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初任給、家族で食べた「幻のお肉」

「幻のお肉」と聞いて、どんなお肉を思い浮かべますか?厳正な基準をクリアした銘柄牛や、一頭からほんの少ししか取れない希少部位、といったところでしょうか。

ぼくの場合は、家族みんなでざわざわしながら食べた「赤身」のことを思い出します。

今日は、ぼくの家族ならではの「幻のお肉」についてはなします。



今から8年前、ぼくが今勤めているホテルに就職し、はじめてお給料をもらったときのことです。もらった初任給で、家族を「回らないお寿司」へ連れていきました。

父、母、ぼく、弟、妹の5人。

お寿司といえば回転寿司、それが我が家です。回らないお寿司なんて、ぼくの記憶では一度も行ったことがありません。

「初任給は自分のために使いな」と両親は言ってくれましたが、親孝行とは無縁の人生を歩んできたぼくです。こんなときくらい!と、地元にある隠れ家寿司屋さんへと案内しました。


回らないお寿司といっても一枚板のカウンターがあるようなお店ではなく、「8貫盛り」のようなセットで出してくれるところです。

フレッシャーズのお財布にもやさしい。

店内の座敷に通され、ビールと枝豆と、そしてお寿司の盛り合わせを1人1皿注文します。


帰りは母と弟が運転をすることになり(お酒がそもそもあまり飲めない)、父とぼくとで乾杯。

ベルボーイの夜勤がなかなかしんどいこと、披露宴のサービスに入ると結構感動すること、レストラン業務でお皿を片手に3枚持てるようになったこと。そんな話をしていると、ついに主役のお寿司が来ました。


見慣れない、一貫300円以上するお寿司。
お寿司が運ばれてきた瞬間、家族一同が驚愕しました。

妹「すごい、これ、お肉のってる…!!」
母「うそー!?」
父「ほ、ほんまや、凄いな。。」
弟「……。」


そこには、網の上で焼いてタレで食べたくなるような、きれいにサシの入った赤身が。


こ、これが回らないお寿司か!



家族みんなが、喉を鳴らしてその肉を見つめます。
回るお寿司でお肉なんて、てりやきチキンかハンバーグしかありません。がんばっても生ハムが限界です。

はじめて目の前にした肉寿司に、食べる前から期待が膨らみます。


そんな折、妹が素朴な疑問を投げかけます。


妹「生のお肉って、食べて大丈夫なん?」


ざわざわざわざわ…

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妹よ、それは言わないでおくれ。

ホテルマンなんてふだん、生肉はおろか生の貝すら食べてはいけないとされているんだ。レバ刺しどころか生牡蠣すら食べられないんだ。こんな機会は滅多にないし、今日くらいは良いじゃないか。野暮なことを言わないでおくれよ。


ぼく「ほら、ユッケでいう桜ユッケみたいなもんよ!そういうことじゃない?」


どういうこと?

知ったような口を叩いたけど、この肉が何の肉なのかまったく知らない。免罪符にすらなっていない。はじめての回らないお寿司で出てきた、生の肉寿司をただただ食べてみたいだけの兄。


そんなやりとりの最中、弟がパクッと一口。

妹「……」
母「……」
父「……」


固唾を飲んで見守る家族。
痺れを切らして聞いてみる。


ぼく「どうよ?」



弟「……まぐろや」



、、、ま、まぐろや?

マグロヤ?まぐロヤ?マグロ屋?



そう、ぼくたちが生肉だと散々騒いでいたのは、なんと脂の乗ったマグロだった!!!


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どわっと笑いが起きます。

妹「まぐろかい!」
母「なーんや(笑)」
父「これ、トロなんかあ!」


まじで全員、肉だと思ってました…。

今思えば、イカとホタテに挟まれたお寿司が生肉なわけがない。どう考えたってマグロです。

田舎者やべぇぜ…。(田舎は関係ない)


かくしてぼくたちは、「幻のお肉」をペロリと平らげ、はじめての回らない寿司デビューを飾ったのでした。


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