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ボタン

中学2年。

話したことのない1つ上の先輩がいた。
全く私のことを知らない人。
私の存在を認識していない人。

1980年代。
私は田舎の中学に通っていた。
その人はキリッとした端正な顔立ちで
背が高く、短ランが似合っていた。

好きとか嫌いとか、そんなところまでの
感情にも辿り着くわけもなく、
外に続く階段に座る先輩を
3階の教室から見るのが好きだった。

夏休みに入るころだったか、
私の学年の小さくて可愛くて男子からも
人気のある千春ちゃんが、
先輩と付き合っているという
噂を聞いた。

2学期になり、私は突然先輩に話しかけた。
卒業式のとき、ボタン下さい!と。
まだ半年も先の話で、
友達でもなくて知り合いでもなくて
天然パーマくりくりで冴えない私。
先輩は一瞬キョトンとしたが、
『いいよ。』と答えてくれた。

そして一言も話すことなく、半年が過ぎた。
卒業式が終わり、遠くから先輩の姿を見ると、
第2ボタンを除き、他のボタンは全部無かった。

……

そのまま帰ろうとすると
先輩が『約束してたよね。』と言って、
残っていた第2ボタンをくれた。

えっ!

嬉しかった。
ただ、ありがとうございます。と言って
連絡先を聞くこともなく
そのまま別れた。

その頃、千春ちゃんと先輩はとっくに別れ、
千春ちゃんも他の誰かと付き合っていると
後から風の便りで聞いた。

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