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ニュースつぶやき:新しい没入体験

 新しくできるアート施設「イマーシブフォート」の話。

 再びニュースへのアンテナを立て始めたわたくし、新しくできるアート施設の情報を耳にいたしましたの。その名も「イマーシブフォート東京」。



 実はわたくし、イマーシブなんちゃらという名前にはあまりいい印象を持っていないのです。その原因のほとんどが、近年散見される「アートの中へダイブする」と称して四方の壁一杯に映し出した絵画を見せるというアレですわ。

 そんなイマーシブアレルギーになりかけているわたくしの目に、新たな種類のイマーシブが飛び込んでまいりました。

 そもそもImmersiveとは「没入感」であり、これは時間を忘れて読書に没頭したり、ゲームに熱中したり、テーマパークで過ごしたりなど、わたくしたちの身近に普通に存在する概念ですわ。
 ただ、没入「する」のは簡単でも、没入「させる」のは至難のわざ。没入を阻害するもの(例:電子書籍で本を読むときに出てくる広告など)を排除したり、没入感を深めるために徹底した雰囲気作り(例:テーマパークでの世界観作り込みなど)を進めたりするわけですけれど、それらに真実味を持たせるには、多くの意味で重層的でなければならないと思いますの。お城のカーテンを一枚めくったら打ちっぱなしのコンクリート壁が出てきた……では一瞬で興ざめしてしまうわけです。

 このイマーシブフォートは、公式ページを見る限り、観客と舞台との距離を限りなくゼロに近づけることによって、没入体験を生み出そうとしているようですわね。例えば登場人物のそばに行って、全体の進行ではわからない独白や陰の関係を知ったり、話の大筋が観客の選択によって変わっていったり(協力したり騙したりする観客の存在によって物語が変わってゆく)するということですわ。

 実現すればなかなか面白いことになりそうですけど、これってあれですわよね……いわゆるテーブルトークRPG。その拡大版と考えてよろしいのかしら。

 テーブルトークRPGとは、おおまかなストーリーラインの上で、プレイヤーが登場人物を演じ、その行動や言動が場面をつなげ、進めてゆき、毎回違う結末になったりすることを楽しむゲームですの。わたくしも高校~大学と、陰キャ友達数人で集まって楽しんだものです。

 このテーブルトークRPGで最も重要な役割を果たすのは、GM、つまりゲームマスターという存在です。ゲームマスターとはゲームの進行役であり、説明役であり、審判役であり、何よりもプレイヤーを楽しませる役なのです。これをへたくそがやると、とたんにただ時間を浪費するだけの罰ゲームと化すのがテーブルトークRPGです。

 例を挙げますと、ファンタジー系をプレイしていた時に、わたくしは──わたくしの演じるキャラクターは敵のゴブリンシャーマンから睡眠魔法を食らい、目が覚めるとまた睡眠魔法を食らい……と、戦闘が終わるまで睡眠魔法を食らい続けました。当然、活躍など何もしないまま。わたくしが『なんでわたくしにだけ睡眠魔法を連発しますの!』とキレ散らかしましたら、『いやー、だって効くとわかったら連発するっしょwww』とのことだったので、『ゴブリンなんだからそこまでの知能はないでしょが!!』とキレたところ『シャーマンになるくらいだから知能は高いんだよ!』と売り言葉に買い言葉になった──とか、また別のホラー系のプレイでは、GMの出すヒントがわからなすぎて誰もどうにもできず、そうこうしているうちにディープワンズに囲まれてSanity(正気度)をゴリゴリ削られていき全滅──というケースもありましたわ。かく言うわたくしとて、自分がGMをやったときは「勢いがあって楽しい」反面「結論ありきの進行でつまらない」という評価だったので、あまりひとさまのことは言えませんけども……

 話が脱線しましたけど、要はそれほどゲームマスターという役は難しい、ということを申し上げたいのですわ。テーブルトークRPGは、上手いGMがプレイヤーの気分を上手く乗せてくれると、それこそ最高の没入体験ができます。このイマーシブフォートにおいては、演者ひとりひとりがGMのようなものなのでしょうか。

 船頭多くして舟山に上るなどということにならないためには、ある程度、ゴールの決まった結末にならざるを得ないのか。それとも、わたくしがまだ知らない技法を見せてくれるのか。ひとりでも睡眠魔法を連発で食らう観客がいないことを願いますわ。

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