エッセイ#48『冬の風鈴』

 夏の風物詩を10個挙げろ、と言われればほとんどの人が「風鈴」をその中に含めるだろう。風の音をわざわざ聞かずとも、冷風を発生させることが可能になった現代でも、その認識に違いはないはずだ。
 しかし、実際に涼しくなっているだろうか。恐らく風鈴は涼みを得るためのものではなく、そこに風があることを確認するための道具であり、実際の気温にも体感温度にも変化はないのではないだろうか。
 このように私はつい先日まで、風鈴に周囲を涼しくする機能はないと考えていた。所詮はただのガラスである。風鈴自体を首に直接当てた方がよっぽど涼しいだろう。こういった考えが正直なところだった。しかし私は、この考えを根底から覆す場面に遭遇したのだ。

 遡ること1週間、私は自宅付近のマンションの前を歩いていた。この日の気温は5℃を切っていたはずだ。
 両手をコートのポケット突っ込みながら寒さに耐えていると、不意に「チリン」という音が聞こえたかと思えば、一瞬にして周辺の寒さに拍車が掛かり、体の底から冷え切ってしまった。
 いったいこれはどうしたことか、と思い周囲を見渡すと、目の前のマンションのベランダに季節外れの風鈴が設置されているのが確認できた。なるほど、夏にぶら下げたまま取るのを忘れてしまったのか。
 この日を境に、私は風鈴という道具を少し見直した。きっとここ最近ずっと寒いのも、あの家が風鈴を出しっぱなしにしているためであろう。


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