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律子とこうすけの最後の夜

私たちは2杯のビールを二日酔い明けの胃に流し込んだあと,普通な感じでユキと三人でレストランの席に着いた。

なんだか不思議な光景である。ユキもこうすけとはほぼ昨日会ったばかりのような感じなのだから。とはいえ,みんなコミュ力が高いため,特に気にすることもなかった。

ユキが「最初,ビールにする?」と言った時,私とこうすけで目を合わせてしまった。で,2人とも「そうね。」と我々はその日2回目の乾杯ビールをした。

話は仕事の話とか色々出てきた。なんだかちょっぴり深くこうすけを知った気がした。こうすけは3年前もアメリカに転勤してたことや,日本があまり合わないからアメリカのが気楽でいいと言っていた。

実は私もアメリカに2年ほど住んでいたことがあるからなんとなくその気持ちもわからなくもなかった。
なんかもう1人自分がいたらアメリカ用としてこうすけと一緒にアメリカに行きたいなと思った。

ユキがトイレに席を立った時,こうすけから,

「ユキさん,また飲むとか2軒目とか言わないかな?」

「とりあえずお腹いっぱいすぎるからサクッとまたね,と言おう。」

2人で計画を練る。食事を終えてレストランを後にし,歩きながら私も演じる。

「お腹いっぱいになったね。ユキありがとう。明日月曜日だから今日はゆっくりしよー。」

やはり私も性格が悪いなと改めて思ったが,ユキ、許してほしい,こうすけとはもう今日しか時間がないのだ。だから,許してほしい。

こうすけもサクッとタクシーを捕まえた。「ユキさんありがとうございました!」。もはや俳優である。そのタクシーの乗せる振る舞いが普通の日本男子よりもスマートでちょっとドキッとした。

タクシーを見送ってから,特にどうしようかとかもなく私の家へと向かった。

自然と手を繋いでいた。あまりにも自然すぎて心地が良かった。こうすけの手は

暖かかった。

ワインを一本コンビニで購入した。まだ私たちは飲むのである。

テーブルに向き合いながらまた話をする。

私たちは,何かを埋めるべくひたすら話す。こうすけがふと

「隣に来てよ。」と言う。

椅子を移動して隣でワインをまた飲む。7歳年下の男子はこれからまたアメリカに行く。素敵な未来が待っているだろう。

「好きな子できたら教えてね。こうすけがハッピーに過ごしてくれたら私も嬉しい。だから応援する。」

と、こうすけの肩にもたれかかりながら伝えた。本音である。

30代前半の男子はどんどん吸収して素敵になる可能性しかない。だから,この人の未来を友人としてでも見つめていけたら幸せだなあと思った。その気持ちも伝えた。

こうすけは「ありがとう。」と言ってキスをしてくれた。
最初のキスの時は感触さえも覚えていなかったけど,今日のそのキスはあまりにも優しかった。こうすけは優しい子だなあとキスをしながらそのハートがひしひしと伝わってくる。

私たちのラストナイト。

ベッドに行くのもキスをするのも抱かれるのも全てが台本に書いてあるかのような滑らかさでそこは優しさに満ちていた。ただただ優しさに溢れていて,全身がエンドルフィンに包まれる。全身がシルクで覆われているかのような心地。

こんなにたった2回目でエンドルフィンが出るものだろうかと後々考えてみたけど,多分私たちは合っていたんだと思う。

波長が、全てが。

私は不眠症とか変な時間に目が覚めるとかがあるんだけど,この日はなかった。こうすけの腕の中でぐっすりと眠れた。

そして朝目が覚めたらこうすけは私の横から消えていた。

ベッドの中からこうすけにラインを送った。

「いないー」。

こうすけから「朝会議だから早く出るねって伝えたよ。」

と。確かに言っていたのを思い出した。するとこうすけから

「朝起こさないで勝手に帰ってね。って言われたw」

「相変わらず性格悪い女だねw」

「だねw」

そう,足を乗せたり,勝手に帰ろと言ったりめちゃくちゃなのは完全に私である。


こうしてラストナイトは終わりを告げた。

続く。

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