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初めてのミルクティー

私が小学校4年生ぐらいだったと思う。

理科だったか社会だったか忘れてしまったけど、グループ発表があるので
みんなで資料を作ることになった。
その時、なぜだか太郎くんの家に
集まることになった。

太郎くんの家は少し遠く、坂も多かった。
でもみんなで話しながら歩いて行くのは
楽しかったし、ワクワクした。

太郎くんは、いつもどことなくオシャレで
きちんとしていて、ちょっと魅惑の人でも
あった。
そんな思いもあり、ワクワクした。

太郎くんの部屋は新しくて綺麗だった。
私には、もちろん自分の部屋なんてなかったし、
大人の人の部屋のような太郎くんの部屋に
感心し、
やっぱり太郎くんだ!と思い、
ずっーとキョロキョロしグループワークどころ
ではなかった。

そんなところに太郎くんのお母さんが
お菓子を持ってきてくれた。
それに続いて、
『みんな、ミルクティーとレモンティー、
どっちがいいかな?』と聞いてくれた。
がしかし、
ミルクティーって、どんな飲み物なんだろう?
私はその歳までミルクティーを知らなかった。
飲んだことがなかったし、
家でもほとんど麦茶を飲んでいたので、
レモンティーでさえ、そんなに馴染みの飲み物ではなかったのだ。

あの時の私の衝撃。

私はレモンティーをお願いしたが、
隣でミルクティーを飲んでいる子にさえ、
眩しくて見られないくらいの
尊敬の念が湧いてきた。
そして私の手は震えていた。
あれが初めてだったか…
カップ&ソーサーで紅茶を飲んだのは…。

そんなときだった。
太郎くんが『ママー、ママー』と
お母さんを呼んだのだ。

『ママ』

ママって呼ぶんだ…。
よくわからないけど、おしゃれだけど、
綺麗なお母さんだけど、
当時の私は、もうミルクティーでいっぱいで、
ママと呼ぶ太郎くんが、すっごく遠くに感じて、
そして、自分が惨めな気持ちになっていったように思う。

帰り際に太郎くんの隣の家の彩ちゃんが、
玄関先で何やら太郎くんと話していた。
なんの話でもいいのだが、スッラっとして
髪の長い彩ちゃんと太郎くんは、
とっても素敵に見えた。

太郎くんの家にお邪魔したのは、
これが最初で最後。

家に帰って、
飲みたくもない麦茶を一気に飲み干した。

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