見出し画像

書籍18.『中野京子と読み解くフェルメールとオランダ黄金時代』~親しみを感じるオランダ絵画~

 「怖い絵」「名画の謎」「名画で読み解く」シリーズでお馴染み、西洋画を独自の視点で分かりやすく解説してくれる中野京子さんの書籍『フェルメールとオランダ黄金時代』を読みました。

 感想はというと「楽しいし、勉強になるし、中野作品はやっぱりおもしろい!」。絵画やヨーロッパ文化に興味のある方にはおすすめの一冊です。

◆感想

 本書では、フェルメールやレンブラント、ハルスなどの名画を楽しみながら、他のヨーロッパ諸国とは異なる歴史と発展を遂げたオランダの雰囲気を味わうことができます。

  特に絵画に関しては、著者曰く「フランス印象派より二世紀も先に、庶民のための芸術が生まれていた」とのこと。西洋絵画と言われると、神話や宗教、歴史の一場面を描いたものがほとんどで敷居の高いイメージを抱いてしまいますが、庶民の家にも飾られていたオランダ絵画の多くは安価で小ぶりだったそうです。

 扱うテーマも市民生活や日常、自然などの身近なものが多く、本書を読み終えてのオランダ絵画の印象は「親しみやすさ」でした。

ピーテル・ヤンセンス・エーリンハ『画家と読みものをする女性、掃除をする召使のいる室内』
Wikipedia より>

 さらに忘れてはならないのは、オランダ人の遊び心です。

 自由で独特な発想をもとに大衆娯楽として発展した絵画の流れを見ていると、だまし絵で有名なエッシャーというオランダ人画家が登場したのも納得です。

コルネリス・ノルベルトゥス・ヘイスブレヒツ『トロンプ・ルイユ、絵画の裏』
Wikipedia より>

◆中野京子作品の魅力

 中野京子さんの魅力は「なるほど」「へ~そうなんだ」の中に、読者が思わず共感してしまう視点「あ~分かるわ~」が散りばめられているところだと思います。

フェルメール『取り持ち女』
Wikipedia より>

 こちらは1656年に当時24歳のフェルメールが描いた『取り持ち女』です。

 取り持ち女とは娼婦と客の仲介役をする女性のことで、つまりこの作品は娼館の様子を描いています。「光の魔術師」の異名を持つフェルメール作品の特徴と言えば、静寂、ブルー、柔らかく繊細な女性を思い浮かべるなか、どう見てもこの作品は異色です。

 さて、ここでわたしが共感したのは、以下の箇所です。

さらにフェルメールファンをがっかりさせるのは、左端にいるにやついた男こそがフェルメールの肖像、との説だ。視線が鑑賞者に向いていることなどが証拠だというが、こればかりは個人的にあまり信じたくない説ではある。

中野 京子『中野京子と読み解くフェルメールとオランダ黄金時代 』
(文春e-book) (p.137). 文藝春秋. Kindle 版.

 うんうん。
 全くもって、同意します。


<本書で扱っている絵画>

 以下、本書で登場する絵画のリストです。
 ご興味のある方はご参考になさってください。

フェルメール『デルフト眺望』
ハイデン『アムステルダム旧教会とアウデゼイズ・フォールブルグワル運河の眺め』

ベラスケス『ブレダ 開城』
ルーベンス『戦争の惨禍』

ハルス『ハールレムの聖ゲオルギウス市民隊幹部の宴会』
レンブラント『夜警』

ハルス『ハールレム養老院の女性理事たち』
メーリアン『コショウソウとスリナムのヒキガエル』
フェルメール『真珠の耳飾りの少女』

エーリンハ『画家と読みものをする女性、掃除をする召使のいる室内』
フェルメール『信仰の寓意』
ステーン『陽気な家族』

ウィッテ『ゴシック教会の内部』
フェルメール『真珠の首飾り』
レンブラント『放蕩息子の帰還』

ロイスダール『ワイク・バイ・ドゥールステーデの風車』
バクハイゼン『アムステルダムのアイ港のフリゲート艦 デ・プルーフ』

ステーンウェイク『静物。虚栄の寓意』
ロンギ『サイのクララ』

フェルメール『地理学者』
レンブラント『テュルプ博士の解剖学講義』
スワネンブルク『ライデン大学解剖劇場』

フェルメール『牛乳を注ぐ女』
ペーテルス『魚の静物画』
ポッテル『雄牛』

ボロンヒヤ『花の静物画』
ヤン・ブリューゲル二世『チューリップ・マニア』」

ボルフ『父の訓戒』
ヴィレ『父の訓戒』(複製 版画)
フェルメール『取り持ち女』

サーンレダム『ベーフェルウェイクに打ち上げられた鯨』
プール『1654年の爆発後のデルフトの眺め』
バーン『デ・ウィット兄弟の亡骸』

メツー『手紙を書く男』『手紙を読む女』
フェルメール『窓辺で手紙を読む女』

ステーン『宿屋の外で九柱戯をする人々』
アーフェルカンプ『スケーターたちの冬景色
ヘイスブレヒツ『トロンプ・ルイユ、絵画の裏』


<関連動画>


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?