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ここで待ってる。


「今日会えますか?僕ここにいるの今日でラストです!」


めずらしく目覚ましが鳴る前に目が覚めて見たLINEの通知はタクミくんからだった。


、、、え?何?なんで?


ちょっとまだ目が覚めていないようだ。


タクミくんは私の部屋の近所に住んでいる。

引っ越してきたのは確か、3月の終わり。


実家も数駅離れた場所で近いけど、親に甘えたくない、仕事をがんばりたいと一人暮らしをしていた。

越してきた時も突然だったし、いなくなる時も突然なんて、タクミくんらしい。

そして私は今日友達とのランチの後は空いている。


〝そうなの?うん、会えるよ!″

なんだかとても寂しく感じながら、
そう返信をした。


約束の時間より30分も早く家に来た彼は、以前会った時より大人っぽくなったような。


本当に仕事を頑張っているみたい。

通勤時間の短縮の為に友達とルームシェアするんだそうで、今の家は別の友達にとりあえず貸すんだって。


完全に引き払ってしまうわけじゃないんだ、、と少しほっとする。


タクミくんはたくさん話したいと言って、突然連絡来たり私もしたり、それでお茶したり、飲みに行ったりよくしたんだ。


初めて会ったのは1月の終わりで

「はじめまして、◯◯タクミです!」

って、堂々とフルネームを名乗って、

アプリで知り合う子にしては珍しいなぁと思った記憶がある。


相変わらず、色んなことをずっと話して、
彼のソファの隣に座ったのは私からだ。


普通に振る舞いながらタクミくんの手は、私のネイルを綺麗だと褒めながら触れて、その手は服の上から太ももに触れる。

目が合ったら私からキスをして、
そして抱き合った。


「aoiさん、最近いつしたんですか?」


〝うーん、、ずっと忙しかったからしてないよ″


本当のことなんて言わないんだ。


キスをするたび、可愛いと言ってくれるから

こんなに若い子が熟女に言うことなんて信用しないけど、ちょっとだけ嬉しいとは思ってしまう。



テレビだけ付いた暗い部屋の中で、タクミくんの横顔を見ていたら、すごく寂しくなった。

こんなに早くどっか行っちゃうと思わなかったから、いつでも会えると思ってあんまりLINEしなかったし、約束してて仕事で遅くなるって連絡来た時拗ねて冷たくしちゃったし、もっと会っておけば良かったなって。


そんな気持ちが伝わったのか

「約束より早く来たのに、時間すぐ経っちゃいますね。ここにもしばらく来れないから寂しいな。ちょっと泣きそうです」


もう、やめてよそんなこと言うの。

私が泣いちゃう。


さみしくて肩のあたりにくっ付きながら

〝うん、寂しいね。でも今日会えて良かった。連絡くれてありがとうね〝



彼はこの後、送別飲み会をしてくれる友達との約束があるのに、名残惜しむようになかなか帰り支度が進まなかった。


マッチングアプリでたまたま会っただけの人妻熟女に、友達との時間の合間を縫って会いに来てくれた事が本当に嬉しかったよ。


″まだここ引き払うつもりないからさ、帰ってきた時は連絡してね″


「絶対します。今度は飲みましょ!」


ぎゅーってハグしてキスして
バイバイした。


あぁ、寂しいけど、なんか良いな。

自分の人生をがんばってる子達のキラキラした後ろ姿を見送るのは。


寂しいのと、切ないのと、喜ばしいのと、嬉しいのが混ざったような気持ち。


また会える時にはどんな話を聞かせてくれるんだろう。



その時を楽しみに、ここで待ってるね。

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