視野の狭さが招く苦悩【我が手の太陽】石田夏穂著
「仕事ができる人ほど苦しむ」
そんなことを考えました。
確かに仕事ができるのは素晴らしいです。
しかし、周りの人の言葉に耳を傾けなかったり、
感謝の気持ちがなかったりすると、
調子が悪くなったときに
心の支えがなくなることに気づきました。
・仕事にプライドを持つのはいいけど
主人公の伊東はこの道20年の溶接工です。
32人の溶接工の中で、欠陥率が最も低かったです。
仕事にプライドを持っていました。
しかしある元請の検査員から
「ギリギリな判定がこれまでにもあった」と
言われてから迷走し始めます。
まるで、この検査員に呪われたかのようでした。
彼のアイデンティティの支えは、仕事の腕です。
しかし、それすら脅かされる状態で
心の拠り所がなくなっていく様子が伺いました。
・命がけの仕事
伊東は同僚から「牧野さんを病院に連れて行ってくれ」と頼まれます。
溶接工は半年に一度、
特殊健康診断に行くという決まりです。
その理由は作業中に発生する金属蒸気が、特定化学物質に加わったからです。
牧野さんというのは60近くの大ベテラン。
伊東にとって師匠のような存在です。
長年仕事をしてきた牧野さんは、
白内障になっていたり、咳が出ていたりと
長年の仕事の影響が出ているように感じました。
主人公の伊東も来年40歳。
長くできる仕事ではないのを実感しました。
・気になった視野の狭さ
「自分は溶接工として腕前は負けない」
そう思うだけならまだしも、他の職種の人に対して
「知らないくせに」と
見下している様子が伺いました。
特殊健康診断で診察をした医師から、
「今後のキャリアプラン何かお考えですか?」と聞かれる伊東。
長く働けば働くほど、身体に影響が出るのは、牧野さんの様子を見ても分かります。
それに対して伊東は「何も知らないくせに」と
医者に憤慨します。
それだけではありません。
周りの人から「安全をおろそかにする溶接工は下手だと相場は決まってる」と何度も注意されます。
作業する時は安全帯を付けるのを義務付けられています。
付けずに作業したところを見られてしまい、溶接の仕事ができなくなりました。
腕前も大事ですが、それ以上に安全に作業できるように環境を整えるのは基本の話。
基本的なところを疎かにしているのが気になりました。
・感想
私にとって主人公の伊東は反面教師になりました。
確かに仕事はよくできる人でしょう。
それは認めます。
しかし、安全義務違反を犯したり、
「お前に何がわかる?」と周りの人に心を閉ざしている様子が気になりました。
いくら仕事ができる人でも、他人の話に耳を傾けないとこんな痛い目に遭うのかと感じました。
作中ですが、アセチレンガスやタングステンなど専門用語が容赦なく出てきます。
著者のプロフィールを見たら東京工業大出身。
現在の仕事や大学時代の専攻はわかりませんが、
それらが関係しているのではないかと思いました。
それでも文章を読んで、思い浮かべられるところに著者の表現力の高さを感じました。
以上、ちえでした。
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