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春
「あーちゃん、はるはる!」
暖かな陽射しの中、娘をバギーに乗せてその日もお散歩に出かけました。
桜が満開でした。
少し風が吹くとハラハラと桜の花びらが落ちてきます。
春になって、言葉を話し始めた娘を連れて桜がまだ蕾の頃から毎日散歩に出掛けていました。
桜が咲き始めると、私は娘に
「しーちゃん桜がきれいね。もう春ね」と話しかけながら散歩に出かけました。
もう少し桜が咲き揃い五分咲きになると「しーちゃん暖かくなったね。春ねー。桜がたくさん咲いたね」と話しかけて桜の道を歩きました。
満開の桜の下で花を見上げると、慌ただしい子育ての事も忘れて、「ああ春がきたな。」と幸せな気持ちになったものでした。
その時、ご機嫌でバギーに座り、足をバタバタさせていた娘が「あーちゃん!はるはる!」と私を呼んだのです。
何だろう?と娘の方を覗き込むと、ズボンを履いた娘の膝の上に、一枚の桜の花びらが舞い落ちたのでした。
毎日私が「春ねー」と話しかけていたので、娘は桜のことを「春」と言うのだと思ったのでしょう。
娘にとっては、物心ついて初めての春であり、桜だったのです。
「しーちゃん。桜の花びらがお膝に乗ったね」と私は笑いました。
娘も嬉しそうに笑いました。
桜が散り始めるのを淋しく思う人も多いでしょうね。でも、私は桜が散り始めると決まってあの無邪気な娘の声を思い出すのです。
「あーちゃん!はる!はる!」
そして子育ては小さな幸せの連続だなと、しみじみ思うのです。
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