【投資信託】ファンドの交付目論見書へ「総経費率」を記載!?

本稿のねらい


2022年3月14日、一般社団法人投資信託協会(投信協会)は、同会の規則である「交付目論見書の作成に関する規則(令和3年12月改正」(交付目論見書規則)の細則に当たる「交付目論見書の作成に関する規則に関する細則(令和4年4月改正:令和6年4月施行」(交付目論見書細則)の改定につきパブコメを実施し、同年4月21日付けで交付目論見書細則を改定した(パブコメ結果)(本改定)。なお、本改定の施行は、2024年4月1日からである。

投信協会「交付目論見書の作成に関する規則に関する細則(令和4年4月改正:令和6年4月施行)」第6条「②ファンドの費用・税金」

本改定の趣旨は次のとおり説明されている。

令和3年に本会の常設委員会である政策委員会より、投資者の購入時に使用する交付目論見書に新たに投資信託で投資を始めようとする投資者の投資判断に資する取り組みとして、投資者の裾野拡大につながる開示(例えば、運用報告書で記載が行われて いる「総経費率」の直近のデータを「交付目論見書」に記載する等)についての検討要請を受け、交付目論見書の作成に関する規則を所管する開示専門委員会を中心に検討してきたところである。

投信協会「『交付目論見書の作成に関する規則に関する細則』の一部改正について」別紙1

従前、殊に2013(平成25)年の金商法等改正に基づく2014(平成26)年の「特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令」や「投資信託財産の計算に関する規則」改正以後は、交付目論見書や交付運用報告書に信託報酬等やその他の手数料等の金額又は料率のほか、それらを対価とする役務の内容を記載することになり(後述)、また、その時点では記載事項への追加が断念された「総経費率」(Total Expense Ratio)は、2018(平成30)年9月の投信協会「投資信託及び投資法人に係る運用報告書等に関する規則」改定を経て、2019(令和元)年9月30日から交付運用報告書と運用報告書(全体版)に記載されている。

【参考】交付目論見書の例

三菱UFJアセットマネジメント『交付目論見書』10頁
「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」
※赤枠とそれに関連する記載は筆者追記

【参考】交付運用報告書の例

三菱UFJアセットマネジメント『交付運用報告書』4頁
「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」

本改定は、既に交付運用報告書や運用報告書(全体版)には記載する必要がある「総経費率」を、投資者がファンドを購入する前の段階で交付することが義務付けられている交付目論見書にも記載するようファンド運用会社(投資信託委託会社/アセットマネジメント会社)に求めるものである。


基本事項の確認


(1) 投信協会とは

投信協会は、金商法上の「認定金融商品取引業協会」(同法第67条以下)の1つであり、主に投資信託委託会社を会員とし、「投資信託及び投資法人など投資運用業等の健全な発展、並びに投資者の保護に資することを目的とする」団体である(金融庁ウェブサイト)。

投信協会の主な事業の1つに自主規制業務があり、交付目論見書に関する交付目論見書規則や交付目論見書細則のほか自主規制にかかる規則類を制定し、それを協会員に遵守させることにより投資運用業等の健全な発展や投資者保護を図っている。

(2) 交付目論見書/請求目論見書とは

▶ 現行ルール

「交付目論見書」とは、ファンドの購入前又はファンドの購入と同時に投資者に交付することが販売会社(証券会社や銀行等)に対し義務付けられている目論見書を意味し(金商法第15条第2項)、表紙に「投資信託説明書(交付目論見書)」と記載されていることが多い(交付目論見書規則第2条(1)参照)。なお、交付目論見書を含む目論見書を作成する義務があるのは有価証券の発行者であり(金商法第13条第1項、第2条第5項)、投資信託の文脈ではファンド運用会社(投資信託委託会社/アセットマネジメント会社)である(投信法第2条第7項参照)。

三菱UFJアセットマネジメント『交付目論見書』10頁
「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」

(届出の効力発生前の有価証券の取引禁止及び目論見書の交付)
第15条 
 発行者、有価証券の売出しをする者、引受人、金融商品取引業者、登録金融機関若しくは金融商品仲介業者又は金融サービス仲介業者は、前項の有価証券又は既に開示された有価証券を募集又は売出しにより取得させ、又は売り付ける場合には、第13条第2項第1号に定める事項に関する内容を記載した目論見書をあらかじめ又は同時に交付しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
 (略)
 当該目論見書の交付を受けないことについて同意した次に掲げる者に当該有価証券を取得させ、又は売り付ける場合(当該有価証券を募集又は売出しにより取得させ、又は売り付ける時までに当該同意した者から当該目論見書の交付の請求があつた場合を除く。)
 当該有価証券と同一の銘柄を所有する者
 その同居者が既に当該目論見書の交付を受け、又は確実に交付を受けると見込まれる者
 第13条第1項ただし書に規定する場合

金融商品取引法

(目論見書の作成及び虚偽記載のある目論見書等の使用禁止)
第13条 その募集又は売出し(中略)につき第4条第1項本文、第2項本文又は第3項本文の規定の適用を受ける有価証券の発行者は、当該募集又は売出しに際し、目論見書を作成しなければならない。開示が行われている場合(中略)における有価証券の売出し(中略)に係る有価証券(中略)の発行者についても、同様とする。(略)
 前項の目論見書は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める事項に関する内容を記載しなければならない。(略)
 第15条第2項本文の規定により交付しなければならない場合 次のイ又はロに掲げる有価証券の区分に応じ、当該イ又はロに定める事項
 その募集又は売出しにつき第4条第1項本文、第2項本文又は第3項本文の規定の適用を受ける有価証券 次に掲げる事項
(1) 第5条第1項各号に掲げる事項(中略)のうち、投資者の投資判断に極めて重要な影響を及ぼすものとして内閣府令で定めるもの

金融商品取引法

(届出を要する有価証券に係る交付しなければならない目論見書の記載内容)
第15条 法第13条第2項第1号イ(1)(中略)に規定する内閣府令で定めるものは、次の各号に掲げる特定有価証券の区分に応じ、当該各号に定める事項とする。(略)
 内国投資信託受益証券 第25号様式により記載すべき事項

特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令

第25号様式による交付目論見書の項目は次のとおりである。

  1. ファンドの名称

  2. 委託会社等の情報

  3. ファンドの目的・特色

  4. 投資リスク

  5. 運用実績

  6. 手続・手数料等

  7. 追加的情報

それぞれの項目について、多くは有価証券届出書に関する第4号様式に記載すべき事項を簡潔に記載することとされている。

本稿が対象としている「手数料等」については、「第4号様式『記載上の注意』(21)から(25)までにより記載すべき事項を簡潔に記載すること」と指示されている(第25号様式(6))。

第4号様式では「投資者が申込みから換金(解約)までの間に直接的に、又は間接的に負担することとなる費用」を「手数料等」と定義している(同(21))。ほかにも、「申込みに係る手数料」を「申込手数料」(同(22))、「換金(解約)に係る手数料」を「換金(解約)手数料」(同(23))、「ファンドから支払われる報酬及び手数料」を「信託報酬等」とし(同(24))、それら以外の手数料等として「その他の手数料等」というバスケットを用意している(同(25))。昨今のインデックス投資信託において重要なのは、「信託報酬等」と「その他の手数料等」である。

必ずしも明確とは思われないが、「手数料等」の中に、「信託報酬等」や「その他の手数料等」が含まれるという構造になっている。

【参考】初心者はこちら

他方、「請求目論見書」とは、ファンドの購入前に投資者から交付請求があった場合には直ちに交付することが義務付けられている目論見書を意味し(金商法第15条第3項)、表紙に「投資信託説明書(請求目論見書)」と記載されていることが多い(交付目論見書規則第2条(1)参照)。
記載内容はほとんど有価証券届出書と同じであり(特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令第16条第1号)、文量も膨大である(200頁前後)。

(届出の効力発生前の有価証券の取引禁止及び目論見書の交付)
第15条
 発行者、有価証券の売出しをする者、引受人、金融商品取引業者、登録金融機関若しくは金融商品仲介業者又は金融サービス仲介業者は、第1項の有価証券(政令で定めるものに限る。以下この項において同じ。)又は既に開示された有価証券を募集又は売出しにより取得させ、又は売り付ける場合において、その取得させ、又は売り付ける時までに、相手方から第13条第2項第2号に定める事項に関する内容を記載した目論見書の交付の請求があつたときには、直ちに、当該目論見書を交付しなければならない。

金融商品取引法

(目論見書の作成及び虚偽記載のある目論見書等の使用禁止)
第13条 
 前項の目論見書は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める事項に関する内容を記載しなければならない。(略)
 (略)
 第15条第3項の規定により交付しなければならない場合 次のイ又はロに掲げる有価証券の区分に応じ、当該イ又はロに定める事項
 その募集又は売出しにつき第4条第1項本文、第2項本文又は第3項本文の規定の適用を受ける有価証券 次に掲げる事項
(1) 第5条第1項各号に掲げる事項のうち、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすものとして内閣府令で定めるもの

金融商品取引法

(届出を要する有価証券に係る請求があったときに交付しなければならない目論見書の記載内容)
第16条 法第13条第2項第2号イ(1)(中略)に規定する内閣府令で定めるものは、次の各号に掲げる特定有価証券の区分に応じ、当該各号に定める事項とする。(略)
 内国投資信託受益証券 第4号様式に掲げる事項(同様式第三部の第2及び第3に掲げる事項を除く。)

特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令

▶ (参考)平成16年証券取引法等改正 ⇢ 三部構成化

ディスクロージャー制度の合理化を図る趣旨で、目論見書を必ず投資者に交付しなければならない交付目論見書と投資者から請求があれば交付しなければならない請求目論見書の2つに分割された。

投資家にとってわかりやすい目論見書にしなければいけない。投資家のニーズに応じた情報提供を可能にするために、今回は、必ず交付しなければいけない目論見書と請求に応じてやるものというふうに区別するわけでございます。その分割の対象となる有価証券につきましては、これは政令で定めるということにしております。どのような有価証券をその対象にするかについても、有価証券の種類ごとに判断する必要がありますけれども、現段階においては、政令で投資信託証券を定めるということを考えております。  
これは、投資信託というのは市場入門商品であるということで、個別の会社の信用力に基づいて発行されるものではなくて投信財産の価値を基本として発行されるものでありますので、目論見書のすべての記載内容、それが投資判断にとって重要であるということではないだろう。だから、分割でもよいのではないか。

第159回国会衆議院財務金融委員会第22号平成16年4月27日竹中平蔵国務大臣発言No.81

上記思想に基づき、平成16年証券取引法等の改正により、交付目論見書の対象は有価証券届出書の第一部(証券情報)と第二部(ファンドの情報)とされ、そして投資信託の請求目論見書の対象は同第三部(ファンド(投資法人)の詳細情報)とされた(平成21年特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令改正前同府令第15条第1号・第16条第1号)。

金融庁ウェブサイト

【参考】平成21年特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令改正

金融審議会金融分科会第一部会「ディスクロージャー・ワーキング・グループ」(第1回)資料4・1頁

▶ (参考)平成21年特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令改正

平成16年証券取引法等改正により目論見書が交付目論見書と請求目論見書に分割され、メリハリが付けられるようになったものの、次のような課題が指摘されていた。

  • 投資者の6割以上が目論見書を読まない

  • 読まれない理由として、①文量が非常に多い、②全般的に専門用語が多く表現が分かりづらい、③全体の構成が複雑でどこに何が書いてあるのか分からない、④重複も多い、などの不満がある

  • 交付目論見書と請求目論見書を合冊して交付している会社もある(※)

※もともと交付目論見書と請求目論見書を合冊して交付することについては金融庁が認めていた方法である(平成16年証券取引法等改正時パブコメ)。

そこで、金融審議会金融分科会第一部会ディスクロージャー・ワーキング・グループが開催され、主に交付目論見書の記載内容について改善するよう提言する報告書がまとめられた。

投資信託証券の目論見書について、投資家にとって投資情報として特に重要であると考えられる情報を読みやすく、利用しやすい形で提供する観点から、交付目論見書の記載項目、記載方法等の形式面についての標準化・統一化を図るとともに、その具体的な記載内容についての見直しを行うことが適当である。
(中略)
投資家にとって利用しやすい交付目論見書にするためには、例えば、複雑な仕組みの投資信託を除き、数ページ程度の分量に収めるなどの工夫を通じて、投資判断に必要かつ簡潔な情報が、分かりやすい形で提供されるよう改善されることが相当である。
(中略)
特定有価証券開示府令を改正し、有価証券届出書記載事項を引用する形から目論見書独自の記載事項を定める形式に改めることとし、また、その記載内容についても、投資家の投資判断に必要な内容に記載項目を絞りこむ方向で見直すことが適当である。

金融審議会金融分科会第一部会ディスクロージャー・ワーキング・グループ報告書4-5頁

これを受けて、平成16年証券取引法等改正当時の三部構成から脱却し、現行ルールのように投資信託の交付目論見書は独自の様式である第25号様式を採用するに至っている。

⇢ 平成21年特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令改正
⇢ 
パブコメ結果

(3) 交付運用報告書/運用報告書(全体版)とは

▶ 現行ルール

運用報告書は投信法上のルールであり、原則として約款で定めた計算期間の末日ごとに投資信託委託会社が作成し、知れている受益者(投資者)に交付しなければならないものである(同法第14条第1項)。多くの場合、販売会社(証券会社や銀行等)が投資信託委託会社に代わってファンド受益者(投資者)に運用報告書を交付している。

(交付運用報告書の交付)
第10条の2   
委託会社は、細則で定める場合を除き、投信法第14条第4項に規定の交付運用報告書を作成の都度、知れている受益者に交付しなければならない。なお、交付運用報告書の交付に当たっては、委託会社と交付運用報告書の交付に係る業務に関する委託契約を交わした販売会社を通じて行うことができるものとする。

投信協会「投資信託及び投資法人に係る運用報告書等に関する規則(令和5年4月改正)

運用報告書は、下記平成25年金商法等改正により、ファンド受益者(投資者)に必ずし交付される「交付運用報告書」(投信法第14条第4項)と約款においてホームページ等に掲載することで提供する旨を定めていれば個別の交付は原則として不要となる「運用報告書(全体版)」(同条第1項〜第3項)に区別された。

そして、下記平成30年投信協会規則等改定により、交付運用報告書と運用報告書(全体版)いずれにおいても、「(参考情報)総経費率」の記載が必要となった(投信協会「投資信託及び投資法人に係る運用報告書等に関する規則(令和5年4月改正)」第3条(5)、第3条の3(1)④)。

▶ (参考)平成25年金商法等改正

運用報告書に関しては、下記のような問題意識や業界要望を受けて、金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」が設置され、本稿との関係では、特に運用報告書の記載内容について議論された。

【問題意識/業界要望】

金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」(第1回)資料5・5頁
金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」(第1回)
参考資料2・1頁
金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」(第5回)資料・4頁
金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」(第5回)資料・7頁

これらの議論を受けて、運用報告書も目論見書同様二段階化することが提言された。そして、コスト面に関し、費用と役務の対価関係がわかる説明を記載することも提言された。

【DWG報告書】

(a)運用報告書の二段階化
現在、運用報告書に記載すべき事項は、一の運用報告書として受益者に交付することとされている。その結果、大部となることが多い上、書面での交付が原則となるため、受益者は情報を取捨選択することが困難であり、運用会社には多大なコストが発生している。こういった問題を改善するため、運用状況に関する極めて重要な事項を記載した交付運用報告書と、より詳細な運用状況等も含めて記載した運用報告書(全体版)に二段階化することが適当である。その際、交付運用報告書は、原則として受益者に書面または電子的な方法により交付すべきである。他方、運用報告書(全体版)は運用会社のホームページでの掲載など投資家にとってアクセスしやすい電子的方法による提供を原則としつつ、受益者から請求があった場合にのみ書面による交付を義務付けることが適当である。なお、請求の有無にかかわらず一律に書面を交付するといった、見直しの趣旨に沿わない対応が行われることのないよう留意すべきである。
(b)運用報告書記載事項等の見直し
運用報告書の二段階化を前提とした上で、受益者が運用状況等を正しく把握するために必要な情報を提供する観点から、交付運用報告書においては、他の投資信託と比較可能な方式で当該投資信託の現在及び過去の状況を記載する。また、グラフや図を活用し、平易かつ簡素な表現で文章による解説を行うなどわかりやすい表示を行う。
他方、運用報告書(全体版)においては、引き続き、必要な情報を詳しく記載する。なお、見直しの具体化に当たっては、交付運用報告書が既存顧客に運用状況に関する重要な事項を説明する大切な「コミュニケーション・ツール」であることを踏まえ、実務家を中心に、投資家の意見も交え、さらなる記載方法の検討を行うことが適当である。

金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」「最終報告」7-8頁

③ 販売手数料・信託報酬等に関する説明の充実
現在、投資信託の購入・保有に関する費用については、目論見書等において、販売手数料の料率の上限、信託報酬の料率と運用会社、販売会社及び受託会社への配分率を表示することとされている。しかし、こうした費用を含めた投資家の負担の対価として享受するサービスについての説明は、必ずしも投資家の理解に資する形で充実しているとは言えない。投資家のコスト意識を醸成し競争の促進を期待する観点から、当該説明の充実を図ることが適当である。

金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」「最終報告」9頁

この最終報告を受け、2013(平成25)年に金商法等が改正され、原則として投資者に交付すべき「交付運用報告書」(投信法第14条第4項、投資信託財産の計算に関する規則第58条の2)と「運用報告書(全体版)」(投信法第14条第1項、投資信託財産の計算に関する規則第58条)に区別された。前者が後者の抜粋版という位置付けである。

金融庁「説明資料」18頁

また、運用報告書の内容として、信託報酬等の対価として提供する役務に関する説明を記載することが必要となった(投資信託財産の計算に関する規則第58条第1項第4号、第58条の2第1項第4号)。しかしながら、この平成25年金商法等改正に関連して「総経費率」の記載を必要とする規律は設けられなかった。(投信協会の「投資信託及び投資法人に係る運用報告書等に関する規則も同様)

投信協会「パブコメ結果」(平成26年7月3日公表)No.87

なお、運用報告書の記載内容の改正に合わせて、目論見書の記載内容も改正された(新旧対照表)。主な改正点は次の2点である。

  • 各種手数料等につき、金額や料率のほか「当該手数料を対価とする役務の内容」を記載することが必要となった

  • 「その他の手数料等」につき「主要な手数料等については当該手数料等を対価とする役務の内容」を記載することが必要となった

ここでいう「主要な手数料等」とは、次のようなものを指す。

「主要な手数料等」には、「申込手数料」、「換金(解約)手数料」又は「信託報酬等」として記載すべき手数料等以外の手数料等であって、その金額や料率に照らして投資者にとって主要と考えられるものが該当するものと考えられます。

金融庁「パブコメ結果」(平成26年6月27日公表)No.22

▶ (参考)平成30年投信協会規則等改定

2018(平成30)年の「投資信託及び投資法人に係る運用報告書等に関する規則」等の改定の目的は次のように説明されているが、これらの事情は平成25年金商法等改正当時から見られていたものであり、事情が大きく変化したわけではないように思われ、本当のところについてはよくわからなかった。

本会では、投資家への投資信託に係る運用管理費用などの情報開示の一層の充実に資する観点から、投資信託の運用報告書(全体版)及び交付運用報告書において、既に開示している1万口当たりの費用明細に加え、参考情報として欧米諸国で開示されている「総経費率」を記載することについて、開示専門委員会にて検討を重ねてきた。 今般、これらの検討を踏まえ、成案が得られたことから「投資信託及び投資法人に係る運用報告書等に関する規則」等の一部改正を行うこととする。

投信協会【別紙1】「投資信託及び投資法人に係る運用報告書等に関する規則」等の一部改正に関する意見募集について1頁

ともあれ、この平成30年投信協会規則等改定により、交付運用報告書と運用報告書(全体版)に「(参考情報)総経費率」を記載すること必要となった。なお、記載事項を定めるのが「投資信託及び投資法人に係る運用報告書等に関する規則」であり、同規則から運用報告書の様式について委任されているのが「投資信託及び投資法人に係る運用報告書等に関する委員会決議」である。

(記載事項)

(参考情報) 総経費率
参考情報として、総経費率について、次に掲げる事項を表示するものとする。(私募投資信託については、任意の表示事項とする。)
イ  総経費率は、当期中(計算期間が6ヵ月未満の投資信託については、作成対象期間とする。)の運用・管理にかかった費用の総額(原則として、募集手数料、売買委託手数料及び有価証券取引税を除く。)を期中の平均受益権口数に期中の平均基準価額(1口当たり) を乗じた数で除して算出した比率とし、1万口当たりの費用明細における開示項目(原則として、募集手数料、売買委託手数料及び有価証券取引税を除く。)と同一の各項目の比率を円グラフで表示することとする。ファンド・オブ・ファンズにおいては、総経費率は前述の比率に投資先ファンドの経費率を加えたものとし、前述の各項目の比率に加えて投資先ファンドの運用管理費用の比率及び運用管理費用以外の費用の比率を円グラフで表示することとする。また、これに加えて、総経費率、このファンドの費用の比率、投資先ファンドの運用管理費用の比率、投資先ファンドの運用管理費用以外の比率を表で表示することとする。ファンド・オブ・ファンズで投資先ファンドにおける1万口当たりの費用明細を取得できない場合であっても「投資先ファンドにかかった費用の総額を投資先ファンドの期中の平均純資産総額で除して算出した比率」が取得できる場合には、当該比率を投資先ファンドの経費率とすることができる。なお、投資先ファンドの費用においても、原則として、募集手数料、売買委託手数料及び有価証券取引税は除くものとする。
ロ  わかりやすい箇所において、「当期中(計算期間が6ヵ月未満の投資信託については、作成対象期間とする。)の運用・管理にかかった費用の総額(原則として、募集手数料、 売買委託手数料及び有価証券取引税を除く。)を期中の平均受益権口数に期中の平均基準価額(1口当たり)を乗じた数で除した総経費率(年率)は〇〇%です。」等の説明を行うものとする。
ハ  各比率は、年率に換算のうえ、小数点以下第2位未満を四捨五入して表示するものとする。
ニ  投資先ファンドの運用管理費用以外の費用については、可能な限り開示することとする。
ホ  投資先ファンドの経費率については、その保有比率を月次で把握したうえで当該投資先ファンドの信託報酬率を乗じるなど、可能な限り精緻な数値を開示することとする。
へ  投資先ファンドについては、例えば計上の期間がずれているなど、投資家に有用となる注記を付すこととする。

投信協会「投資信託及び投資法人に係る運用報告書等に関する規則(令和5年4月改正)

(様式例)

投信協会「投資信託及び投資法人に係る運用報告書等に関する委員会決議(令和5年1月改正)

本改定後の課題


本改定により、少なくとも1回目の決算(計算期間)を経過したファンドについては、それ以降に交付目論見書を交付するタイミングで総経費率がわかることになる。 

しかし、次の2点の課題は残る。(1点目は不可抗力的であり対応困難だが、2点目への対応は可能かつ必要であるように思われる)

  1. 新規ファンド設定時には総経費率がわからず、信託報酬等しかわからないところ、その他の手数料等が予想外に必要となるケース

  2. 新規ファンド設定時には総経費率がわからず、信託報酬等しかわからないところ、先行設定されている他ファンドが信託報酬等に含めている費用をその他の手数料等に含めて、(第1期のみ)見かけ上の低コストファンドとしているケース(ケースP/N)

ケースP

NASDAQ100指数に連動することを目指すインデックスファンドのうち、2021年6月ファンド設定当初は「業界最低水準の運用コストを目指しております」(PayPayアセットマネジメント株式会社)と謳っていたPayPayアセットマネジメント株式会社の「PayPay投信 NASDAQ100インデックス」というファンドは、第1期・第2期と「その他の手数料等」が同指数に連動することを目指す他のインデックスファンドと比較して相当に嵩んでいる。その結果、総経費率は同指数連動型インデックスの他ファンドの2〜3倍となっている。

その他の手数料等のうち「保管費用」が圧倒的に同指数連動型インデックスの他ファンドより嵩んでいるが、それを除くと(※1)、「法定開示に係る費用」が嵩んでいるように思われる。つまり、同指数連動型インデックスの他ファンドは信託報酬等のうち委託会社の信託報酬として「目論見書等の作成等の対価」(eMAXIS NASDAQ100インデックス)や「法定書面等の作成等の対価」(iFreeNEXT NASDAQ100インデックス)を含めているのに対し、「PayPay投信 NASDAQ100インデックス」は法定書面等の作成等費用を外出ししているのである(※2)。

PayPayアセットマネジメント「運用報告書(全体版)(第1期)」7頁
PayPayアセットマネジメント「運用報告書(全体版)(第2期)」2頁

※1 ちなみに、その他の手数料等は規模の経済が働くように思われ、同指数連動型とはいえ純資産総額が第1期から320億円超であった三菱UFJアセットマネジメントの「eMAXIS NASDAQ100インデックス」と比較するのは酷であるように思われるところ、同指数、かつ、第1期の純資産総額が10億円弱であった「PayPay投信 NASDAQ100インデックス」と近かった大和アセットマネジメント株式会社の「iFreeNEXT NASDAQ100インデックス」(第1期の純資産総額は9億円強)の第1期のその他の手数料等は次のとおりであり、第5期現在のそれよりは相当大きい金額・料率になっているものの、「PayPay投信 NASDAQ100インデックス」よりは遥かに小さい金額・料率となっている。

大和アセットマネジメント株式会社「運用報告書(全体版)」7頁

※2 同様に、法定書面等の作成等費用を外出ししているファンドも存在し(日興アセットマネジメント株式会社の「インデックスファンドNASDAQ100(アメリカ株式)」)、「印刷費用等」としてほぼ同料率の費用がかかっているように思われる。それでもやはり「保管費用」が小さいため、総経費率としては0.6%程度となっている(同ファンド「運用報告書(全体版)」7-8頁)。

日興アセットマネジメント「運用報告書(全体版)」7頁

ケースN

2023年4月に新規ファンド設定された日興アセットマネジメント株式会社の「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」は「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス」に連動することを目指し「コスト(信託報酬)水準には徹底的にこだわった」(同社ウェブサイト)ファンドである。

「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」の交付目論見書によれば、「運用管理費用(信託報酬)」は年率0.05775%(税込)であり、また設定当時は「その他の手数料等」の上限を年率0.1%であり(有価証券届出書)、売買委託手数料等あらかじめ見積もることが困難な手数料を除けば、設定当時は最低水準であったと記憶している。

日興アセットマネジメント「交付目論見書」9頁

このファンドは、目論見書等の法定書面等の作成等費用や対象指数の標章使用料を信託報酬から外出ししており、それらのコストを信託報酬に含めている他ファンドと比較して「信託報酬」は低水準である。

【参考】

三菱UFJアセットマネジメント「『eMAXIS Slim(イーマクシス スリム)』シリーズの基本理念について

なお、現時点では、三菱UFJアセットマネジメントが設定する「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」も2023年9月8日付けで信託報酬を年率0.5775%(税込)に引き下げており、また同ファンドの「その他の手数料等」は0.03%程度(同「交付運用報告書」3頁)であることを踏まえると、コスト面では拮抗している。

三菱UFJアセットマネジメント「交付目論見書」10頁

小括

このように、本改定後にも、各種コストを「信託報酬等」に含めるのか、あるいは「その他の手数料等」に含めるのか、投資信託委託会社の判断次第となる。

交付目論見書や有価証券届出書をよく確認すれば信託報酬以外にも相応のコストがかかることはわかるが、信託報酬のみで判断しようとすると思わぬ不利益を被る可能性がある。

以上

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