2024 J2 第32節 ファジアーノ岡山vs水戸ホーリーホック レビュー
水戸に行ってきました。
予報では雨は降らないかもしれないが、一時的に雨が降るかもしれない、そんな予報の中、試合開始前にしっかりと雨が振り、13時ごろには雨は上がり、試合開始ごろには日差しも見える天気となりました。
ポイントなのは寒気が流れ込んできたことで、蒸し暑さではなく少し肌寒さを感じるような気候になりました。
選手としてはここのところの試合と比べれば、だいぶプレーしやすい気候だったように思います。同時に、日差しが差し込み暑さも出てきたことで、特に前線からの守備を考えたときに選手交代への影響があったかもしれません。
1.スタメン
岡山は一美、柳貴博がルカオ、嵯峨に変更となりました。
「ホーム(次節・長崎戦)に向けて体調を整えていくことが大事だと思っています。」
という試合後の木山監督のコメントが全てだと思います。何とか次節には体調を整えてもらって、元気な姿を見れたら良いなと思っています。
代わって先発のルカオ、嵯峨にとってはチャンスです。怪我からの復帰後初の先発となるルカオにとっては長い時間プレーの質を維持できるのか、試されるゲームともなりました。
水戸は3人がメンバー変更。栃木戦からの流れを一部汲みつつも、4バックの可能性もあったと思いますが3バックを選択。試合前の森監督のコメントでもありましたが、楠本には高さ、強さ、DFリーダーとしての統率を期待されての抜擢のようでした。
2.試合
岡山は上手く攻め込むことができていた印象を持っています。
ルカオが中央でもサイドに流れても起点を作ることができ、そこから敵陣深い位置まで入り込むことができていました。
この試合の時間帯別パスネットワーク図になります。
試合を通じてチーム全体で高い位置を取れていたことがわかりますでしょうか。
前線の選手でいうと、岩渕もよくボランチの横や後ろのスペースに降りてチャンスメイクできていました。特に試合序盤はこのスペースでよく触れていて、例えば4分にはCBの前でパスを受けて長井を背負いながらターンしてエリア付近を打開する、というシーンも有りました。
早川もブロックの中、外でボールを受けシュートを狙ったりサイドに展開したりと前線の選手たちが見せ場を作ります。
彼らのプレーぶりもあり、開始早々に久保がサイドに流れて起点を作ったプレーを除くと、8分までの間は水戸に前向きに攻め込む隙をみせない、敵陣に押し込んでいく攻めを見せることができました。
水戸の持ち味が出たのが9分のシーン。
水戸の3バックは楠本・長井の2CBと化し、大崎を左サイド前へ押し出し、最終ラインで保持、その中でボランチの前田が長井の右横へ降りてきます。
最初楠本・長井の2人に対してはルカオと岩渕で見る形を取れていましたが、前田が降りたことで早川が見るべき選手が中央左にいる楠本なのか、左サイドに大きく開いた大崎なのか曖昧になり、プレスを回避される格好となります。
左サイドにいた左WB新井へのロングボールを通されると、新井からダイレクトで内に陣取るシャドーの黒川へ、黒川からダイレクトパスが通り左サイドの新井が抜け出すチャンスを作られます。ここは阿部がスライドし新井につきますが、折り返しクロスを上げられました。
器用なチームだな、というのがこの試合の水戸を見た印象でした。
サイド、または中央へのロングボール主体の戦い方を見せていましたが、スペースがあると判断したからロングボールを入れているだけで、スペースがなければ低い位置から繋いでいって選手間のギャップを作ろう、という意図を感じました。
攻撃面では本当に多彩だったように思います。
左サイドでの新井のドリブル突破もあれば、その新井や大崎、右サイドの長澤を中心に浮き球やマイナスのグラウンダーのクロスも使って打開を図り、ロングスローも厳しいコースを突いたFKもありました。
水戸はCF久保をターゲットとしたロングボールを多用するというよりも、最終ラインでボールを保持する攻めが中心でした。
3-4-2-1のシステムで終盤までは戦っていましたが、先に触れた9分のシーンのように、最終ラインにボランチの前田が降りて4バックのような形をとった展開が前半は多かったです。一旦最終ラインで保持してから、サイドに流れた久保、もしくは左WB新井、右WB長澤を走らせるロングボールが多かった印象です。
また最終ラインに前田が降りなくとも、楠本長井の2CB化して大崎は左に開き、新井を前へ押し出す形を取っていました。
この形、前節を見た限りだと新井ではなく右サイドの長澤を押し出していたような気がしています。
変えた理由としては
・前節のその形のパフォーマンスが良くなかった
・黒川を投入したことに寄る左サイドの組み立ての変化
ことが上げられるかと思います。
前者は完全に主観ですが、特に前半右サイドでのボールロストが目立っていたように見えました。ボール保持をまずは優先するチームですので、このあたりのミスをまずは減らしたい、という意図のように思います。
後者はサイドアタックでの勝負ならスピードのある末吉がいる右サイドよりも、新井の技術を活かした突破が期待できる左サイドに重きを置きたかったのではないでしょうか。黒川の先発起用自体は前線からのプレスの強度を考慮したように見えています。こちらも主観ではありますが。
個人的には末吉と186cmある長澤の高さのミスマッチを利用し、右サイドへのロングボールを多用するのではないかと思っていたので、左サイドを押し上げるような形を水戸が取ってきたことは少々意外でした。
前田のポジショニングで厄介だったのが、一貫して最終ラインに降りて組み立てをするわけではなく、ときにより最終ラインに降りたり降りなかったりしていたことでした。これにより岡山の前線からプレスをかける相手が曖昧になり、プレスが噛み合わず、前進を許す格好となりました。
前線からのプレスという点では、水戸はかなりハイプレスに来ていました。
中央の田上には久保が、左の鈴木喜丈にはシャドーの甲田が、右の阿部には前出の黒川がきつくプレッシャーをかけてきました。
このあたりはロングボールを蹴らせてDFラインで回収する、もしくはWBの裏を取る動き出しが前節の岡山は多かったため、その動きを使ったボールを安易に蹴らせまい、という目論見があったのだと推察します。
強いプレスの影響もあり、岡山は最終ラインにボランチの選手が降りて組み立てる、という時間帯もありました(17分〜20分あたり)。
水戸がハイプレスをかけることで嵯峨や阿部のところがつかまりボールロストするシーンも散見されました。17分には阿部へのパスがずれたことでボールを奪取され、ショートカウンターを許してしまいます。
ただ水戸は一旦攻め込まれれば撤退を選択、5-4のブロックを敷くことを優先していました。その中で、特に高い位置をとった鈴木喜丈に対しては、決定的なパスが出ないようブロックが崩れるのを承知で右シャドーの甲田らが前へ出てプレスを掛けに行っていました。
20分頃には岡山保持、水戸5-4ブロックからのカウンター狙い、の構図で落ち着いた印象です。
その中でブロックの中を崩そうという意図を感じるシーンがいくつかありました。うまく使えませんでしたが、鈴木喜丈に対して甲田が前へ出たところのスペースに末吉が流れ込もうとしたり、22分には大崎がカットしようと前へ出た裏のスペースを嵯峨が突いたりしていました。またブロックの中のルカオへ縦パスを差し込んでいくシーンもありました。
30分をすぎると水戸の最終ラインでのボール保持が増えていきました。基本的には最終ラインでの保持後、両サイドの裏を取ろうというロングボールが主体です。
ただ精度を欠いたのか繋がらないことも多く、岡山がそこから回収しボール保持へ移行する展開が目立った印象です。
前半は相手コートに押し込み、またブロックを崩す意思も感じる岡山。
反面、ブロックの背後へ抜け出そうというシーンが見られなかったのが残念でした。例えば42分手前、押し込んで藤田が持ったシーンなどでしょうか。ブロックの中に入り込もうという意思を感じさせる一方前線の背後への動き出しがなく、崩しきれずに最終ラインに戻し作り直すというシーンが目立った印象です。
結局前半は双方ゴールマウスを脅かすようなシーンはなし。しいていうなら水戸に41分楠本インターセプトから久保が持ち込んでカットインからミドルを放ったシーンぐらいでしょうか。
後半、岡山は水戸の5-4のブロックを崩す動きがより明確になってきた印象を受けました。
具体的にはブロックの裏を取るボールが増えたのが一つ。48分、スローインからルカオが左サイドに流れて右WB長澤を背負って収めると、右WBと右CBの間空いたスペースに末吉が飛び込みパスを引き出し、岩渕経由で中央へ折り返し、早川がミドルシュートを放つ、というシーンを見せます。
もっともこのミドルのこぼれ球からのカウンターを止められずPKを献上するわけですが…ブローダーセン様々でした。
もう一つはブロックの前でボールを受けようという動き、甲田が鈴木喜丈への対応で前へ出た、その後ろのスペースでボールを受けようとする動きを見せ、CBを釣り出し空いたスペースに抜け出す、というイメージ。
54分がそんなシーンで、水戸は5-4のブロックを形成、鈴木喜丈がボールを持ったことでここもブロックの中にいた甲田が前へ出ます。ブロックの前で早川と田部井が受ける動きを見せ、田部井の動きにつられてCB長井が少し前へ出たか、長井とCB楠本の間にスペースができ、岩渕が抜け出します。鈴木喜丈からフィードが通り、ルカオが右足アウトでDFラインの裏に落とし、岩渕がフリーで抜け出したがわずかに通りませんでした。
水戸の後半の大きな変化点としては、ボランチの前田がボール保持で最終ラインに降りなくなった、という点でしょうか。
前田が降りなくなって楠本・長井の2CBで組み立てするようになり、左CB大崎が大外に幅をとるプレーをする必要がなくなったからか、より内に、高い位置を取りやすくなり、彼がフリーで持てるようになったことが水戸の後半の攻めでは大きかったように思います。56〜58分にかけての水戸左サイドからのサイドアタックは、高い位置を取った大崎がボールを運び、パスで動かしたことで生まれたチャンスでもありました。
59分にはそれまで精力的にプレスをかけてきた黒川、甲田の二人を齋藤、草野に交代させます。この二人は左右のポジションに縛られず流動的にプレーをしていたようでした。齋藤はプレスの強度も高く、彼のいるサイドからの攻撃をよく遅らせられた印象です。
岡山の後半の攻撃に対する姿勢は良かったように見えました。56分の末吉や76分の高木のように左右のWBがPA内に飛び込んでいくシーンも多かったです。
岡山は80分に田部井、末吉を竹内、太田に変え、竹内がアンカーに、木村が右ワイドに入る3-1-4-2の2トップのシステムに変更します。サイドからの攻撃で深い位置に入り込めていた事から、ボランチの枚数を削っても前線により人数をかけ、サイドのスペースにはFWが入っていくこと、クロスに対して入っていく人数を増やしていくなど、攻撃の圧力を増やしたかったのだと思います。
それに対し水戸は84分に長井、前田を野瀬、山﨑に交代。水戸は長澤をCBに入れ大崎を左SB、右SBに野瀬をいれる4-4-2のシステムに変更します。高さのある長澤をCBに入れたかったこと、また水戸もより攻撃的に行くため2トップにしたいための交代のように見えました。
92分には岡山太田が収めて藤田を経由しサイドに流れたルカオからチャンスメイク、という2トップにしたからこそのシーンが見られます。
一方の水戸も94分に草野の抜け出しから、中島・齋藤が折り返しのクロスに飛び込んでいくシーンを作りました。
それでも、岡山はこの試合でゴールネットを揺らすことができませんでした。
パスを初めとしたプレーの精度が、特に後半はほんの少し足りていなかったように思います。先に上げた54分の岩渕が抜け出したシーンもそうですが、ギリギリのパスになったことでラインを割ったり、収まらなかったところを水戸に回収されたりしていました。無理めなタイミングのシュートが枠にも飛ばない、というところも終盤にはありましたね。
3.結びに
「しっかりと強度を出して引くのではなく自分たちのアグレッシブさを出して戦っていきたい。」
DAZNの試合後監督インタビューで、水戸の森監督が次節に向けて残したコメントです。
アグレッシブさを出す、という点において、岡山と水戸は似た色を持ったチームだったように思います。特にサイドのスペースに入り込んでいこう、という点においてはお互いにアグレッシブさを押し出せた試合だったように思います。似た色を持っているからこそ前線の起点になるプレーを抑えようとし、攻→守、守→攻の切り替えの早さが目立つ展開になったのかなと思っています。
ただミラーマッチだっただけでなく、こうした似たカラーを持っているからこそのやりづらさもあり、器用で多彩な攻めを持つ水戸だからこそ苦戦を強いられドローに終わったゲームなのではないか、と考えています。
難しいゲームだったからこそ、切り替えが大事です。
長崎も難敵ではありますが何とか勝ち点3を、期待しています。
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