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イスラエル・ハマスの停戦は予定通り流れてしまう模様

 イスラエルとハマスが6週間の停戦を合意したというニュースが先日流れたが、案の定再び交渉は停滞しているようだ。エジプトで行われる和平会議にイスラエルは代表団を派遣していない。理由はハマスから人質のリストが送られてこないからということのようだ。両者の条件は折り合いが付きそうにない。ハマスは人質の返還と引き換えの恒久的停戦を求めているが、イスラエルはこの条件をどうにも受け入れたくないようだ。

 停戦交渉が流れることは事前にわかっていたことだ。恐らくはアメリカの圧力によってポーズを示したのだろうが、イスラエルは本心では戦争を続けたいはずだ。ネタニヤフは以前から2024年いっぱい戦争は続くと言っていたし、ラファへの侵攻も行うと明言していた。停戦をしてもラファへの軍事作戦は行うとの発言もあった。どういうことなのだろうか。小泉進次郎であれば「停戦とは停戦することなんですよ」と諭すに違いない。

 イスラエルは停戦する気は毛頭ない。人質の返還すら優先順位としては後だ。この方針がネタニヤフ政権からうっすらと透けて見えるため、人質の家族は抗議運動を続けている。イスラエルの目的はハマスの物理的な排除だ。10月7日の攻撃を受けてイスラエルはハマスとの共存は不可能だと判断し、前例のない大規模攻撃でハマス殲滅を達成しようとしている。今ここで停戦したら戦争に負けてしまう。イスラエルは必ず南部のラファにも侵攻するだろうし、ガザ地区にハマスの存在を認めることはないだろう。イスラエルは今年いっぱい軍事作戦が続こうとも必ずハマスの殲滅を目指すはずだ。ハンユニスのハマス拠点はだいぶ掃討できたようだし、ガザシティも包囲下にある。あとはラファを叩けば概ねハマスの拠点は一層できる。問題はその後の占領統治だが、これは今は考えられそうにない。

イスラエルはまだガザ地区の半分ほどしか制圧できていない。
最南部ラファはまだハマスの支配地域だ。

 ハマスの勝利条件は簡単だ。それは生き残ることである。もしイスラエルが撤退するまで逃げ切ればハマスは再び元のガザの支配勢力に戻ることができる。ハマスが10月7日の攻撃を仕掛けたのはパレスチナ問題を目立たせるためであり、実際にこの目的を達成した。アラブ諸国はイスラエルとの関係改善をできなくなったし、ガザの民衆にもイスラエルへの憎悪を植え付けることができた。イスラエルの非人道性は国際社会で非難の的となり、ハマスにとって有利な状況が作られている。ハマスはただ生き残りさえすれば良い。パレスチナ紛争の宣伝戦・世論戦という事情がハマスの勝利条件を特殊なものにしている。

 この戦争は通常の二国家間の戦争とは全く異なる。ある種の鬼ごっこのようなものだ。ハマスは逃げ切れば勝利となる。イスラエルは何とか時間内にハマスを捕まえなければならない。時間制限となるのは国際社会の圧力だ。パレスチナ人の窮状に心を痛める人権活動家がイスラエルへ敵対的な世論を作り、イスラエルに停戦圧力をかけてくるだろう。それにイスラエルが屈する時がタイムリミットとなる。

 現時点でイスラエルが勝てるかは怪しくなっている。軍事的には圧倒的なのだが、戦場での勝利が戦争での勝利をもたらすとは限らないのが難しいところだ。現在の状況だと恒久的に停戦すればその時点でイスラエルの負けが確定するだろう。ハマスを何とか無条件降伏させられれば良いが、その可能性は極めて低い。唯一ありうるのはあまりの被害の大きさにガザで厭戦ムードが高まることだが、その可能性がどの程度あるかは誰も分からない。

 現在、ガザ地区の犠牲者数は3万人を超えたとの報道がなされた。これに加えてがれきの下には数千人の行方不明者が存在するらしい。体調を崩して亡くなった人も多いだろう。ここ最近は餓死者が続出しているとの情報もある。ガザ地区の犠牲者は4万人近いはずだ。ガザ地区の人口の2%に達しようとしている。

 しかし、戦闘はまだまだ続くだろう。以前の記事で戦争の死者は5万~6万に達するかもしれないと書いた。これはイスラエルとパレスチナが1:30の割合で犠牲者を出しているという過去の「相場」から計算したものだ。10月7日に殺されたイスラエル人1200人に加え、戦闘で死亡する兵士が500人~600人ほど出ることが予想され、人質の死者もカウントする必要がある。「相場」を考慮するとガザの犠牲者は5万人~6万人といった数字が導かれる。ネタニヤフ政権もこの辺りまでなら「相場通り」なので大丈夫だろうと判断しているのかもしれない。

 この算定が難しいのは、どこまでイスラエル軍の戦死者が増えるか分からないことだ。今のところガザへの報復攻撃で300人ほどが戦死している。パレスチナ人100人に対してイスラエル兵1人の割合だ。この計算だと戦闘終結までにあと200人ほどの戦死者が出ることになる。ただし、イスラエル軍が苦手にするのはその後の占領戦だ。第三次中東戦争でイスラエルは圧倒的な勝利をおさめたが、その後の「消耗戦争」ではるかに多くの犠牲を出した。レバノン戦争の時も似たような感じだった。イスラエルはやすやすとシリア軍やPLOを破ったのだが、その後の17年にわたるヒズボラとのゲリラ戦で多くの犠牲を出してしまった。今回のガザも似たような展開は充分に予想できる。そのことを考慮すると、イスラエルは5万6万を殺した程度ではつりあいがとれないかもしれない。

 今回の和平交渉の失敗ではっきりしたことは、ネタニヤフの宣言通りにラファへの侵攻は行われるし、戦闘は2024年の間も続くということだ。しばしば行う交渉への参加はおそらく西側諸国の国内世論をなだめる「儀式」でしかないだろう。仮にバイデン政権が強硬な制裁を行ったとしても、来る大統領選挙でトランプが勝利すれば帳消しであるため、イスラエルは止まらないと思われる。


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