーの夢』

 自分が実際に見た夢をまとめた『ほんとにあった夢十夜』という文章を何本か綴ってきたが、つい先日、その仲間に入れる程でもない夢を見た。  夢の舞台は千葉市のランドマーク「千葉ポートタワー」である。千葉県の人口500万人突破を記念して建てられたタワーで、なんと大人は420円で上れてしまうらしい。良心的だ。  その名前の通り海のすぐ側にあるのだが、夢の中では本当にギリギリ海に届くか届かないかくらいの場所に建っており、きっと潮の満ち引きとか風の強さによっては、完全に海水に浸かってしま

エッセイ#54『カフェ』

 私の地元には、廃墟と見紛う程に荒れ果てたカフェが存在する。もちろん、ただただ荒れているだけで営業はしているのだが、何も知らずの通り掛かった人が見たら、確実に閉業していると思うだろう。  この店を初めて意識したのは中学生の時である。学校の近くにありながらも、一度も開店している様を見たことがないことから、私を含めた多くの生徒は既に閉まっているものだと考えてた。  しかし情報通の友人曰く、我々が見たことがないだけで、普通に営業はしているらしい。実際に、自分達が学校にいる時間帯にカ

エッセイ#53『熊』

 ネットニュースを流し目で見ていると、一際目立つサムネイルを発見した。デフォルメされた4頭身のツキノワグマが、何やら物騒な面持ちで丘の上に佇んでいる写真であった。 ー動物園で訓練 ツキノワグマ脱走を想定 茨城 日立ー  よく、アニメやドラマなどで銀行強盗が来たことを想定した銀行員の訓練を見ることがあるが、動物園の場合は動物の脱走を想定した訓練らしい。  ということはこれも仕事の一環である。この着ぐるみを着ている最中も、中の人には報酬が発生している。  固定給とは別途で「ク

エッセイ#52『卒寿』

 親から「明日はスーツで行くよ。」と言われたのは、親戚一同が集まる食事会の前日であった。私は勝手に、ちょっと良いしゃぶしゃぶ屋くらいの会場を想像していたため、まさかのスーツ着用には驚いた。  当日、スーツを着て向かったのは父親の実家がある埼玉県某市である。食事会の会場は市内の結婚式場で、親族がスーツや着物で一堂に介していた。  集まった目的は新年会とのことだったが、どうやら私の祖父の卒寿祝いも兼ねているらしいという噂が、我が家で流れ始めた。誕生日はまだ先だが、祖父が今年で90

エッセイ#51『東京から』

 先日、三重県へ旅行をしてきた。  東海と関西の両方に属する三重県では各地のCMやテレビ番組が流れており、さらに伊勢神宮は観光客や修学旅行生で溢れ返っていたため、「これぞ旅行!」という感じで楽しい2日間だった。  そんな中、地元のおじさんと世間話をする機会が訪れた。「どこから来たの?」と聞かれると、私は咄嗟に「あ、東京です。」と答えてしまった。私の自宅は千葉県にあり、言わずもがな東京のいかなる市区町村にも属していない。  しかし、これは決して見栄を張ったわけではないのだ。も

エッセイ#50『日本語検定』

 高校の帰り道、電車の中で外国人に話し掛けられた。電車の中で話し掛けられるといえば友人か教員くらいだが、この外国人には全く見覚えがない。見る限り観光中という感じでもないので、道に迷っているわけではないのだろう。  咄嗟に「はい!?」と答えると、彼はマーカーが沢山引かれた問題集を手に持ちながら、深刻そうな顔で「これわからない……。」と相談をしてきた。どうやら日本語検定の過去問か何かを解いているらしく、穴埋め問題がわからずに困っているらしい。  何だそんなことか、日本語話者歴17

エッセイ#49『お兄さん』

 台東区浅草の雷門周辺には、人力車のお兄さんが何人も待機している。人を待っていようが写真を撮っていようが、形振り構わず話し掛けてくるあの精神は、もはやキャッチに近い。  この時の呼び込みの文言は、決まって「お兄さ〜ん!」である。私はお坊ちゃんでもお父さんでもないため、お兄さんと呼ばれても何ら間違っていないのだが、よくよく考えればおかしな話だ。その場には私以外のも無数の「お兄さん」に該当しそうな人がいるからだ。  子供でも子連れでもなければ、ほとんどの男性は「お兄さん」と呼ばれ

エッセイ#48『冬の風鈴』

 夏の風物詩を10個挙げろ、と言われればほとんどの人が「風鈴」をその中に含めるだろう。風の音をわざわざ聞かずとも、冷風を発生させることが可能になった現代でも、その認識に違いはないはずだ。  しかし、実際に涼しくなっているだろうか。恐らく風鈴は涼みを得るためのものではなく、そこに風があることを確認するための道具であり、実際の気温にも体感温度にも変化はないのではないだろうか。  このように私はつい先日まで、風鈴に周囲を涼しくする機能はないと考えていた。所詮はただのガラスである。風

エッセイ#47『ゆっくり』

 ここ数年で私の地元にも、自動レジが著しく普及した。  最初にその存在を確認できたのは、県道沿いのコンビニでのことだ。その後、駅中のコンビニや、ユニクロ、弁当屋などでも確認されるようになり、現在ではパン屋とディスカウントストア以外の大体の店に設置されるようになった。  先日近所のスーパーマーケットで買い物を終え、自動レジで精算していたところ、とあるモヤモヤを感じた。このモヤモヤの原因は自動レジの合成音声にあるのだが、いったいなぜモヤモヤしているのか自分でもよくわからなかった

エッセイ#46『影の薄い中学校』

 自身が住む街の公立中学校ならば、その名前を一度くらいは目にしたことがあるはずだ。学生服販売店や成人式の葉書などでも目にするが、最も見聞きする機会が多いのは部活動の地区大会だろう。  そんな中、聞いたことはあるものの存在しないと噂されている中学校を紹介する。  市内の中学校を調べてみたところ、想像以上の数があった。と言うのも、筆者は文化部に所属していたため、知っている学校はごく一部に過ぎなかったのだ。  その中でも多くは学校名に地名が付いているため、何となくの場所は推測でき

エッセイ#45『ほんとにあった夢十夜⑥』

 地元の大通りで何かが催されているような気がしたので、散歩ながら行ってみると、何やら急に一人称視点に切り替わった。画面の右下には残り時間と共に、毎秒200円ずつ増えていく賞金が表示されていた。  どうやら「逃走中」が始まったようだ。  私はひたすらに逃げた。賞金欲しさと言うよりは、せっかく参加してしまったのだから、どうせなら逃げ切って見せようという「勿体ない精神」のためである。  しかしながら、どこまでが行動可能範囲かはわからない。それにハンターが追って来る気配がないし、他の