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6月の夕日

季節の風が通り過ぎたら静かに思い出した。

独特の湿り気と偶に涼しさを感じるこの季節。五感は案外しっかり覚えているようだ。

あの頃は知りたくもない事実でも今から思えばただの思い出。好きなあの人に彼女がいると知ったのもこんな時期だった。大学の帰り道、並ぶ2人の後ろ姿を見たことがあった。なんとなくすぐに分かった。ただ並んで歩いているだけだけれど。だって女だから。この鬱陶しい湿り気と共に押し潰されそうになった。知らなければ良かったのに。見なければ良かったのに。でもきっとあたしは女だからどんな形でも気付いていた。女の勘なんてなければよかったのに。
でもずっと知らないまま走り切ってしまったら。きっと臆病な私に走り切る勇気はあるまい。

6月の夕方は長い。なかなか沈まない夕日を多摩川の橋から電車に乗りながらずっと眺めていた。

そんなことを考えながら。


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