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女子の受けられる難関高校が少ない理由に関する一考察

 首都圏進学校を巡る一つの定説として、「女子は中学受験をした方が良い」というものがある。女子の受けられる私立高校が極端に少ないことが理由である。超進学校の桜蔭は高校募集を行っていない。女子学院や雙葉も同様だ。豊島岡も高校募集を打ち切った。中堅校も似たような状態だ。学力上位層の女子が入れる進学校は高校受験の場合、国立附属と公立上位校に限られる。こうした女子の受験を取り巻く状況が困難なのは一体どういった理由によるものなのだろうか。

 学歴とジェンダーを巡る問題には近年は多数の議論が巻き起こっており、私にはこれらの議論に意見できる準備がない。したがって今回の考察では「どうあるべきか」ではなく、「なぜこうなっているのか」を推測したいと思う。

女子は青田買いされている?

 男女には成長段階の差がある。これは紛れもない科学的事実である。女子は第二次性徴が男子より2年ほど早い。したがって学力に関しても女子は早伸び型である可能性がある。このことが意味するのはどういった事態だろうか。

 男子は成長が遅いので、中学受験に向かない生徒が一定数存在する。したがって中学受験で鳴かず飛ばずだった人間がとてつもなく学力を伸ばすことが多い。かの河野玄斗氏が開成中学に不合格だったことを挙げれば十分だろう。こうした後伸び型は高校受験で超進学校に進学することが多かった。高校受験市場に後伸び型の優秀な生徒が参戦してくるので進学校の側も高校募集を行うメリットが大きいのである。

 一方で女子はどうだろうか。女子は中学受験でほぼ序列が固まっているので、中学受験の上位層がそのまま大学受験の上位層になる。中学受験のリベンジや見送りで高校受験市場に出てくる女子は少なく、その僅かな優秀層は日比谷や国立附属に流れてしまう。したがって学力の高い女子を私立高はほとんど獲得できないという説だ。

男女の能力差?

 男女に能力差があるという可能性もある。男子はサボっていても高3あたりからグングン成績を伸ばし難関大に合格することが多い。中には浪人したからとてつもなく伸びる者もいる。一方で女子は早伸び型・コツコツ型という定説がある。このことが意味するのは女子は中高一貫カリキュラムとの親和性が高いということだ。

 男子の中には公立高校に進学し、高3辺りから本気で勉強を始め、浪人して東大に合格するという者がかなりの人数存在する。中高一貫校に通っていたが、一年分サボってしまったため公立高校に通うのと全く変わらなかったという者はかなりの割合で存在する。東大理三にいく最上位層を除けば男子はそこまで中高一貫カリキュラムを活かせないと言える。

 一方で女子は先行逃げ切り型であり真面目にコツコツ勉強するので中高一貫校で6年間頑張ることが重要だ。実際に桜蔭高校の卓越した進学実績は大部分が鉄緑会の貢献によるものだ。要するに高校から入ってくる女子は進学実績を残せないため、募集をしても仕方がないと思われている可能性である。

人間関係への配慮?

 こればかりは経験論に基づくしかないが、女性は人間関係の調和を重視する傾向が強い。こうした状態で新しく外部から生徒が入ってきたらどうだろうか。馴染めずにストレスをためてしまうのではないか。

 筆者の知人で中学受験で某名門女子校に入学した者がいる。しかし、小学校上がりの内部生との人間関係がうまく行かず、病んで中退してしまった。女子の場合はこうした「内部生リスク」が顕在化しやすい可能性がある。

 私立女子高が高校募集を行わない理由として内部生と外部生の折り合いが悪いからということは実際に指摘されている。学校の側もこうした問題は避けたいだろう。進学実績とは別の教育的配慮により女子の高校募集を行っていないという説が考えられる。

 一方で男子は女子ほど内向きではない。大企業の男性が内向きになるのは内部の出世競争が絡むからだ。「よそ者」に限られたポストが奪われるのを恐れて団結して排除するということだ。しかし、大学受験は外向きの競争であり、学校内で「出世」しても無意味だ。外資やベンチャーに近い。だから女子に比べると排他性が低い。

私立女子高は下から行ってナンボ?

 ここ数十年、女子教育を巡る構造は劇的に変化しつつしある。私立女子大の衰退はその一端であろう。1980年代までは東大に合格するレベルの人間が御茶ノ水女子大学やその他の女子大に進学するという事例が極めて多かった。津田塾や日本女子大は現在の早慶に近い立ち位置であった。
 
 女子の教育歴として伝統的に重視された要素として「お嬢様」というものがある。偏差値云々とは別に、下から私立に通って箱入りであることにプレミアが付くということである。男子の場合は一般社会に混ざって競争に勝ち上がることが要求されるのとは対象的だ。 端的に言えば「お嬢様」は褒められるが、「お坊ちゃん」はバカにされるのである。

 私立女子高は伝統が深いのでこうした伝統的なジェンダー観を引きずっている。したがって私立女子高は純粋培養で生徒を育てることを重視している可能性がある。現に横浜雙葉など小中高一貫の名門校はいくつか存在する。男子には見られない形態だ。

 男子進学校のマインドは全く異なる。こうした学校は実力を尊ぶ。可能なら高校からでも優秀な生徒を奪い取りたいと考えている。実際に灘や開成は頑なに高校募集を続けている。中高6年間を温室育ちで育てるのではなく、高校から優秀な生徒を入れて中だるみを刺激したいというのが男子校の教育方針なのだ。

女子の高校受験はイバラの道なのか?

 これらのどの説が正しいのかは分からない。全て当てはまっている可能性もあるし、全て間違っている可能性もある。
 もし女子の優秀層が薄いという説が正しい場合、高校から入れる私立進学校が少ないことが即ち女子の不遇を意味するとは言えない。実力相応の難関校の需給バランスは保たれているからだ。
 一方で中高一貫カリキュラムの親和性の高さや私立女子高の内部事情が理由の場合は女子は中学受験で名門校に受かる必要性が高いことになる。

 また、こうした構造に正のフィードバックが働いている可能性もある。高校から女子が入れる難関校が少ないことが女子の中学受験志向を高め、高校受験市場に女子が出てこなくなる。すると私立女子高は高校募集をしても良い生徒が取れないので募集を打ち切る。実際にこうしたウロボロスのような現象は、学歴や職歴を巡る様々なヒエラルキーに見られることである。


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