見出し画像

名前の呪縛【##NAME##】

「とてつもない大きな闇を覗いているような気分」
読み終わった直後に真っ先に出た感想です。

著者は、作詞家として歌手に詞を提供しています。
芸能界の内部事情をある程度詳しいと思われます。

タイトルを見た時「なにそれ?」と思いましたが、内容はタイトル以上に闇を感じました。

名前と知られたくない過去が紐付いているイメージです。どんなに逃げたくても逃げられないのを感じました。


・誰が想像したか

私はジュニアアイドルについては知りませんでした。
主人公の石田雪那(せつな)は小学生高学年から中学生まで事務所に所属していました。
先輩アイドルである美砂乃とのエピソードが多いです。

ジュニアアイドルと言うと未成年なので
親の承諾が必要です。
成人女性が「芸能界の仕事をしたい」と志願するのとはまた状況が変わってきます。

スクール水着での撮影がよく出てきました。
撮影時の描写を想像すると
グレーゾーンな印象を持ちました。

中学生以降、本名で調べられ過去が知られてしまいます。
それが原因で、中学校でいじめられたり、
家庭教師のバイトで契約を打ち切られたりと
困ったことが立て続けに起こります。

まさか何年も前の写真が、ネット上にデジタルタトゥーとして残るとは思わないでしょう。
しかもそれが、その後の人生の足かせになるとは
誰が想像したでしょうか。

個人的に気になったのが
雪那と書いて「せつな」と呼ばせていたことです。

キラキラネームではないとはいえ、
読みを間違えやすい名前を命名するところに
母親の配慮がないと感じてしまいました。
実際、美砂乃からも「ゆき」と呼ばれていました。

・恩着せがましい

せつなの母に関して思ったことがあります。

毒親とまでは言えないけど、どこか「私がやってあげたんだから感謝してね」と恩着せがましさを感じました。

事務所を辞めたいことを母親に話した時も
「せつながやりたいと言ったから、やってあげたのに」と言っていました。

更に大学生になった時に、30万円ギャラが入っていました。
「ひどい親だと使い込んじゃう人もいるんだよ。私は使い込まなかったんだから、いい親でしょ」とでも言いたそうでした。

「私いい母親なんだから評価してよね」
面倒臭さを感じました。

この様子を見て
「私はあなたのためにやってあげたんだから
感謝してね」と我が子に見返りを求めるのは
みっともないと考えさせられました。

自分は息子たちに対して「あなたのためにやってあげたんだから」と言わないようにしよう。
反面教師になりました。

・正しさが鬱陶しく感じる

大学の同級生である尾沢さんが、せつなのジュニアアイドル時代の写真を見つけたと告げられます。

「どうして世間に告発しようと思わないの?」
「あなた被害者でしょ!?」
「私なら世に告発する」
「あなたが書かないなら私が書く」

確かに尾沢さんの感覚は正しいのかもしれません。
傍から見たら、グレーゾーンな写真を撮っていました。
世の男性たちに消費されていたのは事実でしょう。

しかし、せつなにとってジュニアアイドル時代の出来事を全て否定することはできません。
先輩アイドルの美砂乃との思い出を大切にしているように見えました。

自分を被害者と認識したら、美砂乃と思い出も全てなくなってしまいそうに感じていました。

人は正しいことだけでは動かないと感じました。

・謝罪しても許されるわけではない

せつなが夢中になっていた小説の
ある一言が胸に刺さりました。

「自分の罪にちゃんと潰れろよ。できないなら最初からやるな」

##NAME##  p121

せつなが中学生の時、1ヶ月だけバスケ部に入っていました。
誹謗中傷のメールが、他の部員から来たため退部。

ある日、バスケ部に所属している松枝さんから
謝罪されました。
彼女は気になる男の子にかなりプライベートな写真を送りました。
さらに彼は他の友人にそれを自慢しました。

学校中に広まってしまい、部活でハブられるように。
その状況になって自分がせつなに悪いことをしたと気づきました。
しかし、せつなは謝罪を一切受け入れません。

この様子を見て
「自分が悪いことをして謝ったところで
許してもらえるわけではない」と
認識した方が良さそうと思いました。

罪を犯して服役中の人たちは、自分の罪に潰れそうになっているのかもしれません。

・感想

著者は作詞家、表紙も若者向けの印象です。

確かに、登場人物は中学生から大学生です。
時系列を見ても私より年下でしょう。
若い世代の人にとって、とっつきやすい題材と感じました。

しかし、タイトルや表紙と裏腹に重たいテーマでした。
自分の名前と過去にやったことが紐付き、
誰でも簡単にネット検索ができてしまいます。
自分の過去や名前から逃れられないのを実感しました。

実際にせつなも司法書士事務所に行って
改名の手続きをしました。
よほど都合が悪かったのでしょう。

改名で自分の過去や名前から
逃れられたのかはわかりません。

ネット社会ゆえに、過去にやっていたことが
ずっと付きまとってくる怖さを感じました。

以上、ちえでした。
プロフィールはこちらです。
他のSNSはこちらです。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?