【2024年11月1日施行】フリーランス新法への対応
本稿のねらい
2024年5月31日、同年4月12日から行われていた「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に関するパブコメの結果が公表された(パブコメに関しては以前の記事を参照)。
その中で、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法)の施行日が2024年11月1日とされることもわかった(政令第199号)。なお、当然のことではあるが、フリーランス新法の各規定はその施行後に行われた業務委託等を対象とする(ただし、施行前に行われた業務委託等について施行後に更新等を行う場合は新たな業務委託等があったものとして、更新後の業務委託等を対象とする)。
本稿では、従前フリーランスとの取引を行っていた/これからフリーランスとの取引を行う予定の発注事業者(※重要なことだがフリーランス同士の取引でもフリーランス新法第3条の明示規制が課される)にとってフリーランス新法施行までの間に対応しておくとよいことを紹介する。
基本的には、下請法の規律と労働法の規律を意識して対応すれば概ね問題ないはずである。
なお、あまり網羅性は重視せず、要点を抑えたものに過ぎないことに留意されたい。(以前の記事ではある程度網羅している)
【参考資料】
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(ガイドライン)
特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針(厚労省指針)
下請取引適正化推進講習会テキスト(下請法テキスト)
フリーランスに発注したいとき
募集情報の的確な表示
特定業務委託事業者(フリーランスではない発注事業者)が、自ら又は第三者に委託して、広告等により特定受託事業者(フリーランス)の募集に関する情報(募集情報)を提供する場合、①虚偽表示や②誤解惹起表示は禁止され、かつ、③常に正確で最新の内容に保つ必要がある(フリーランス新法第12条)。
この具体的な規制内容については、厚労省指針を参照する必要があるが、概ね職業安定法第5条の4「求人等に関する情報の的確な表示」に関する規律(同法施行規則第4条の3や指針を含む)と同様である。
<POINT>
結果的に業務委託をした相手方がフリーランスかどうかにかかわらず、募集情報の提供時点においてフリーランスに業務委託をすることが想定される募集は、フリーランス新法第12条を遵守する必要がある
「広告等」の募集情報の提供方法には、次のようなものが含まれ(厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第1条)、概ねあらゆる媒体を網羅している印象
新聞・雑誌等の刊行物に掲載する広告
文書の掲出・頒布
書面の交付・FAX送信(*)
電子メール等受信者を特定して情報伝達を行う電気通信の送信(電子メール、Social MediaのDirect Message機能・チャット機能等)(*)
テレビ・ラジオ
自社ホームページ
クラウドソーシングサービス等が運営するデジタルプラットフォーム
「募集情報」には、次のようなものが含まれ(フリーランス新法施行令第2条)、必ずしも明示する必要はないものの、事前に可能な限り提供されることが望ましいとされている(厚労省指針第2.5参照)
業務内容:成果物や役務提供の内容、業務に必要な能力や資格、検収基準、成果物の知的財産権の許諾や譲渡の範囲、違約金の定めなど
業務に従事する①場所②期間③時間に関する事項(納期を含む)
報酬に関する事項:報酬額や算定方法、支払期日、支払方法、交通費等の諸経費、知的財産権の許諾や譲渡の対価など
契約解除(期間満了後不更新を含む)に関する事項:解除事由、中途解除の際の費用や違約金の定めなど
募集者に関する事項:名称や業績など
【重要】ここでいう募集情報は、あくまで虚偽表示や誤認惹起表示等的確表示の対象となる事項であり、フリーランス新法第12条をよく読めばわかるように提供することが義務付けられるわけではなく、提供するなら的確に表示すべきという規律であり、フリーランス新法第3条の明示事項と混同しないよう注意(PC3-1-6~3-1-7, 3-1-11~3-1-16は見事に混同している例)
(*) 書面の交付やFAX送信、そして電子メール等については特定の受信者に対する提供方法だが、1対1でのやり取り・交渉として利用される場合はフリーランス新法第12条の規定は適用されない。あくまでフリーランスに対して広告等により広く勧誘することの規制だからである。(PC3-1-1~3-1-2)
①虚偽表示の禁止
虚偽の表示とは、例えば、フリーランスの募集情報を提供する際、意図して実際の就業に関する条件と異なる募集情報を提供することや実際には存在しない業務に係る募集情報を提供することを意味する
特に、発注主体・報酬額・契約期間に関して大きな差異があると、問題となる
第三者に募集を委託した場合、当該第三者が虚偽表示を行っていることを認識したら訂正を依頼するなど是正に努める必要がある
⇛ 普通にやれば何ら問題ない
②誤認惹起表示の禁止
虚偽の表示でなく、一般的・客観的に誤解を生じさせるような表示を意味する
特に、発注主体・募集の対象(業務委託なのか雇用なのか)・報酬額・業務内容に関して誤解を招く可能性が高く、注意が必要
第三者に募集を委託した場合、当該第三者が虚偽表示を行っていることを認識したら訂正を依頼するなど是正に努める必要がある
⇛ 普通にやれば何ら問題ない
③正確かつ最新の内容に保つこと
基本的には、次の2点を行えば足りる
募集を終了した場合:情報の提供を速やかに終了する
募集内容を変更した場合:情報を速やかに変更する
⇛ 普通にやれば何ら問題ない
フリーランスに発注するとき
発注先のフリーランス該当性
フリーランス新法において、発注事業者はともかく、発注先がフリーランスなのかそうではないのかは同法の適用の有無を左右する重要な要素であるが、同法におけるフリーランス(「特定受託事業者」)の該当性は、次のように外部から客観的な確認が困難である。
個人の場合:「従業員」(①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者であり、使用者の同居親族ではない)を使用していない個人かどうか(フリーランス新法第2条第1項第1号)
⇛発注事業者側からわかるはずがない(仮に誰かを使用していることがわかっても、雇用なのか業務委託なのかわかるわけがない)
法人の場合:1人の代表者以外に他の役員(取締役等又はこれらに準ずる者)がなく、かつ、従業員(上記と同じ)を使用しないもののいずれかに該当するもので、組織としての実態を有しないかどうか(フリーランス新法第2条第1項第2号)
⇛登記等を見ても発注事業者側からわかるはずがない
したがって、発注先がフリーランスかどうかは発注先自身の申告に委ねるほかない(一応相手方に確認することが想定されている)。
他方で、発注先が実態と異なる申告をした場合、例えば、事実はフリーランスなのにフリーランスではないと申告した場合でも、事実としてはフリーランスである以上、フリーランス新法は適用される。また、当初はフリーランスではなかったとしても、取引の途中でフリーランスになるということも十分想定できる(例えば、従業員がすべて退職してしまえばそうなる)。
その結果、例えば、発注事業者がフリーランス新法第3条第1項に基づき所定の事項を明示していないような場合には、同法違反となり、行政指導が行われる可能性がある(同法第22条)。
そのため、従前から繰り返し説明してきたとおり、取引開始から終了までの期間を通じて、発注事業者側からは発注先がフリーランスかどうかは判明しないことから、一見明らかにフリーランスではないと認められる先以外は、常に発注先がフリーランスであると考える方が安全である。
Column:弁護士もフリーランス?
フリーランス新法上のフリーランスの定義は上記のとおりであり、弁護士界隈にも等しく妥当する(士業だからとて適用除外されない(*))。
(*)フリーランス新法はその第2条第3項第2号括弧書き(「他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む」)により、いわゆる自家使用を含む。下請法が自家使用を含まない(同法第2条第4項)とは異なる点に注意が必要。
例えば、とある法律事務所の所長(ボス弁)がいて、アソシエイトの弁護士(イソ弁)を「雇った」とする。このとき、ボス弁は事務員等の従業員を使用している可能性があるが、イソ弁が従業員を使用していることはまずない。ちなみに、弁護士業は役務提供を業とするものであるから、「業務委託」(フリーランス新法第2条第3項第2号)に該当する。
そのため、イソ弁はフリーランスであり、イソ弁を「雇う」場合、ボス弁はイソ弁に対しフリーランス新法第3条第1項の所定の事項を明示しなければならない。
しかるに、現実には、ボス弁とイソ弁の間で所定の事項の明示はおろか、契約書の締結すらされていないことのほうが多いだろう。。
なお、会社が弁護士に相談や依頼を行う場合にも、当該弁護士がフリーランスに該当する可能性はあり、フリーランス新法への対応が必要となるかもしれない。ただ、少なくとも事件受任の場合は、弁護士職務基本規程第30条第1項において委任契約書の作成が必要とされていることから、フリーランス新法第3条第1項への対応は概ねクリアできるかもしれない。
明示事項
業務委託事業者(フリーランスを含む発注事業者)がフリーランスに対し業務委託を行った場合、直ちに、所定の事項をフリーランスに明示しなければならない(フリーランス新法第3条第1項、公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第1条第1項)。
<POINT>
「業務委託をした場合」:発注事業者とフリーランスとの間で、業務委託をすることについて合意した場合を意味する。なお、基本的な事項の取決めについてはあらかじめ行っておき、個別具体的な業務委託は別途合意するという場合、前者の基本的な事項の取決め(例えば基本契約の締結)は「業務委託をした場合」に該当せず、後者の個別具体的な業務委託の合意がそれに該当する(ガイドライン第2部第1.1(1))
「直ちに」:すぐにという意味で、一切の遅れが許されない(ガイドライン第2部第1.1(2))
【明示事項】
当事者の名称等:発注事業者&フリーランスの商号・氏名・名称・事業者別に付された番号・記号その他の符号であり、発注事業者&フリーランスを識別できるもの
業務委託をした日:業務委託をすることの合意をした日(≠業務委託契約書の作成日)
フリーランスの給付内容:提供されるべき物品・情報成果物・役務の品目・品種・数量・規格・仕様等のほか、(あれば)知的財産権の譲渡・許諾の範囲など
フリーランスの給付を受領又は役務提供を受ける日又は期間 (*)
フリーランスの給付を受領し又は役務提供を受ける場所:電子メール等により成果物等を受領する場合はメールアドレス等の明示を行う
フリーランスの給付内容につき検査を行う場合、検査完了期日
報酬額&支払期日:①具体的な金額の明示が困難なやむを得ない事情がある場合(具体例はガイドライン第2部第1.1(3)キ(ア))、明示するのは算定方法でもよい(公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第1条第3項)(**)、②知的財産権の譲渡・許諾がある場合、その対価を報酬に加える必要があるが、必ずしも内訳を示す必要はない(PC2-1-48)、③諸費用等の明示、④消費税・地方消費税の額の明示(内税・外税わかりやすくする)
報酬の支払につき手形を交付する場合、手形の金額&満期
報酬の支払につき債権譲渡担保方式/ファクタリング方式/併存的債務引受方式を採用する場合、①金融機関の名称、②貸付け又は支払を受けられる金額、③金融機関に対し支払う期日
報酬の支払につき電子記録債権の発生記録又は譲渡記録を行う場合、①電子記録債権の額、②電子記録債権の支払期日
報酬の支払につき資金移動業者への資金移動を行う場合、①資金移動業者の名称、②資金移動に係る金額
(*)弁護士に訴訟委任する場合、役務提供を受ける日又は期間が未定であるが、これは未定であることに正当な理由があるため問題ない(フリーランス新法第3条第1項但書、公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第1条第4項・第4条)。
(**)法律事務所内のボス弁とイソ弁の間の「報酬」に関して、いくつもPCがあり面白い興味深い。
一定年限を勤務した弁護士が留学に行く際の学費などを負担する場合の費用は業務対価性がなく「報酬」に該当しない(PC1-2-46)
TC制における報酬で、ボス弁とクライアントの関係で実稼働に応じた時間が反映されない場合⇛フリーランス新法第5条第1項第2号の報酬減額に該当(PC2-1-38)
以上を踏まえ、明示事項を網羅する注文書や業務委託契約書又は個別契約書を用意することになる。
明示方法
発注事業者は、フリーランスに対し業務委託を行う場合、直ちに、上記明示事項を書面又は公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第2条第1項に定める次の2つの電磁的方法により、明示しなければならない(フリーランス新法第3条第1項)。
①電子メール等
電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法第2条第1号に規定する電気通信)により送信される方法
1) 明示事項を記録した電子ファイルを添付した電子メールを送信
2) 明示事項をアップロードしたWebページ(ダウンロード機能をもつサービスを含む(*))のURLを記載した電子メールを送信
3) Social MediaのDirect Message機能を利用して明示事項を記載したメッセージを送信 (**)
4) FAX送信
(*)PC2-1-69参照(ストレージサービスや電子契約サービスを含むだろう)
(**)公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第2条第1項第1号は「その受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」と定めており、必ずしも1対1のDM機能を使うことを求めていないように思われる。つまり、いわゆるグループ機能やチャンネル機能を用いることもよいと思われる。しかし、公正取引委員会は、特段の留保なく「第三者」が閲覧することのできないメッセージ機能に限定しており(PC2-1-68)、どうやら1対1のDM機能に限定しているようである(謎)。
②USBメモリ等
電磁的記録媒体をもって調製するファイルに明示事項を記録したものを交付する方法(USBメモリやCD-Rなどの"遺物"が想定されている)
報酬の支払期日の定め
発注事業者は、フリーランスによる給付の内容について検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から起算して60日以内(※給付を受領した日を算入する。)のできる限り短い期間内の日を報酬の支払期日として定める必要がある(フリーランス新法第4条第1項)。
<POINT>
「給付を受領した日」は業務委託の内容により異なる
物品製造:物品を受領し発注事業者の占有に置いた日
情報成果物:情報成果物を記録した電磁的記録媒体(USBメモリやCD-R等の"遺物")を受領し発注事業者の占有においた日又は電気通信回線を通じて(インターネット経由で)発注事業者の電子計算機(PC等)内に記録した日 (*)
役務提供:発注事業者がフリーランスから個々の役務の提供を受けた日又は役務の提供に日数を要する場合は一連の役務の提供が終了した日 (**) (***)
「支払期日」はフリーランスの給付に係る報酬の支払日を意味する
原則:給付を受領した日から起算して60日以内の日を支払期日として定める (****)
例外①:支払期日を定めなかった場合、給付を受領した日
例外②:給付を受領した日から起算して60日を超えた日を支払期日として定めた場合、給付を受領した日から起算して60日を経過した日の前日
給付を受領した日があらかじめ明示した給付を受領する日より遅くなった場合、実際に給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内において支払期日を定め支払う必要がある(PC2-2-13)
(*)情報成果物に限り、下請法の場合同様の例外が認められている(ガイドライン第2部第2.1(1)イ、下請法テキスト45頁)。つまり、発注事業者が途中で、フリーランスの作成内容の確認や今後の作業の指示等を行うために情報成果物を一時的に発注事業者の支配に置く場合がある。この時点では当該情報成果物が給付としての水準に達し得るかどうか明らかではない場合で、あらかじめ発注事業者とフリーランスとの間で、発注事業者が自己の支配に置いた当該情報成果物が一定の水準を満たしていることを確認した時点で、給付を受領したこととすることを合意しているときは、発注事業者が当該情報成果物を自己の支配に置いたとしても直ちに受領したものとは取り扱わず、その日を支払期日の起算日とはしないことが認められている。
(**)下請法の場合同様の月単位での締切制度が認められている(ガイドライン第2部第2.1(1)ウ、下請法テキスト45-46頁)。つまり、個々の役務が連続して提供される場合、①月単位で設定した締日までに提供された役務に対して報酬が支払われることが合意され、かつ、その旨が明示されていること、②具体的な金額を定める算定方式が明示されていること、③フリーランスが連続して提供する役務が同種であることの3要件をすべて満たせば、月単位で設定された締日に役務が提供されたものとして取り扱い、締日から起算して60日(2か月)以内に報酬を支払うことが認められる。
(***)委託者がフリーランスに対し、営業等の役務に関し、一定の成果を上げることのほかに、当該成果を上げるために必要となる業務を実施することも含めて包括的に委託し、フリーランスが一定の成果を上げた場合にのみ報酬を支払うこととする場合がある。このような報酬体系をとっている役務の提供委託については、包括的な役務の対価として、一定の成果に基づいて報酬が支払われることとなるところ、フリーランスに支払うべき報酬が発生するのは当該成果が上がった日であるため、当該成果が上がった日が「役務の提供を受けた日」に該当し、その日を報酬の支払期日の起算日とすることが可能。(PC2-2-8~2-2-10)
(****)ガイドラインにもPCにも言及がないように思われるが、下請法においては、「支払期日」は具体的な日を特定できるよう定める必要があるとされており、例えば、「○月○日まで」とか「納品後○日以内」は支払期日の定めとして認められず、他方「○月○日」や「毎月末日納品締切、翌月○日支払い」は支払期日の定めとして認められる(下請法テキスト35頁)。フリーランス新法においても同様に、具体的な日を特定できるよう定める必要があると思われる。
フリーランスと取引にあるとき
支払期日における報酬の支払い
発注事業者は、支払期日までに報酬を支払わなければならないのが原則だが、フリーランスの責めに帰すべき事由により、定められた支払期日又は定められたものとみなされた支払期日までに報酬を支払うことができなかった場合、当該事由が消滅した日から起算して60日以内に報酬を支払わなければならない(フリーランス新法第4条第5項)。
<POINT>
フリーランスの責めに帰すべき事由
該当例:フリーランスが誤った口座番号を発注事業者に伝えていた(ガイドライン第2部第2.1(3)ア)
非該当:フリーランスが所定の日付までに請求書を発注事業者に提出しなかった(下請法テキスト46-47頁)
なお、以前の記事でも触れているが、「報酬」には消費税・地方消費税が含まれる以上(ガイドライン第1部1.5)、消費税・地方消費税について、フリーランスが計算を誤り過少に請求してきた場合でも、発注事業者において訂正の上、消費税・地方消費税を含め報酬全額を支払う必要があると思われる。仮に、発注事業者において誤りを訂正できずに過少に支払った場合、それはフリーランスにも帰責事由があるため報酬減額(フリーランス新法第5条第1項第2号)には該当しないと思われるものの、適時に追加で支払わなければならないと考えられる(同法第4条第5項但書参照)。
遵守事項/禁止行為
フリーランス新法第5条及び同法施行令第1条によれば、発注事業者は、1か月以上の期間行う業務委託を行う場合、フリーランスに対し、次の7つの行為を行うことが禁止される。
概ね下請法における親事業者の遵守事項(同法第4条)と同じ規律であり、この点に関しては以前の記事で詳細に触れているため参照されたい。
妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮
発注事業者は、6か月以上の期間にわたる業務委託(継続的業務委託)の相手方であるフリーランスからの申出に応じて、当該フリーランス(法人の場合はその代表者)が妊娠、出産若しくは育児又は介護(育児介護等)と両立しつつ業務に従事することができるよう、当該フリーランスの育児介護等の状況に応じた必要な配慮をしなければならない(フリーランス新法第13条第1項、同法施行令第3条)。⇛配慮義務
また、継続的業務委託以外の業務委託の相手方であるフリーランスについても、当該フリーランスが育児介護等と両立しつつ業務に従事することができるよう、当該フリーランスの育児介護等の状況に応じた必要な配慮をするよう努めなければならない(フリーランス新法第13条第2項)。⇛努力義務
<POINT>
継続的業務委託の期間の算定(解約予告の場面でも同じ規律)
始期:業務委託契約締結日
終期:業務委託契約終了日
⇛始期から終期までの間が6か月以上となることが見込まれれば継続的業務委託に該当する(厚労省指針第3.1(3))
※基本契約+個別契約の場合、基本契約の締結日を始期、同契約の終了日を終期として考える(厚労省指針第3.1(3))
契約の更新による継続の考え方
次の2つの要件を満たす場合に、契約の更新により継続すると考える(厚労省指針第3.1(3))
①契約の当事者が同一であり、その給付又は役務の提供の内容が少なくとも一定程度の同一性を有する
②前の業務委託に係る契約又は基本契約が終了した日の翌日から、次の業務委託に係る契約又は基本契約を締結した日の前日までの期間の日数が1か月未満である(クーリング期間が空いていない)(*)
必要とされる配慮(厚労省指針第3.2)
イ)配慮の申し出の内容等の把握
ロ)配慮の内容又は取りうる選択肢の検討
選択肢の例
(イ)妊婦健診に伴う打合せ時間の調整(理由はともかく、指揮命令関係にない以上、打合せ時間を強制することはできないし、そもそも理由を伝える必要性もないため、許容可能)
(ロ)妊娠に起因する症状により急に業務に対応できなくなる場合について相談したいとの申出に対し、そのような場合の対応についてあらかじめ取決めをする(⇛一定の納期内に成果物を提出するような業務委託であれば許容可能か?役務提供の場合は許容困難では?)
(ハ)子の急病等により作業時間を予定どおり確保することができなくなったことから、納期を短期間繰り下げることが可能かとの申出に対し、納期を変更する(⇛意味不明であり許容困難)
ハ)配慮の内容の伝達及び実施
ニ)配慮の不実施の場合の伝達・理由の説明
業務の性質や実施体制等に照らして困難
当該配慮を行うことにより、業務のほとんどが行えない
契約目的が達成できなくなること、
⇛やむを得ず必要な配慮を行うことができない場合には、フリーランスに対して配慮を行うことができない旨を伝達し、その理由について、必要に応じ、書面の交付や電子メールの送付により行うことも含め、わかりやすく説明する
(*)クーリング期間も6か月の算定に算入される点に注意が必要。つまり、クーリング期間は「前の業務委託に係る契約又は基本契約が終了した日の翌日から、次の業務委託に係る契約又は基本契約を締結した日の前日までの期間」を意味し(PC3-2-23)、例えば、2.5か月の契約終了後、0.5か月のクーリング期間を設け、その直後に3.0か月の契約を締結する場合、2.5+0.5+3.0で合計6か月となり、前後の業務委託につき上記①②の要件を満たす場合、継続的業務委託と判断される。
なお、かかる配慮を発注事業者に課すことについて正当性・合理性がなく不当であることについては以前から繰り返し述べてきたとおりであるが、ここでは繰り返さない。
ハラスメントに関して講ずべき措置
発注事業者は、業務委託に関してフリーランスに対し行われるハラスメントにより、フリーランスの就業環境が害されること(業務委託におけるハラスメント)がないよう、フリーランスからの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない(フリーランス新法第14条第1項)。
いずれのハラスメントも職場におけるハラスメント(ハラスメント指針)と同様であり、従前どおり、ふつうにやっていれば何ら問題ない。
<POINT>
業務委託におけるハラスメント
①セクシュアルハラスメント
対価型と環境型(cf. 男女雇用機会均等法第11条)
②妊娠・出産等に関するハラスメント
状態への嫌がらせ型と配慮申し出等への嫌がらせ型(cf. 男女雇用機会均等法第11条の3)
③パワーハラスメント
次のすべての要素を満たす(cf. 労働施策総合推進法第30条の2)
(1)取引上の優越的な関係を背景とした言動であり
(2)業務委託に係る業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたものにより
(3)特定受託業務従事者の就業環境が害されるもの
業務委託に関して行われる
フリーランスが業務を遂行する場所又は場面で行われるものをいう
ただし、フリーランスが通常業務を遂行している場所以外の場所であっても、フリーランスが業務を遂行している場所については、含まれる(厚労省指針第4.1(4))(*)
(*)この点、懇親会や打上げの場のほか、私的メールなどを含め「業務委託に関して行われる」に含めるべきであるとの意見がいくつか見られるが、パブコメでは肯定も否定もされていない(PC3-3-6~3-3-12)。他方、「取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅等であっても、当該特定受託業務従事者が業務を遂行する場所又は場面と認められる場合であれば、これに該当」するとされている。察するに、業務範囲外の時間・場所での行いを統制することは不可能であり(従業員同士でもそうである)、これらの時間・場所における言動が含まれることはないだろう。
フリーランスとの取引を解消したいとき
解除等の事前予告
発注事業者は、継続的業務委託(※育児介護等の箇所で触れたものと同義)に係る契約の解除をする又は契約期間の満了後に契約の更新をしない場合には、契約の相手方であるフリーランスに対し、厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第3条に定める方法で、少なくとも30日前までに、その予告をしなければならない(フリーランス新法第16条第1項本文)。
ただし、災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合その他の厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第4条で定める例外事由がある場合は、解除等の事前予告をする必要がない(フリーランス新法第16条第1項但書)。
基本的には、労働者を解雇する場合や契約更新をしない場合の手続(*)と同様に考えればよい。
(*)ここで重要なのは、フリーランス新法第16条第1項は単に解除等の手続を行政法規として定めているに過ぎない。つまり、仮に同条項に違反して解除等を行ったとしても、民事上の効力は妨げられないというべきである。民事上の効力は、契約上の解除事由の存否と信義則や権利濫用等(最判昭和50年4月25日参照)の一般条項違反の有無により定まる。そのため、従前フリーランスとの契約で用いていた業務委託契約書の解除事由/無催告解除特約は依然有効であり、フリーランス新法施行に際して改定する必要はない。他方、特に無催告解除特約につき、担当者の運用に委ねることにリスクを感じる場合、フリーランスとの契約用に解除等に関する条項をアレンジして用意しておくことも考えられる。
民法上も一定の場合に無催告解除が認められており(民法第542条)、加えて業務委託契約において無催告解除事由として定められることの多いものは次のとおりだが、多くの事由は信用不安系であり、厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第4条で定める例外事由に該当しない。
信用不安 :例外事由に該当しない(PC3-4-39参照)(*)
登録/許可:例外事由に該当する(PC3-4-41)
反社該当 :例外事由に該当する(PC3-4-39, 3-4-42)
信用失墜 :例外事由に該当する(PC3-4-40)
(*)この点、労働契約について考えてみると、労働者の破産又は税金の滞納等それ自体は解雇事由とはならないと考えられており、仮に労働者の破産又は税金の滞納等のみを理由に解雇すれば解雇権の濫用として無効となる可能性が高い(民法第631条参照、労働契約法第16条)。
<POINT>
契約の解除
発注事業者からの一方的な意思表示に基づく契約の解除を意味する
フリーランスからの一方的な意思表示に基づく契約の解除や発注事業者とフリーランスの合意による解除は含まれない(※いずれもフリーランスの自由な意思に基づくことが必要)
無催告解除特約
この特約があっても直ちに事前予告が不要となるものではなく、フリーランス新法第16条第1項但書に該当する場合以外は事前予告が必要
契約期間の満了後に更新しない(不更新)
継続的業務委託に係る契約が満了する日から起算して1か月以内に次の契約を締結しないこと(cf. 「継続的業務委託」の定義)
事前予告の例外事由
①災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合
②元委託業務の全部又は一部についてフリーランスに再委託をした場合で元委託業務に係る契約の全部又は一部が解除され、フリーランスに再委託をした業務(再委託業務)の大部分が不要となった場合その他の直ちに再委託業務に係る契約の解除をすることが必要であると認められる場合
③基本契約に基づいて業務委託を行う場合又は契約の更新により継続して業務委託を行うこととなる場合で、契約期間が30日以下である1つの業務委託に係る契約(基本契約に基づいて業務委託を行う場合は個別契約に限る)の解除をしようとする場合
④フリーランスの責めに帰すべき事由により直ちに契約の解除をすることが必要であると認められる場合
濫用防止の観点から、「(フリーランスの)責めに帰すべき事由」がフリーランス新法第16条の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質なものであり、したがって発注事業者にフリーランスに対し30日前に解除の予告をさせることが当該フリーランスの責めに帰すべき事由と比較して均衡を失するようなものに限る(ガイドライン第3部4(4)エ)(*)
例えば、次のような場合がこれに該当する(例示列挙)(**)
(1)業務委託に関連して、刑法犯等に該当する行為を行った場合(極めて軽微なものを除く)
(2)業務委託に関連して、極めて軽微であっても発注事業者が不祥事防止の体制を講じていたにもかかわらず継続的・断続的に刑法犯等又はこれに類する行為を行った場合
(3)私的に刑法犯等に該当する行為を行い、著しく発注事業者の名誉信用を失墜させる/取引関係に悪影響を与える/両者間の信頼関係を喪失させる場合
(4)賭博、風紀紊乱等により業務委託に係る契約上協力して業務を遂行する者等に悪影響を及ぼす場合
(5)私的に賭博、風紀紊乱等を行い、著しく発注事業者の名誉信用を失墜させる/取引関係に悪影響を与える/両者間の信頼関係を喪失させる場合
(6)業務委託の際にその委託をする条件の要素となるような経歴・能力を詐称/業務委託の際に発注事業者の行う調査に対し、業務委託をしない要因となるような経歴・能力を詐称した場合
(7)フリーランスが、業務委託に係る契約に定められた給付及び役務を合理的な理由なく全く又はほとんど提供しない場合
(8)フリーランスが、契約に定める業務内容から著しく逸脱した悪質な行為を故意に行い、改善を求めても全く改善が見られない場合
⑤基本契約を締結している場合であって、フリーランスの事情により、相当な期間、個別契約に基づく業務委託をしていない場合
(*)この発想の根源は、労働者の解雇予告の例外事由である「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」(労働基準法第20条第1項但書)にある。この「労働者の責に帰すべき事由」は、「通常の解雇事由としての労働者の非違行為よりも悪質性が高く、当該労働者を継続して雇用することが企業経営に支障をもたらす場合」と定義されている(水町勇一郎「労働法(第9版)」159頁注160)。
(**)一般に、就業規則において、いわゆる普通解雇の場合は解雇予告を行う旨が定められているのに対し、(労働基準監督署長の認定は必要だが)懲戒解雇の場合は解雇予告の適用除外となっていると思われる(モデル就業規則[令和5年7月版]第53条第2項・第3項参照)。同モデル就業規則では「労働者の責めに帰すべき事由によって解雇するとき」の例として、横領・傷害や2週間以上の無断欠勤が挙げられている(同72頁)。また、同モデル就業規則における懲戒解雇事由は次のとおりであり、ガイドライン第3部4(4)エの事由に近似する。
① 重要な経歴を詐称して雇用された
② 正当な理由なく無断欠勤が○日以上に及び、出勤の督促に応じなかった
③ 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、○回にわたって注意を受けても改めなかった
④ 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかった
⑤ 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えた
⑥ 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなった(当該行為が軽微な違反である場合を除く)
⑦ 素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱した
⑧ 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがない
⑨ ハラスメント禁止規定に違反し、その情状が悪質と認められる
⑩ 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用した
⑪ 職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等より不当な金品を受け、若しくは求め若しくは供応を受けた
⑫ 私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をした
⑬ 正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害した
⑭ その他前各号に準ずる不適切な行為があった
事前予告方法
発注事業者は、解除等の事前予告について、①書面を交付(厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第3条第1項第1号)、②FAX送信の方法(同項第2号)、③電子メール等の送信の方法(フリーランスが当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る)(同項第3号)のいずれかの方法により行われなければならない(フリーランス新法第16条第1項)。
ここで、電子メール等に関して、フリーランス新法第3条第1項にはなかった方式限定が課されている。つまり、電子メール等のうち、フリーランスがその電子メール等に添付されたファイル等の電磁的記録を出力することで書面を作成できるものに限られている。しかも、発注事業者が送信した事前予告に係る事項の全文が出力される必要があるとされている(ガイドライン第3部4(3)イ)。
以上
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