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ドイツ語と英語と日本語と 3ヶ国語話者な物理学者の日常

僕は物理学者としてドイツの大学で勤務しています。

職場で使用する言語は主にドイツ語。
仕事や研究に関する、同僚や学生との話し合いや打ち合わせはドイツ語を使います。

ドイツ語話者ではない人がいる場面、ドイツ以外の人々とのオンライン会議、また研究に関する国際的な会合等では英語を使います。

職場から離れ、私的な生活でのやりとりは100%ドイツ語です。

タイトルに書いた3つの言語。この並びの順番(ドイツ語・英語・日本語)は、僕がこの3つの言語を使う頻度の現在の順番になっています。

日本語を使う機会はほとんどありません。

例えば、日本語で誰かと話をする機会は、今週は一度もありませんでした。これはとくべつなことではなくて、一年に一回、夏季休暇で日本に滞在する以外は、日本語を話す機会は僕はほとんどありません。

ドイツ語・英語と日本語の違いは色々あるけれど、個人的に最近特に感じるのは、関係代名詞・関係副詞が日本語にはない、ということです。

ドイツ語・英語では、ある一つのセンテンスを話し終わっても、そこに何か付け加えて話したいときには、関係代名詞・関係副詞を使って話を続けられる。

日本語ではどうでしょう。もしかすると僕はドイツ語や英語の関係代名詞・関係副詞みたいな表現を使って日本語を話しているのかも知れません。これはあまり流暢でスムーズな表現ではないなと自分で思います。

例えば、何か一つのセンテンスを話し終わったあとで「そしてそれは」「そしてそのとき」などと言って次のセンテンスを続ける、そんな表現です。


前回の日本滞在の際、谷崎潤一郎の著作である「文章読本」を購入してドイツに持ち帰り、時々読んでいます。日本語の名文とはいかなるものか、美しい文章を書くのに留意する点は何か、また諸外国語と日本語との相違は何かなどが書かれていて、大変勉強になっています。

ところで、この「文章読本」の中で、谷崎氏はドイツ語と英語について少し言及しています。この内容が興味深い。

谷崎氏によると、欧州の言語の中ではドイツ語は最も学びやすく、英語が最も難しいとのこと。

その理由は、ドイツ語は文法等の規則に従う言語なため、規則を覚えてしまえばあとは難しくないが、英語はさまざまな例外があるため、規則を覚えても難しい。

僕の視点からは、ドイツ語は文法規則が英語よりも格段にややこしい上に、規則に従わない例外が多い言語に見えます。僕は過去に少しフランス語を学んだけれど、僕にはフランス語よりもドイツ語のほうが複雑で習得に時間がかかるように見えます。

一方、英語はドイツ語に比べると文法規則があまり複雑でなく、またドイツ語と同程度に例外がある、そんな印象を僕は持っています。

尤も、初見の言葉をつづり(スペル)を見て正しく発音できるかどうかについては、ドイツ語は基本的に規則に従って発音するため、この点についてはドイツ語に軍配が上がります。

英語は初見の言葉のつづりを見てもどう発音すべきか分からないことがあります。英語の不規則性はこんなところにもあるように僕には思えます。

さて日本語の難しさはどこにあるでしょう。先に述べたように、日本語には関係代名詞・関係副詞がないため、文章構造や意味が曖昧になることがあるように僕には見えます。また、日本語は主語を省略できるのも大きな特徴で、これは便利でありまた日本語を難しくしているでしょう。

この主語の省略表現、大抵は文脈(コンテクスト)や状況を元にして、主語を想像して文章を解釈する必要があると僕は思います。ひさしぶりに日本に滞在して、他者とのやりとりの中で主語が省略されると、解釈にあいまいさが残るため、僕は時々「だれが・なにがそうしたの?」と尋ねてしまうことがあります。

そんな自分を反省すると、少しづつでも着実にこうした文脈から会話の意味を解釈する、日本語独特の能力が失われつつあるのだなぁと最近感じています。

ドイツ語と英語と日本語。
この3つの言葉を比較したり同じ意味の表現を探したりしているうちに、僕は言葉の使い方や言葉自身の使用に繊細に・敏感になっているようです。

これからも言葉を大切に使って生活していきたいものです。



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