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『雪を作る話』

平松式ペットボトル人工雪発生装置で作った雪の結晶の写真です。

雪虫の飛来で告げられる初雪も、六花亭のチョコレートも、幼少の頃から慣れ親しんできましたが、「六花」の意味を知ったのは、生まれ育った北海道を離れてからです。

生き物の話から少し離れますが、雪の結晶の授業についての覚書です。

授業 「雪の結晶を作ろう①」

▼ 学年・単元
中学2年・空気中の水蒸気

▼ 目的
切り紙をつくりながら、雪の結晶構造について知る。

▼ 準備
はさみ、紙(A4コピー用紙)

▼方法
1. A4コピー用紙から正方形をつくる。
2. 「六角形ベース」をつくる。
3. 資料を見て試作し技を磨く。
4. オリジナルの雪の結晶を1作品提出。

写真 切り紙に試行錯誤。空から降る雪の結晶と同様、生徒たちが切り出す紙の結晶も、1つとして同じ形はない。

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授業 「雪の結晶を作ろう②」

▼ 目的
雪の結晶の形成過程を観察し、結晶の形成に必要な条件について考える。

▼ 準備
発泡スチロール箱(ふたの中央に穴を開けたもの) 、500mLペットボトル、コルク栓、両ネジボルト(20mm程度)、つり糸(直径0.1mm以下)、セロテープ、ドライアイス1kg程度、軍手、LEDライト、撮影道具

▼方法
1. ペットボトルの内側を湿らせるために少量の水を入れてよくふり、水を捨てる。さらに、十数回息を吹き込む(加湿器などで代用可能)。
2. つり糸を取り付けたボルトをペットボトルの中に入れて底につける。
3. つり糸がピンと平行に張った状態にしてコルク栓をする。
4. ペットボトルを発泡スチロール箱の中央に入れ、ドライアイスをそのまわりに入れる。
5. 発泡スチロール箱にふたをして、セロテープで固定する。
6. ペットボトルの中を斜め上から見下ろし、つり糸上の変化を観察しながら、タイムラプス動画を撮影する。

▼結果と考察
結果
結晶の成長過程をタイムラプスで撮影した動画を提出

考察
雪の結晶をつくるには3つの重要な条件が必要である。実験と中谷宇吉郎氏のエッセイをヒントに考えてみよう。

動画 釣り糸を凝結核にして成長する結晶。タイムラプス撮影。

覚書

▼ 授業について
導入に、雪の結晶のは何角形かクイズを出しアナと雪の女王の動画で答え合わせをすると盛り上がる。また、初めて学ぶテーマでは、物づくりから始めると学習内容と学習者の距離が一気に近づくように感じる。切り紙の雪の結晶は、司書の先生のご好意で図書室のガラス張りの壁一面に掲示していただいた。

考察で、雪の結晶をつくる3つの重要な条件について尋ねた。①温度 ②水蒸気はどのグループも共通して答え、3つ目の条件は様々な答えになった。「ウサギの毛」「つり糸」「温度差」「自然対流」など色々と考えられるし、読み取れる。

いくつか考えられる3つ目の条件をあれこれ議論するのは、今後「霧を作ろう」「雲を作ろう」で登場する線香の煙の意味や、ビーカーの中をゆっくり対流する霧の様子に目を向ける良いヒントになったと思う。

平松式ペットボトル人工雪発生装置では、ペットボトルの上1/3をクーラーボックスから出すことで室温に近づけてペットボトル内に温度勾配を作り、ちょうど観察しやすい所に樹枝状結晶が成長するしかけになっている。

▼ 中谷宇吉郎について
動画 1930年代にBBCが中谷宇吉郎を取材したもの。雪中の顕微鏡の冷たさを考えただけでその過酷さを想像できる。モノクロで映し出される結晶の美しさ。

 冷徹無比の結晶母体、鋭い輪廓、その中に鏤められた変化無限の花模様、それらが全くの透明で何らの濁りの色を含んでいないだけに、ちょっとその特殊の美しさは比喩を見出すことが困難である。
 その後毎日のように顕微鏡を覗いている中に、これほど美しいものが文字通り無数にあって、しかも殆んど誰の目にも止まらずに消えて行くのが勿体ないような気がし出した。そして実験室の中で何時でもこのような結晶が出来たら、雪の成因の研究などという問題を離れても、随分楽しいことであろうと考えて見た。 (中略)
 二、三日して「果して雪が出来ました」というS君の案内に急いで低温室の中へ入って見ると、なるほど兎の毛の先に六花の結晶が白く光っている。そっと取り出して顕微鏡で覗いて見ると、この出来立ての雪は天然の雪よりも一層の見事さである。 「雪を作る話」中谷宇吉郎 より引用

中谷宇吉郎は、教授となった1932年(昭和7年)頃から雪の結晶の研究を始め、1936年(昭和11年)に北海道大学の低温実験室にて人工雪の製作を世界で初めて成功させている。

1935年に中谷宇吉郎が記した「雪」の中で、雪の研究をはじめた”引き金の役”になったものに、アマチュア研究家ベントレーの写真集『Snow Crystals』を挙げている。ベントレーについては『雪の写真家 ベントレー』でその生涯を知ることができる。我が家にもある素敵な絵本だ。

一方で中谷は、このような指摘もしている。 

ベントレーの写真集は前述のように立派なものではあるが、凡て綺麗でかつ規則正しい平板状の対称形のもののみを選んで撮ったために、一般に雪の結晶というものが、ベントレーの写真のようなものと思い込ませたという点は注意して置く必要がある。(中略)顕微鏡を覗いて見て、美しくないものは写真に撮らない。模様的に美しく、しかも平面的なもののみを撮る傾向があるために、一般の人々に雪の結晶がそういうものだと思い込ませるようになったのである。それは別にベントレーのみの負う責任ではないのである。  「雪」中谷宇吉郎 より引用

六花以外の「美しくない」結晶の方が実は、数も種類も多く学問的には重要である点が述べられている。この視点がなければ「ナカヤ・ダイヤグラム」は生まれない。現象の美しさを知らせることと、サイエンスとしての毅然とした視点を示すこと。共に大切だと思う。

さて、この冬は帰省も難しそうなので天から送られてくる手紙を読むのはしばらくおあずけのようです。

参考資料

平松 和彦(1997)ペットボトルで雪の結晶をつくる 

V.V.セロワ & V.J.セロフ『切り紙でつくる 雪の結晶』 マール社

ジャクリーン・ブリッグズ・マーティン
絵/メアリー・アゼアリアン訳/千葉茂樹『雪の写真家 ベントレー』BL出版

神田 健(2005)雪結晶の様々な形ができる条件

中谷宇吉郎(1936)「雪を作る話」

中谷宇吉郎(1938)「雪」


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