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それぞれの部屋に宿る生活と群像劇-Notes On A Conditional Form / The 1975

"Notes On A Conditional Form"は、22曲の収録曲それぞれが映し出す異なる部屋、そのそれぞれで暮らす人々の群像劇だ。

これが私のこのアルバムに対するイメージを端的に表したものだ。

なぜ自分が「部屋」をイメージしたのか。そのきっかけはこのアルバムの各収録曲のMVを見ると、どれも部屋や狭いスペースでの映像ばかりだったからだ。

"People"は全面が映像を映すボックスを、"Frail State of Mind"は書斎のような一室。
"Me & You Together Song"は最も顕著で、バンドが演奏したり愛を育んだりパーティをしたりと様々な部屋を描いている。
"The Birthday Party"は少し異色でVRを通じて仮想空間へ飛ぶがそれが行われているのはセラピー施設の一室。
"Guys"はこれまでのThe 1975のメンバーの映像が流れていくが、MVの構成としてはこうした思い出を映像として振り返りながら、ラストはmattyが部屋の鏡に映る自分自身を撮影している。自分は、思い出の振り返りと記録を自室でおこなっている映像なのだと捉えた。

奇しくもアルバムリリース前後から、世界は周囲の世界との繋がりが絶たれ、各々が自身の住む部屋の範囲内での生活を強いられることになる。
私はこのアルバムの各楽曲がまるでそれぞれ異なる「部屋」を描いているように感じたからこそ、パンデミック下での生活に深く結びついたように思うのだ。

このアルバムは、The 1975というバンドが持ちうる様々な音楽の全てを詰め込んだような作品であり、同時に雑多であまり統一感のない作品であるようにも感じる。(アルバムに対しバラエティさを求めるか、統一感を求めるかは人によるとして)

私にとっては、日によって特に好きな曲というのが目まぐるしく変わるアルバムだった。
気分によって衣替えするように、まるでいろんな部屋のドアを開けてみて「今日はこの部屋で過ごそー!」みたいな感じ。
きっと聴き手によって異なる、それぞれお気に入りの部屋が見つかるはずだ。

このアルバムが描くのは、それぞれ異なる部屋に宿る、人々の生活。
長い期間それぞれがそれぞれの部屋で生活を送り、行動する何倍もの時間、きっと様々な考えを重ねていったに違いない。
自身の考えが、"People"のように社会に向いたり、"Frail State of Mind"のように自身の内面に向いたり、"Guys"のように友人に向いたり多種多様なはず。

飽きるくらい考えを逡巡させていった、その果てにあるのは、
真に手にしたいのは愛であり、幸せであり、身近な人とのつながりであり、心から大切に感じるものなのだという気づきなのではないか。

だからこそ、部屋のドアを開けて外へ出る。
自分自身の身体をもって、手の届く範囲で、目の前のものと向き合う。
シンプルなやり方で、素直な気持ちで、心から大切に感じるものを手にしに行く。
それがきっと"Being Funny In a Foreign Language"で描かれるテーマなのではないだろうか。

続く


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