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書籍の電子化「自炊」と著作権の問題

 前回のnoteでは、30冊以上のテキストを自炊したロースクール修了生の筆者が、書籍の電子化=「自炊」の方法を紹介しました。しかし、自炊の方法や自炊したデータの取り扱いを間違えると、著作権法に反する恐れがあります。今回のnoteでは、適法な自炊方法と自炊時に注意すべき違法行為について解説します。(ライター:棚橋/The Law School Timesディレクター)

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許される(適法な)行為

1. 自分で本を購入・裁断・スキャンし、データを自己利用する行為

 一般に想定されている自炊のケースだと思います。

 この場合の自炊は著作権法(以下、法文名省略)第30条1項柱書の「個人的に…使用すること…を目的とするとき」にあたり「私的使用のための複製(私的複製)」として適法だとされています。

2. 他者から裁断済みの本を購入し、それをスキャンして自己利用する行為

 著作物には譲渡権(26条の2第1項)があるため、販売できるのは原則として著作者のみです。しかし、一度公衆に著作物が提供されると譲渡権は消滅し、自由に転売ができるようになります(26条の2第2項)。いわゆる「権利の消尽」というものです。よって、裁断済みの本を購入することも適法です。
 文化審議会でも、「私的使用目的でコピーされた本が裁断して転売されているが,現行法では著作権侵害にならない」と整理しています(文化審議会著作権分科会「文化審議会著作権分科会報告書」)。

3. 裁断済、スキャン済みの本を売る行為

 この行為に関しても、②と同様に権利の消尽の一場面となりますので、裁断済みの書籍を転売することは適法です。

許されない(違法な)行為

1. 自炊したデータを友人・知人などの他者に譲渡する行為

  この行為が私的複製にあたるかどうか問題となりますが、初めから他者への譲渡を想定してスキャンした場合には、複製の目的は「使用」(30条1項柱書)ではなく譲渡であると考えられます。よって、私的複製と認められず違法となる疑いが強いです。

 当初は自己利用のみを目的としてスキャンした場合でも、他者にそのデータを送信して譲渡する場合(メール・LINEでの送信やAirDropでの送信など)には、その送信行為は著作物を「有形的に再製」(2条1項15号柱書)するものであり、新たな複製行為と考えられます。その複製行為は譲渡を目的に行われているので私的複製と認められず、違法と考えられます。

 例外的に、自己利用のみを目的としてスキャンしたデータがUSBメモリやハードディスクに保存されていた際に、その記録媒体そのものを譲渡する行為は適法と考えられています。

2. 自炊代行業者を利用する行為

 自炊代行業者による自炊は「著作権侵害差止等請求控訴事件」の判例によって、違法と判断されています。

 裁判では、当該行為が私的複製と認められるかが主な争点となりました。判例では、私的複製と認められるには「①個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とし,かつ②その使用する者が複製すること」が必要とした上で、自炊代行業者は「営利を目的として…複製を行って」おり、「複製行為の主体」は著作物を使用する依頼者ではなく、自炊代行業者自体であるとして、①②を満たさないと判断しました。

 もっとも、著作者本人からの許諾を得ている業者の利用は適法です。自炊代行業者を依頼する場合には、利用したい書籍について著作者からの許可があるかどうかを確認しましょう。ただし、法律関係のテキストで著作者から許可を得ているものはあまりない印象です。

おわりに

 いかがだったでしょうか。「自炊」にまつわる著作権問題は現在も議論されている部分ですので、今後動きがあればまたnoteで取り上げたいと思います。著作権法への抵触には気をつけつつ、このnoteをきっかけに自炊にトライしていただければ嬉しいです!

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