新卒で入社した会社の話18

7月に入った。

次の就職先も決まらない。

というか、病院に行き始めてからは応募すらも疲れて停めていた。

もう、当分お休みしてもいいかもしれない。
実家暮らしだし、失うものも何もない。


同じ営業所の人たちにも私の退職が伝わったのだろう。

営業部の鉾田は、帰社するなりニヤニヤしながら私を見ている。
オネェ気質の岡崎は、とても寂しそうな顔をしながら私を見てきて

「ファーファちゃん・・・」

と言う。聞こえないふりをすることしかできない。

唯一の女性営業、七坂は、帰社時に私にメモを渡してきた。

「話はいろいろ聞いたよ!今度ご飯行こう!メアドは〜」

ただ野次馬根性で話しかけてきてるのかもしれないけど、純粋に嬉しかった。この七坂は私より3つ上の先輩で、椎村があまり好いていないのはわかっていたから、話を聞いてもらえるのはこちらも楽しみだった。

営業部の山茂は、たまたま受け取った電話で「聞いたよ〜。相談してよ〜」と言ってきた。

大きく行動に出ると、他人はこういう反応をするんだな。というのを冷静に感じていた。


ある時、所長から

「ファーファさん、送別会はどこでしようか?」

と聞いてきた。

冗談じゃない。あれほど会社の飲み会なんて嫌いなのに、どうして嫌いなもので送り出されなきゃならない。

「いや、送別会は本当に大丈夫です。お気持ちだけで嬉しいです」

社交辞令と受け取ったのだろう。

「いやいや、そんなこと言わずに」

どうせこいつも送別会をトリガーに憂さ晴らししたいだけだろと。

「いや、もう本当に大丈夫なんで」

しつこさにイライラしてきた。

このやりとりを見ていた椎村が

「えー、やろうよー」

と言ってくる。

「だったら私抜きでしてください。私はもういいんで」

「だったら送別会じゃないよ笑」


普通だったら笑える話だろうが、心から送別会なんてしてほしくなかった。

きっと根掘り葉掘り聞かれる。

「次どこ行くの?」「なんで辞めるの?」

とかさ。

「前もお話しした通り、体調不良で辞めるので、そう言う飲み会もしんどいです」

と言って、どうにか食い下がってくれた。


パートの村田が、「これ良かったら・・」と言って、履歴書・転職活動の手引きなるものをくれた。

涙が出そうになった。

これから先、一番迷惑がかかるのは間違いなく村田だろうに。
どうして裏切るように去ってく私のためにこんなことしてくれるんだろう。

人の本質をいろいろと感じることができた、そんな1日だった。


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