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英雄が残した代償【ムシェ 小さな英雄の物語】

読んだ直後に樺沢先生のSNSを見て驚きました。
海外旅行に行ったのは知ってましたが、
その行き先がなんと「ビルバオ」

丁度この本の舞台と同じでした。
正確に言うと、ビルバオから疎開してきた子どもを受け入れたベルギーの青年の話です。

メロディアスライブラリー2017.1.29放送。

・知らなかったスペイン内戦

この本の主人公のロベール・ムシェは
一家でスペイン内戦でビルバオから疎開してきた子どもを受け入れました。時期は1936〜39年なので、第二次世界大戦の前です。

「知らなかった」というより、
私の勉強不足なのが正確かもしれません。
調べたらこちらの高校の世界史Aに載ってました。

p189に記述がありました。

世界史Bに比べたら厚さは薄いですが、
海外ニュースでわからないところがあれば
調べるのにちょうどよくまとまってます。
こんなところで、
社会主義が影響しているとは思いませんでした。

・なぜロベール・ムシェは逮捕されたのか。

読んできた多くのホロコースト文学は
ユダヤ人の目線で書かれています。

ロベールがユダヤ人ではありません。
ではなぜ逮捕されたのか。

ナチ政権でユダヤ人が迫害されたイメージが強すぎて、すっかり忘れてました。
共産主義者なども政治犯として逮捕されていたことを。

結婚して娘が生まれた後に、親友のヘルマンに
レジスタンス活動に誘われます。

「奥さんと娘はどうするの?」
「見つかったら強制収容所行きでしょ?」
読者の私は、内心そう思いました。

実際、女友達のアリーヌ※に裏切られて逮捕。
共に逮捕された彼女も強制収容所に行ったのでしょうか。消息については触れられていないので不明です。

※アリーヌは、革命を信奉する勇猛果敢な女性。

・英雄の裏側

英雄であることの裏の側面とは、あとに残されたあらゆる苦しみのことなのです

ムシェ 小さな英雄 p215

確かにロベールは英雄だったとは思います。
正義感があるし、「人々のためにいいことをしよう」としているのが伝わりました。

しかし、視点を変えて奥さんや娘カルメンさんの立場から見たら、まさに「残された苦しみ」と感じます。

カルメンさんが時折登場しますが、戦後、母親とともに困難な生活を送っていたことが伺えました。
カルメンさんは2歳で父親と別れたため、
顔を知りません。

奥さんも、ロベールの遺体が見つからないため、
なかなか国から支援を受けられなかったことが明かされました。
船に乗せられた後に、イギリス軍の空襲を受けて亡くなったため、遺体が見つからなかったと思われます。

余談ですが、カルメンさんの名前の由来は、かつてビルバオから疎開してきたカルメンチュという少女が由来です。

・感想

メロディアスライブラリーで放送された
ホロコースト文学をリスト化して読んでます。
「あれ?これはスペイン内戦の話なの?」と思ったくらいです。

よくわからず調べたら、教科書に載ってました。
当時のヨーロッパの情勢と密接なつながりを感じました。

内戦に勝利した反乱軍側が、プロパガンダのために疎開から帰ってきた子どもたちを利用。
「当時のナチ政権と変わらない」と感じました。

ムシェは英雄かもしれないけど、
その裏側には残された家族の悲しみや苦しみを感じずにいられませんでした。

「この本がロベールのための、紙でできたささやかな墓になってほしいんです。カルメンがこれまでお参りすることの叶わなかったあのお墓に」

ムシェ 小さな英雄 p211

まさか書籍が誰かのお墓になるとは考えもしませんでした。
カルメンの夫が著者に対して、この本を書く動機を質問したときに、返ってきました。

英雄と残されたものの苦しみは表裏一体かもしれないと考えさせられました。

以上、ちえでした。
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