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発想力は鍛えられる

アイデアがひらめくのはどんな時か?

 「J.K.ローリングは、あの有名な魔法使いのストーリーを電車の中で外の景色を見ているときにひらめいた」というのは、よく知られた話です。

 「アイデアがひらめいた場所に関するアンケート(※1)」によると、トップ3は「寝る前、ベッドや布団の中」が38.1%、「歩いているとき」30.0%、「お風呂やシャワーの中」が25.3%となっています。また中国では、ひらめきが多くあるのは、「馬上、枕上、厠上」なのだそうです。J.K.ローリングが電車で居眠りをしていたかどうかはわかりませんが、ひらめく瞬間には、なにやら共通項がありそうですね。

ここで、アイデアに関する一冊の名著を紹介します。
 James Webb Young ジェームズ・ウェブ・ヤング (1886~1973:アメリカ広告代理店業協会の会長)が書いた「A Technique for Producing Ideas:アイデアの作り方」です。アメリカでは1940年に、日本では1988年に発行された本ですが、現在も売れ続けています。メンタリストのDさんが紹介したことで更に注目されました。

 この本のエッセンスは、大きく二つあり、一つは「アイデアを作るときの大原則:原理」、もう一つは「具体的なアイデア作りのステップ」です。このどちらもが80年たった現代でも通用するので、ロングセラーとなっているわけです。

では、まず「大原則:原理」から、私なりの解釈をしてみます。
 「アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせである。」 
ヤング氏は、この著書の中でこう言っています。
少し言い換えれば、「もうすでにあるものを新しく組み合わせるのがアイデアだ」と言っているのです。「なんだ、そんなことか」と思うかもしれませんが、ゼロから何かをつくるのではなく、これまでにあるものの新しい組み合わせを変えることは、そんなに簡単にできることではなく、秘訣があるらしいのです。
さらに、「既存の要素を新しい一つの組み合わせに導く才能は、事物の関連性を見出す才能に依存する」とも言っています。漢字が多いので、少しだけかみ砕くと、「新しい組み合わせを見つけるのは、その関連性をうまく見つけられるかどうかにかかっている」ということです。
 「関連性を見つける」というのは、例えば「リンゴ」と「みかん」の関連性なら、「果物、丸い、甘い、片手で持てる、木になる、フルーツパフェ、、、」となります。まだまだ、出てきそうですね。
「SDG's」と「虫眼鏡」となるとどうでしょう。この二つの共通項を考えるとなるとちょっと簡単には出てきませんね。なぜかというと、「リンゴ、みかん、虫眼鏡」は、よく知っているものなので、いろいろと想像できるのですが、「SDG’s」となると、新しい概念でよくわからないから共通項が見つからず、関連性が見つけにくいのです。この「よくわからないから共通点が見つからない」というのは、この後の「アイデアづくりのステップ」で触れます。ここでは、共通項を見つけることが、発想力には重要な能力だと理解してください。
その関連性を見つける能力は、トレーニングによって向上します。私なりのトレーニング方法を二つ紹介します。一つ目は「むりやり共通項探し」です。例えば、二人以上でトレーニングするなら、それぞれが思いつくキーワードを一つ出し、そのキーワードの共通点をできるだけ多く見つけるという方法です。一人で自主トレするなら、朝のニュース番組の二つのニュースの見出しとか、電車の中で見た別の広告の言葉とか、読んでいる本の10ページと11ページの最初の言葉とか、無作為に選んだ言葉の共通項を考えてみるとよいと思います。「お笑い」が好きな人なら「なぞかけ」は、「共通項探し」そのものです。ネットで調べて、なぞかけの動画を見るとコツがわかると思います。「〇〇っち」という人が有名ですよね。
二つ目のトレーニング方法は、「カラーバス」です。カラーは色、バスは浴びるという意味です。色を浴びるという意味ですが、やり方は簡単です。朝のほうが頭は活発なので、朝、家を出る時がいいと思います。玄関を出るときに何か色を一色決めます。「赤」とか「白」とかです。そして学校なり会社なりに着くまでその色の物を見つけていく、それだけです。「あ、これも白か」「これもだ」と普段気づかなかったものに気付いていきます。するとそこから先は脳が勝手に働きだします。「なぜだろう」とか「共通点があるのだろうか」とか考え始めます。今まで気づかなかったことに気付くだけでも十分です。何かを見つける、気づきを促すトレーニングになります。

「アイデアは既存の要素の新しい組み合わせ」⇒「関連性を見つける才能に依存する」⇒「関連性を見つけるトレーニング」という流れをわかってもらえたところで、ヤング氏が言っている「アイデアづくりのステップ」について私なりの解説をしてみます。全部で5つのステップがあります。そしてそのステップは必ず1から5という順序を守らなければならないと氏は書いています。

ステップ1「情報収集」
 これは、当然ですね。「既存の要素の新しい組み合わせ」を見つけるわけですから、すでにある情報を入手しなければ新しく組み合わせることはできません。できるだけ多く、広く、深く情報を集める必要があります。この情報収集は、この本が日本で発行された1988年頃はとても大変でした。インターネットがまだ普及していませんでしたので、調べるとなると新聞や書籍、ニュースが中心です。過去の情報を得たいと思ったら、図書館に行って過去の新聞や雑誌を読み漁らなければなりませんでした。今ならPCの前で1時間も検索すれば、かなりの情報が集まります。
 集める情報の対象については、以前もお話ししたと思いますが、「深く」集めるのは、自分の専門に関する情報です。これはできるだけ深い情報を集めましょう。「広く」というのは、一般的なこと、あらゆる分野のことをそれほど深くなくてかまいませんので広く知っておきましょう。政治関連、国際的な情報、経済に関してもです。先ほどの「SDG’s]など新しい概念の言葉も収集の対象ですね。これらをできるだけ多く収集することが、「新しい組み合わせ」、「アイデア出し」、「発想力」につながっていきます。

ステップ2 情報の分析
 収集した情報の分類をするということなのですが、一つひとつの情報をどのようなキーワードにまとめるか、そのキーワードをどのようにカテゴライズするかということが重要なポイントとなります。ちょっと前までは、キーワードを付箋紙に書いて、グルーピングするという方法でカテゴライズしましたが、今はいろいろなデータベースソフト、アプリがあるので駆使するとよいと思います。一度集めた情報はあなたの財産ですから上手にストックし、いつでも引き出せるようにしておくとよいと思います。
 このステップ2を進める時に、先ほどの「関連性を見つける能力」が必要になります。ユニークな視点で、ほかの人が見つけないような関連性をどれだけ見つけられるかがこのステップの重要なポイントです。普段から情報収集が習慣化され、常に新しい情報を入手し、その情報とこれまでの情報を関連付けていくことができている人にとっては、それほど難しくないと思います。しかし、ヤング氏は、「このステップが一番苦しいはず、ここが苦しくないようなら、よいアイデアは出ない」と言っています。もうこれ以上ムリと思うまで、情報とにらめっこしてください。「これとこれを組み合わせたらどうかしら?」「これならどうなる?」「この組み合わせは試してみたかな」「こっちを拡大して、こっちを縮小してみるか」などと・・・・。

ステップ3 忘れる
 「小さなカオスを意識的に導入することで、思いもよらない『偶然(セレンディピティ)』が生まれる」とオリ・オブライエン、ジューダ・ポラックは、その著書「ひらめきはカオスから生まれる」の中で言っています。
 「カオス」というのは「混沌」という意味で、ぐちゃぐちゃになった状態です。ステップ2の「もうムリ」となった状態のことです。その状態を作り出したところに、セレンディピティ(偶然)は起こると言っているのです。カオス(混沌:ぐちゃぐちゃ状態)を経験した後の平穏な状態の中でこそ、新たな発見という偶然が起こるということです。
 冒頭に挙げたJ・K・ローリングの電車の中、寝る前や歩いているとき、お風呂の中、「馬上、枕上、厠上」などのアイデアを「ひらめいた瞬間」は、みな「混沌から離れた静寂で平穏な状態の時」なのです。ステップ1、2を経ずにステップ3に入ったのでは、ひらめきは起こりません。ステップ2で「もうムリ」となった状態から解放されることが必要なのです。とことん情報収集し、分析した後はそのことを忘れる時間をつくること、カオスの後の平穏が必要なのです。
 こんな研究(※2)があります。「ひらめき力を要する問題を解いている際、正解者は、右脳と左脳が協調して機能している」というものです。集中して考えるときに働く左脳だけでなく、何かリラックスできることをする、好きな音楽を聴く、好きな映画を見る、好きな場所に行くなど、右脳が働くように仕掛けるとひらめきを促すことにつながります。有名なシャーロックホームズが、謎を解く前にはバイオリンを弾き、杉下右京が紅茶を飲むように!

ステップ4 突然の発想
「休息とくつろぎの時に、アイデアは突然訪れる」(J・W・ヤング)
思わぬ時にひらめきます。私自身も、講義や研修のナイスアイデアを思いついた瞬間は、階段を下りているときだったり、玄関から一歩外へ出たときだったりします。ベッドに入った時や起きようとした時というのもよく聞きます。ひらめきはいつ来るかわかりませんので、いつ来てもいいように準備しておいてください。必需品はメモです。すぐメモできるように枕元にはメモを置いて寝るといった作家がいました。今ならスマホのボイスメモがいいですね。

ステップ5 形にする
発想はすぐに形にしましょう。完全なものであれば、なおよいのですが、そうでなくても形にすることが重要です。なぜかというと、形にして自分以外の誰かのコメントをもらうことで、そのアイデアはさらによくなる可能性があるからです。まずは信頼できる誰かに見せ、コメントをもらいましょう。絶賛されることもあるでしょうし、批判してくれることもあるでしょう。絶賛なら自信になります。批判なら改善できます。そして改善を繰り返しながらより多くの人の意見をもらう場にアイデアを出していきましょう。今ならTwitter、Instagram、YouTube、ticktockなどいろいろ便利な手段がありますね。

最後に「あれこれ考える」ヒントとなるフレームワーク(※3)を提示しておきます。頭文字をとって「SCAMPER:スキャンパー」(アレックス・F・オズボーン/ボブ・エバール考案)と呼ばれている方法です。

Substitute:入れ替えてみたらどうなるか?
Combine:結合してみたら? くっつけてみたら?
Adapt:応用してみたら?
Modify:変えてみる(大きくする、強調する)
Put other uses:ほかの使い方
Eliminate:なくす とる
Rearrange/Reverse:並べかえる/逆にする

もともと水で作っていたものを炭酸水に入れ替えたら大ヒット⇒①
自転車と発電用のエンジンを結合したら便利になった⇒②
板チョコの割れ方を応用したら使いやすくなった⇒③
ビールの原材料を変えてみたら安くて大ヒット⇒④
すぐくっつくけどすぐにはがれてしまう接着剤、使い方を変えたら⇒⑤
文字入力のボタンをなくしたら、画面も広く便利に⇒⑥
開き方を逆にしたら手が濡れなくなった⇒⑦

①コーラ ②本田技研バイクの原型 ③オルファカッター ④発泡酒 
⑤ポストイット ⑥スマートホン ⑦車用の傘

今回は、ここまでです。

では、また!

※1 「ひらめきの瞬間」アンケート調査 (株)ワコムが実施
   :2016年11月発表
※2 2018年10月 株式会社SCRAP実施:古賀良彦杏林大名誉教授監修
※3 「フレームワーク」とは、いろいろな場面で応用できる分析、決定、
   解決手法のこと。

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