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<地政学>近代の戦争における共産主義国強すぎ問題の理由は?

 前回の記事で途上国の軍隊はあまり強くないということを論じた。実際、近代になってから先進国と途上国の軍事力格差はすさまじいものになっている。西欧列強が地理的に遠く離れたアジアや新大陸を植民地支配していたのが良い例だろう。先進国の軍隊に途上国は全く歯が立たなかった。完全なワンサイドゲームになっている。

 例えば近代化が全く進んでいない清朝を考えてみよう。19世紀にはアヘン戦争・アロー戦争・日清戦争・義和団事件と壊滅的な敗北を喫している。西欧列強はユーラシアの反対側からやってきており、清朝には圧倒的な地の利があるはずだ。それにもかかわらず、ボロ負けである。比較的善戦したのは清仏戦争だが、それでも負けている。日清戦争に至っては近代化からまだ30も経っていない日本に敗れるありさまだ。

 このような例は枚挙に暇がない。二度の世界大戦においてもインドとかエジプトとか東南アジアの植民地の軍事的存在感はゼロだった。第二次世界大戦後の戦争を見ても、アラブ諸国は20倍の人口を持ちながら、イスラエルに一度たりとも勝利できていない。湾岸戦争のイラク軍も酷いありさまだった。この戦争でイラク軍は米軍の100倍の死者をだしている。イラク戦争でも20日でバグダッドは陥落している。

 他にも例を挙げればきりがないが、第三世界の軍隊は先進国を前に存在しないも同然であるということが分かるだろう。中所得国ですら怪しい。メキシコ軍は米墨戦争でアメリカ軍に首都を陥落させられている。太平洋戦争の時代の日本はかなり健闘した方だが、それでも米軍の20倍の犠牲を出して敗戦している。イタリア軍の弱さはたびたびネタにされている。戦争の帰趨を分ける最も重要な要素では人口でも地勢でも天然資源でもなく、一人当たりの豊かさであると感じる次第である。

 しかし、近代においても途上国が先進国の軍隊と対等に戦えた事例が存在する。それは独ソ戦・朝鮮戦争・ベトナム戦争だ。いずれも相手はドイツ軍とアメリカ軍という最も近代化が進んだ軍隊である。エチオピア戦争のイタリア軍のような弱体ではない。一人当たりの豊かさが低い国が軍隊同士の戦いで戦績を挙げられた例はほとんど見当たらない。

 これらの戦争の共通点はなにか。それは共産主義国である。共産主義国はメチャクチャ戦争に強いようだ。帝政ロシアはドイツ軍に敵わなかったが、ソ連赤軍はベルリンを陥落させている。ロシアが急に強くなったことは誰もが認識しているだろう。同様に、あれほど弱かった中国や朝鮮の軍隊が朝鮮戦争でアメリカ軍を38度線まで押し返しているのは非常に画期的だろう。ベトナム戦争に至ってはアメリカ軍を敗走させている。

 共産主義国に強みの一つは高い動員力である。途上国の弱みは社会の資源の一部しか軍事に回せないことにある。共産主義国はあらゆる経済活動を統制下に置いているので、より多くの資源を動員できるのだろう。朝鮮戦争の北朝鮮やベトナム戦争のベトナムでは人口の3%以上が戦死している。これは第一次世界大戦のフランスや第二次世界大戦の日本に該当する。貧困国には例が見られない高い動員率だ。両戦争で北朝鮮とベトナムは国家総力戦を戦っていたと言えるだろう。

 朝鮮戦争で韓国の戦死者は人口の1%にも満たないので、韓国は総力戦を戦えていなかったことになる。北朝鮮の人口は韓国の半分にもかかわらず、明らかに北の方が強かった理由の一つだろう。ここには徴兵能力・補給能力・軍隊の規律・戦時宣伝などいろいろな格差が反映されている。同様に南北ベトナムも南の方が人口が多かったにも関わらず、北の方が圧倒的に強い。

 さらに言うと、内戦においても共産党は強い。ロシア内戦で共産党の支持率は25%ほどだったが、全ての敵を打ち破ってロシアを再統一している。ここには干渉戦争によって送り込まれた列強の軍隊も含まれる。同様に国共内戦とかインドシナ独立戦争においても共産党は圧倒的な強さを見せた。スペイン内戦でも共和国軍はいつの間にか共産主義者ばかりになっていた。カンボジア内戦に至っては、ポルポト派の支持者は極めて少なかったのにも関わらず、他があまりにも弱すぎたのでポルポト派が圧倒的な軍事力をふるっていた。ポルポト派を駆逐したのも結局は共産主義のベトナム軍だった。

 第二次世界大戦中のレジスタンス運動を見てみると、フランス・イタリア・ギリシャで共産党の強さが目立つ。ユーゴとアルバニアでは実際に政権を獲得している。これらの国で共産党の支持率は高かったわけではない。他の政党の支持者であっても国を守りたい思いは共通だったはずだ。しかし、いざ戦争となるとやっぱり強いのは共産党なのである。ポーランドは例外的に共産党が弱かったが、これは大戦序盤のソ連の侵略の影響だろう。

 こうした強みの存在が共産主義国を他の発展途上国から分けて考えるべき理由なのだろう。ただ、興味深いのは共産主義が本来は軍隊とはあまり関係が無いことだ。共産主義は社会格差の是正を目的とした社会運動だ。共産党が無関係な軍事部門で強みを発揮し、肝心な経済政策で失敗ばかりというのは皮肉である。共産党は規律と上意下達を重んじる軍隊型の組織であり、共産主義体制は戦時体制との類似点が多い。こうした事情により、共産主義は圧倒的な軍事力を持つようになったと考えられる。

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