見出し画像

「ミッドサマー」監督:アリ・アスター/2019

秋の夜長はホラーが見たい!そんなわけで、異色のホラー作品「ミッドサマー」を鑑賞しました。

こんなお話

アメリカで暮らす大学生のダニーと恋人のクリス、その仲間たちは、交換留学生であるペレの故郷スウェーデンで夏至(ミッドサマー)に行われる祝祭に誘(いざな)われる。その村では、90年ごとに9日間の浄化の儀式が行われ、人々は着飾って様々な出し物をするのだという。人里離れたヘルシングランド地方、森の奥深く、美しい花々が咲き乱れる“ホルガ村”を訪れた5人は“白夜”のもと、優しく穏やかな村人たちから歓待を受け....。


レビュー

ホラー映画というと、山小屋、夜、静寂からのドアが突然バタン!などなど、鑑賞者を驚かせる仕掛けが満載。そんなホラーの定説を覆してみせたのが本作です。

牧歌的な風景、かわいらしいフォークロアなファッション、カラフルなお花、笑顔で迎え入れてくれる村人たち。

画像2

どこを切り取ってもホラー要素はゼロ。そんな中、いきなりの身投げ&死体損壊!その衝撃たるや!

「これが彼らにとって幸福なのです」幸せとは、快楽とはなんたるか、それを決めるのは個人ではなく、あくまでもコミュニティ。まさにカルト教団そのものです。

皮を剥がれたり、顔面を殴打したり、グロ映像も多いですが、そんなことよりも村人たちの不自然な親切さや笑顔、主人公ダニーのメンタルに取り入り、担ぎ上げるさまがとにかく恐ろしい。

妹と両親を亡くした辛い過去にとらわれ続け、彼氏からも少々面倒くさがられていることに薄々気づているダニー。

最初こそ「こんなところ、早く出て行きたい」と口にしていますが、自身の悲しみに共鳴してくれるかのように、共に泣き、共に声をあげてくれる村人たちに、少しずつ心を開いていきます。

画像1

完全に種馬と化したクリスチャンの運命も、女王ダニーの審判に委ねられましたが、残念ながらラストはクマにさせられ、火あぶりにされてしまいます。

クマは冬眠をし、春に目覚めるその特性から、生まれ変わりを象徴するそうな。その他、三角の小屋や「9」という数字には、様々な意味が込められているそうです。クリスチャン=キリスト教=異教徒を火刑に処す、というメタファーと読み取れるなど、作品全体を通じて、何度も見返したくなる、様々な仕掛けや引用が含まれているようです。

画像3

そして、ラスト、ニヤリと微笑むダニー。自分を蔑ろにした男への復讐も叶ったうえに、自分を受け入れてくれる安住(依存)の地を見つけちゃうわけです。恐ろしくも、悲しいラストですね。

「「ヘレディタリー」と「ミッドサマー」に共通するのは、人生をコントロールすることはできないという怖さを、キャラクターが不可避な運命に向かっていくさまを見せながら語っていくこと。 」アリ・アスター監督

監督がこう語るように、ダニーが精神的に不安定になったのは双極性障害の妹が両親と心中した事件によるものであり、ダニー自身に問題があるわけではありません。でも、そうした事件により、精神が崩壊し、自分ではコントロールできない状態で運命が進んでいく。これこそ、本当のホラーだ、ということなのかもしれませんね。

画像4


★合わせて観たい作品はこちら★

ミッドサマーの元ネタ(と言われているらしい)「ウィッカーマン」

監督の長編デビュー作「ヘレディタリー/継承」


▼作品をより深く知るために読みたい!▼

(外部レビュー)「ミッドサマー」見返して初めてわかる鳥肌重要ポイント

アリ・アスター×小出祐介、アリ・アスター×園子温


------------------------------------------
ミッドサマー(2019)
原題:Midsommar
<スタッフ>
監督、脚本:アリ・アスター
製作:ラース・クヌーセン、パトリック・アンデション
製作総指揮:フレドリク・ハイニヒ、ペレ・ニルソン、ベン・リマー、フィリップ・ウェストグレン
音楽:ボビー・クーリック
撮影:パヴェウ・ポゴジェルスキ
編集:ルシアン・ジョンストン
<出演>
フローレンス・ピュー
ジャック・レイナー
ウィリアム・ジャクソン・ハーパー
ヴィルヘルム・ブロングレン
ウィル・ポールター

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?