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読書メモ:情報武装する政治

基本情報

『情報武装する政治』
西田亮介(社会学者)
2018年3月22日発行

情報環境、メディア環境の変化を概観しながら、政治の情報発信の諸相について論じ、「政治のわかりにくさ」をベースに政治のわかりやすさが欲望されることを前提に、政治、社会、メディアの変化と、政治の情報発信に注目した本書。

学術書と言われるジャンルだけになかなか理解しながら読み進めるのに苦労したが、大学時代にマス・コミュニケーションを専攻しており、知識のアップデートを図るべく手に取った一冊である。

構成

第1章 複雑化する世界と日本の政治
第2章 ポスト・トゥルースとは何か
第3章 日本の情報環境とその変容
第4章 情報武装する政治
第5章 自民党のメディア戦略
第6章 主要政党の情報発信の現況
第7章 理性の政治への道筋

感想

著者の問題認識として、政治の常識が通じなくなって(トランプ全大統領の当選、イギリスのEU離脱等)しまい、より政治がわかりにくくになってしまっているところにいかに政治側がSNS等で「情報武装」してきたかを自民党を中心にまとめられている。

(本書内では国民ではなく「生活者」という言い方がされているが)
政治のことを多忙な生活者が日常的につぶさに追い続けるのは難しく、「わかりやすさ」が求められていたところ、政治の側から情報武装することで、政治も社会もメディアも変容してきたというのが大きな結論である。

元をたどると小泉内閣での郵政解散を契機に自民党内では、正式な組織が立ち上がり、それ以降戦略的にテレビ・新聞に加えてSNSのメディア対応がなされている。
選挙時は、党本部から各候補者にFAXで、毎日3回レポートが送られ演説内容等、見え方に反映させているとのことだった。
他の政党は、民進党の分裂等の影響もあり、組織力、資金面からここまでの対策は現在もなおできていないとのことである。

読んでいて驚いたのは、自民党がいかにメディア対応をしていたかに関して、レポートをまとめており、そのレポートが有識者等に公開されている点である。
内々の大事な資料のように思うが、対外的なアピールの面もあり公開しているようである。
(さすがに公開してよいものだけで、公にできないものはなかったようだが)

また、若者向けのアピールも自民党は、18歳に選挙権が付与される前から対策(特にネット)をしており、その効果も出ていると思われる。

著者は、政治側が情報武装することで、理性ではなくイメージ等の「情」に訴えかけるようになっており、今後もこの傾向は続くと思われる。

冒頭のトランプの大統領当選は、まさに感情への訴えかけが成功した結果だと私自身も受け止めており、「もしトラ」という言葉が叫ばれているが、今年のアメリカ大統領選も似たような様相を呈している。
(トランプばかりに触れたが、日本も同様の状況)

本書内では、「理性、熟慮の政治」が理想であると触れられているが、具体的な解決策や道筋は、書かれていない。
政治側の情報武装・簡易化は、今後ますます進むことが予見されるが、情報武装・簡易化への生活者側で対策を取ることは極めて難しい。
(予め政治側が、理性を埋め込むような仕組みを入れることに触れているが、政治側にとってそのような不都合なことをするマインドが働くことはないだろうと著者は指摘している)

特に日本においては、歴史的に見てもお上と戦い、権利を獲得したようなことがほとんどなく、多くは「外圧」によってやむなく変化・変容してきた国である。

陳腐になってしまうが、少なくとも各選挙の時だけでも感情に流されるのではなく、立ち止まって理性的に考え行動することが小さな小さな一歩目ではないと思う。



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