相続放棄〜生き別れた父の死〜(前編)③

2022.2.24(木)法定相続人


40年前に生き別れた父が遺した不動産。その固定資産税を払わなければならないのか、どうなのか。そして、昨晩の妻の一言ではたと気付かされた、父はどこでどのように死んだのか?さらにその遺骨や、部屋に残された遺品はどうなっているのか?K市役所に電話をしたいのだが、日中は仕事に忙殺されその暇がない。しかし、明日までに電話しないと、土日を挟んでさらに事実確認が遅くなる。


あっという間に終業時刻になった。残務を処理しているとスマホが震えた。不動産査定一括サイト経由で査定を依頼した1社で、埼玉県N市にあるという不動産会社の店長だった。「物件は今どのような状態ですか?リフォームはされていますか?」矢継ぎ早に質問されるが、どちらも答えを持ち合わせていない。「あの…大変申し訳ないんですが、こちらの物件は父が所有していたもので。その父とは40年前に両親が離婚後、音信不通だったんですが、先日東京都K市役所から、父が亡くなったので、法定相続人である私宛に『固定資産現所有者申告書』を提出するよう通知があったものですから」と正直に事情を伝える。店長は「あぁ、それは大変申し訳ございません、立ち入ったことを伺ってしまいました」と電話でも頭を下げている様子がわかるような声だ。「いえいえ、こちらこそ情報が何一つなくすみません。父がどのようにして亡くなったのかも分からず、遺品が残ったままになっているかもしれませんし、もっというと”事故物件”かも知れないんです」


法定相続人には常に配偶者が含まれる。父が再婚していれば、その相手が相続する。さらに2人の間に子供(ぼくから見れば異母兄弟)がいれば、彼らも相続人となる。しかし、ぼくのところに通知が来たということは、それら相続人が存在しないということを意味する。実はぼくが大学受験に失敗し、予備校に通っていた頃、祖母が教えてくれたことがある。父は正式に母と離婚が成立する前、別居していたときから女性のところに転がり込んでいたが、その女性とすぐに再婚したということ。しかし、その後間もなくして、女性は亡くなってしまったということ。2人の間には子供がいないということ。祖母がなぜそこまで詳しく知っているのか、理由はあるのだがここでは割愛する。とにかく、そういう事情を祖母から耳にしていたので、今回すんなり状況が理解できていたのだ。


「明日にでも市役所に電話して、父が亡くなった経緯やいま物件がどうなっているのかを聞いてみます。何かわかったら連絡します」ずっと恐縮しっぱなしの店長にそう告げて電話を切った。


仕事を終えて自宅に帰ると、妻がまた心配のタネを撒いてきた。「お父さん、借金抱えてたりしてないよね?相続放棄した方がいいんじゃない?」相続放棄、どこかで聞いたことあるぞ。どうすればいいんだっけ?いや、そもそも相続って…?固定資産税のことばかり気になって、物件さえ売り払ってしまえばそれがたとえ二束三文だろうが父との関係をすぱっと断ち切れる。それくらいに考えていた。しかし、そもそもこれは法定相続人であるぼくが、被相続人である父から「相続」するかどうかを、ぼく自身が判断しなければならないことなのだ。


福岡市内に相続専門の弁護士事務所があり、無料で相談を受け付けているのを広告で目にしたことがある。まずはそこに聞いてみよう。スマホで検索してみると、夜9時まで予約が可能とあった。まだ間に合う。電話をかけてみると、翌日の夕方6時に電話での相談ならばと、予約が取れた。明日は市役所に電話して、それから弁護士との相談だ。

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