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新田漣『君と笑顔が見たいだけ』を読んだ。「面白かった」の五文字以外の無粋なことまでワイは書く。面白かった!

ネタバレは無いですが感じ取るスメルや物語のテンションに触れます。
気を遣いながらnoteを書くつもりですがそういう空気も知らないまま読みたいんだという方は、とりあえず買って読んでからお進みください。リンクを置いておきますね。

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あと、私が今ラノベ作家になりたく公募にも出したりweb小説を書く立場なので、保つように努力している読者としての視点と、小説を執筆したい自分が混在した感想になります。
この小説の感想はこの宣言が大事なので。


最初にサクッとどっかにレビューを投下するとしたら何書くかみたいな内容を

めっちゃ面白いです。笑いました。読んでよかった。
かっこつけた批評家を気取っても★4か5を付けざるを得ないほど楽しめました。

内容とは関係ない文章的な部分でみても、とても上手でいっきに読めました。過不足なく、おもしろく正確な一人称俺くんの地の文とずっと味がするのに義務さを感じない会話文。一人称の不自由さも感じず。うまいって思いました。

誰に読んで欲しいかと言われると、何かをやりたいけどやれない高校生とか大学生がいいなって思いました。あと詳しくは後述にてになりますが、けっきょく何者にもなれていない何者かになりたかった亡霊を心に抱えるおじさんにも刺さると思います。なんなら後者がメインターゲットなんじゃないかと思うほどぐっさぐさ。

でも「おもしろい」「面白かった」(漢字変換はあえて)に落としこんでくれるので安心して読んで刺されような!
おもしろいから!

「俺、ビッグ志望なんで」って強気に言える学生とかはもう絶対読んだほうがいい。web小説界隈のSNSにも刺さりそう。

逆にどんな人は避けたほうがいいかもしれないかっていうと、今参っちゃってて療養中の人とかかな。もう一度リアルと戦える見込みが立っているくらいなら勇気づけられるとは思うのですが、療養中の社会人は避けてほしいかもとは思う。説教パートありで受け止め方もけっこう強さが必要な感じ。

漫才シーンがすごくて、声がなぜか聞こえてくるすごい体験でした。ネタも面白かった。笑ってしまった。

映像・舞台分野での時間の使い方を地の文でやっているのですね。すごい発明です。

以下は空気感や雰囲気のネタバレを含みつつ、詳細になりますので読むなら覚悟と注意をしてね。

本作は、主人公が持つヒロインラブの熱量が高いラブコメです。
読者体験としては、キャラクターっぽいヒロインを楽しんで「だれだれ推し!」とやるタイプのラノベではなく、ジュブナイル小説よろしく熱さと恋とすげーやつらが見れる青春モノです。

以前、作者もSNSかnoteで好きと言っていた気がする森見登美彦の内容を高校生青春モノにして現代の若手の感性とテンションにしつつラノベに昇華させた感じもある。

ここからは小見出しをつけて語っていこうかね。

■舞台が京都なんだけど

京都が舞台。京都いいよね。
で、本作品の中にはよく知る名前のチェーン店が効果的に使われているのです。サイゼとかね。

作中にもキャラが共感を呼ぶ方法として語っているシーンがあります。

氏のもつ創作論の一つを読んでいるかのような感じになりつつも、出し方や出すタイミングがうまいなって思いました。仕方なく伝わらないから実在の名前を出しちゃうパターンって多いですが本作はそれを感じずとても上手。すごい。

■ギャグがテンポよくてずっと楽しく読める

題材がお笑いなのですが、お笑いだからというわけではなく同作者の前作よろしく終始ギャグで読ませ続ける力があります。地の文もきれいで適切な長さが保たれていて読みやすい。

さて、ギャグが要因なのかその他もろもろが要因なのか要素を抽出するには切り分けが難しいですが、100ページが一時間ちょっとで到達という私の標準的な文庫本小説の読書ペースで読んでいた本作、体感ではあっという間でした。すごいですね。作者の技量の高さが光っています。

前作もこういう傾向があったのですが前作よりパワーアップしてました。ほえ~すごい人って一段登るとまた次を登っていくんだな~って思いましたわ。自分もそうなりたいものです。

■キャラ。特に主人公

みんなめちゃくちゃいいやつです。

バンドの相対性理論スキーなので相対性理論をすぐに持ち出すオタクなのですが、脳内で『気になるあの娘』がずっと流れているほど、奇人変人に見えて「気になるあのこの頭の中は普通普通割と普通」な人が多いです。全体的にリアリスト傾向かな(234ページの台詞とは関係なく)。わきまえています。わきまえていますが、いいやつなので前向きで生産的って感じですね。

さて、なんといっても最強に魅力的なのは主人公俺くんです。

男性からも人気が高そうな男キャラがそれぞれ突き進む姿はぐんぐん読めてしまいます。下手したら物語がなくても読めちゃうだろうなってくらいおもしろいです。
なんとなく、この辺の味わいは漫画およびアニメの『ホリミヤ』『堀さんと宮村くん』が似てるきがしました。これらは女性からも人気なモテる男女の青春という感じでしたが、本作はそれが男性視点になった感じがある気がします。

主人公が最高にいいわけですが、主人公がいいってすごいことなんですよ。この「ギャグがテンポよくてずっと楽しく読める」の項目と「キャラ。特に主人公」の項目が先述の森見登美彦っぽさな気がします。ただ、森見登美彦のキャラクターたちよりはリアリストなので距離感が近いですね。共感する感じ。

この、距離感が近くて共感する感じがラノベっぽさという気配だと思ったかも。

■ラブコメと青春モノの温度感

ラブコメと見せかけて120ページあたりから物語が動き出し、そのあとすぐ140ページあたりからはがっつり青春モノになります。このあとこの辺について触れていきますね。

ラブコメとしては主人公→ヒロインの矢印が序盤は濃く、物語も一人称俺くんが持前の破天荒さでぐいぐい物語を引っ張っていきます。一人称視点ということもあり、物事が起こったときにしっかりした地の文で読者と物語の内容をつないでくる、とても素晴らしい主人公です。セルフ狂言回しというか一人称狂言回し。

絶対モテる。

でもしっかりラブコメになってるんですよ。

私、たいていのことにおいて結果より経過から気づいたり得られた契機を大事にする主義過激派なんですが、そこに至るまでの流れが好みすぎて231ページ目の綿貫くんの台詞で思わず読者も「マジでそれ」と学生語の相槌を打ってしまうほど恋愛がどうなるかも気にさせられます。くぅ~。

242ページなんて最高ですよね。242ページの紙一枚、印刷して普段自分が執筆するデスクに貼っておこうと思ったくらいの名シーンというか名文だったと思います。くぅ~!

■得られる感情

笑える感情、熱さ、苦しい、反骨精神、リアリスト、人生への後悔や懺悔感情、気持ちよさ、青春、そして恋愛。友達感。がんばらなきゃって感情だとか、頑張ろうって感情も強いね。
あと同作者が書く他作品も含むモテそうな若い男女は、全員会話をもっと聞いていたいという気持ちにさせられるのです。220ページのやつとか、たまらんね。もっとみたい。読ませてくれてありがとうとも思いました。

■何者にもなれていない何者かになりたかった亡霊を心に抱えるおじさんに刺さった話

140ページ辺りからの台詞ですね。まるで私の人生の説教や、他人からみた私の人間像へのクレームかと思いました。たはは耳が痛い。

でもまさにその通りなんですよね。うーんいっぱい見た光景。変なマルチや怪しい団体の勧誘、そういう人を食い物にしようとするウェビナーや教材販売、人を所属させること自体が目的のエセプロダクション。コンサルファームを出てない謎の出自の自称コンサル。こういう人が出ない分、本中はとてもマイルドではあるか。吐いてるくらいで済んだのなら人生にダメージは無いよね。

ちなみに私は吐いたしトイレに逃げたし、しれっとした顔してるのにうまくいってる奴が憎くて仕方なかったし、けっこうな人数の前で大泣きしたし、実家が太くてずっとやれるやつに暴言吐いてそのあと会ってない程度の無傷で済んだタイプの何者にもなれていない何者かになりたかった亡霊を心にかかえる普通のおじさん。その程度の無傷の何者でもないおじさんでも刺さったんだよなあ。

何が一番刺さったって、そういう方向性の鋭すぎる正論を刺してくるシーンがあるんですがそれに対する主人公のスタンスというか言葉がすっごく刺さったんですよね。読んでて興奮した。興奮しすぎて発狂するかと思った。

でも主人公があまりにもかっこよくてさ、亡霊なりにラブコメと青春をギリギリ発狂しなかったメンタルで楽しんでいた読者俺氏も、252ページで救われるわけ。
昨今読んだ小説で一番かっけえよ。主人公。

こうして全体313ページの251ページ目で主人公が完全に好きになって、最後まで最高な感じで駆け抜けていった感じでしたね。ここから先はぼかすわ。とにかくこの残り50ページに気になることや欲しかったやつがいっぱい詰まってるから。そして超おもしろいから皆買って読んでみてね!

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小説書きとして今回特に「ほえ~」って思ったこと

文章のタイミング、声が聞こえてきたことやいわゆる構成や構成に対する感情の波の作り方などなど色々あるのですが、なんとなくこれすごいかもなって思ったのはエロモチーフの使い方かも。

エロだったりえっちぃモチーフって、まあ気になる人が多かったりするじゃないですか。一方で嫌な気持ちになったりする人もいる。
そのバランス感覚がすごい上手だったと思うんです。バランス感覚がいいから、手札として使えている感じがあったというか。

エロだったり性のことをラブコメシーンや題材でいい感じに出すには何パターンかあると思っているのですが、今回の話で思ったのは「嫌な感じが一切しないエロモチーフだけを使ったギャグ」が数回あって、これってやっぱアリだよなあって思ったんですよね。

ぶっちゃけ私は余裕で欲情するむっつりスケベなくせにエロい話ってめっちゃ苦手で、なのに恋愛モノや恋愛要素が大好物なのでいつも小説にエロスのスメルを感じるモチーフを入れる方法に悩んでいるんです。

で、同じテンションで忌避感を持っていたりする人って意外と多いなとも思っているんですよね。

でも私はなんやかんや気になっちゃうし、自作ともなればなんなら究極で美しいパーフェクトエロスなスメルをむわんむわんと発生させたい。

この矛盾したムッツリーニの中に、昨今だと全方向配慮やコンプラ意識がぐにゃりぐにゃりと渦巻いているのでなかなかうまくいってなかったのでございます。

作中にも一瞬だけ主人公がコンプラ意識に触れるセリフがありましたが、たぶん作者の持つコンプラ意識がすごく高いんだと思うんですよね。あと作中のキャラと同じように気が遣える。

これは盗みた……参考にしたいなって思いました。

あと最序盤も、時系列を飛ばすホットスタートではないのにごく短い文字量で作品のテンションとキャラの特徴が全部わかりつつこっちをあっためにくるのでうまいなあって思いました。まあ序盤問題は色んな人がうまいですが、何を参考にしたって形にするってのは凄まじいことなわけですよ。

おわりに

えっ。4600文字書いてるらしい。

作者のSNSが好きで日頃から見ているのですが、私は本作の登場人物に負けないくらい(いや、以上に)人間関係に難があるのでどういうテンションの感想が欲しいか読み取れず、まあありのまま書きたかったことを書くか、と思ったらこのようなことになりました。

この後、申請があれば普通に消します。

ですがいったんは読んだ直後の熱量のままばーっと書いたこの感想を置かせていただけましたら幸いです。

みんな、買おうな!
「面白かった」し、笑えるよ。

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生きるためになるべく頑張ります