大人の読書感想文「シュガータイム」
あらすじ
三週間ほど前から、私は奇妙な日記をつけ始めた。春の訪れとともにはじまり、秋の淡い陽射しの中で終わった、私たちのシュガータイム。青春最後の日々を流れる透明な時間を描く、芥川賞作家の初めての長編小説。
文庫本背面より
一人の大学生が奇妙な食欲と彼女の周囲に起こるありきたりな「変化」。
その流れが誠実に描写し、過剰なほど美しく描かれている。
選んだ理由
私は好きな作家さんは?という質問に「小川洋子さん」と即答できる。
シュガータイムは駅ビルの本やで手に取った。小川さんの作品を読みたいと思って買いに行ったがなぜシュガータイムだったのか、、、
小川洋子さんの初期のころの作品であること
シュガータイム=砂糖時間 という言葉に惹かれたこと
この2点が私がこの作品を選んだ理由だ。
大好きな小川洋子さんであるが私は新しい作品を多く読んでいた。それは”小川洋子ワールド”が確立された作品たちである。少し古い作品を読んで小川さんの世界観が作られた過程を覗きたかった。
砂糖=お菓子は大好きだ。たまにおかしくなって食べたくてしょうがない、満腹なのに食べたいという妙な食欲に支配されるときがある。シュガータイムのあらすじを読んで自分に似たものを感じた。
感想文
シュガータイムの主人公は異常な食欲とともに生活を始める。
この異常な食欲であるが、私にも覚えがあった。
胃袋は大きくないため欲に限界はあるがおなかがいっぱいなのに食べたいという状況は経験したことがある。
そういったとき、私は精神的に不安定である。
(鶏が先か卵が先か、食欲が先が不安定な精神が先かわからないが)
ただ私の食欲はすぐに正常になる。
こういった自分の経験から主人公の食欲も精神面の不安定さからきているものと考えることもできる。物語では語られない変化が彼女の無意識のうちに体にも変化を与えていたのではないかと。
ただその考え方は私は気に入らない。
小川洋子さんの作品を読んでいると理屈で説明できないことが多い印象にある。だからこの主人公の食欲も精神の不安定さで説明されたくない、と思ってしまった。
この物語の不思議なところは世界が日常であることだ。
主人公は大学生でアルバイトをしていて、仲の良い友達とお昼を食べ、近くに住む弟とご飯を食べ、母親からの電話があり、彼氏がいて、みんなで野球を見に行く。どこにでもある日常だ。しかしその一部にはおかしなこと、異常なことが落ちている。真っ白の何の変哲もない紙が所どころ虫に食われて穴あきになり、そこから普通が落ちてしまったような。私が読んだのは虫食いの紙だったのだ。
「この物語は何を伝えたいか」というところに集結されるのはあまり好きではないのだけれどこの物語に伝えたいことを見出すのならばそれは
「異常を受け入れる寛大なこころ」だと思う。
私は主人公のシュガータイムはまたやってくるかもしれないと思っている。そして彼女がおばあちゃんになるころには日常の一部になるのではないか。
片頭痛持ちの人が薬を常備していて頭痛が来ても慌てふためくことがないように彼女はシュガータイムがやってきたらおとなしく日記を書くのではないか。
異常に思えることに出会ったときどれだけそれに対して自分は寛大な心で受け止められるのか。それを考える本だった。
まとめ
シュガータイムは小川洋子さんの中では小川洋子さんぽくなかった。
気がする?
登場人物にちゃんと名前があるというのが珍しい。しかも主人公の名前が母の名前だったから余計に不思議な気持ち。
ここまで読んでくれてありがとう
ぜひ、読んでみてください。
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