法制審議会家族法制部会:親子に関する問題④要綱案の取りまとめに向けたたたき台!?(親子交流/面会交流)

本稿のねらい


前回・前々回の記事で、2023年8月29日に法制審議会家族法制部会において、第30回会議が開催され(法務省ウェブサイト)、そこで「家族法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けたたたき台(1)」(要綱案たたき台)が示されたことを紹介した。

前々回は、要綱案たたき台のうち、特に重要度が高いと思われる「第1 親子関係に関する基本的な規律」と「第2 親権及び監護等に関する規律」(共同親権)について説明し、前回は、要綱案たたき台のうち、「第3 養育費等に関する規律」について説明した。

本稿では、「第4 親子交流に関する規律」について説明する。

なお、本稿執筆時点でも、直近で養育費や面会交流について扱った家族法制部会第29回の議事録は公開されていないため、議論の趨勢は不明である点には留意のこと(なお家族法制部会第28回の議事録は公開された)。

ちなみに、家族法制部会第29回の議事速報によれば、次のような意見があったとのことである(面会交流/親子交流に関する点のみピックアップ)。

③ 父母の婚姻中の親子交流に関する規律については、多くの委員・幹事から、民法第766条の類推適用により対応している現在の裁判実務を明確化することに賛同する意見が示された
④ 親子交流の裁判手続に関する規律については、多くの委員・幹事から、親子交流に関する裁判手続において、一定の要件の下で、裁判所が当事者に対して、事実の調査のために親子交流の試行的実施を促すことができるという規律を設けることや、その試行的実施の状況について家庭裁判所調査官に調査を命じ、又は、当事者双方にその結果の報告を求めることができるものとする規律を設けることに賛同する意見が示された一方で、このような規律を設けるとしても、その要件設定や第三者の関与の在り方については様々な意見が示された

家族法制部会第29回会議議事速報から抜粋し一部加工

この家族法制部会第29回会議までを踏まえて、要綱案たたき台「第4 親子交流に関する規律」が作成されたものと思われるため、以下では、要綱案たたき台やその補足説明に加え、部会資料29を中心に説明することになる。

面会交流/親子交流の論点


要綱案たたき台の内容に入る前に、面会交流/親子交流に関する論点(課題)について振り返る。

この点、家族法制部会「家族法制の見直しに関する中間試案」の項目でいうと、次の4点が関係する。このうち、要綱案たたき台まで残っているのは、2点目と4点目(ただし調停前・審判前の面会交流/親子交流に関してのみでありその内容も大きく異なっているが)のみである。

  1. 「第3 父母の離婚後の子の監護に関する事項の定め等に関する規律の見直し」のうち「2 父母の協議離婚の際の定め

  2. 同「3 離婚等以外の場面における監護者等の定め

  3. 同「4 家庭裁判所が定める場合の考慮要素

  4. 「第5 子の監護に関する事項についての手続に関する規律の見直し」のうち「3 親子交流に関する裁判手続の見直し

2023年8月25日筆者作成
※重要度は筆者の主観

なお、厳密には、中間試案「第3 父母の離婚後の子の監護に関する事項の定め等に関する規律の見直し」のうち「1 離婚時の情報提供に関する規律」も関係はする。しかし、養育費に関する前回の記事でも触れなかったが、結局この情報提供に関する規律(子に関する養育に関する講座の受講を協議離婚の要件とするルール)については、"ペアレント・ファースト" の立場からの反対が多く挫折しており(議論の詳細は家族法制部会第24回会議にて)、おそらく復活することはない。

2023年8月25日筆者作成

(1) 父母の協議離婚の際の定め

この点は、本来養育費に関して説明した前回の記事でも触れるべきだったのかもしれないが、失念していたため、ここで触れることとする。

これについても、上記「1 離婚時の情報提供に関する規律」同様、"ペアレント・ファースト" 勢力により挫折し、おそらくこの家族法制部会において復活することはないだろう。

2023年9月9日筆者作成

主に養育費の観点から議論がされており(部会資料24・4-6頁)、面会交流/親子交流の観点からは議論すらされていない。

(2)離婚等以外の場面における監護者等の定め

«中間試案»

次のような規律を設けるものとする(注1、2)。
婚姻中の父母が別居し、共同して子の監護を行うことが困難となったことその他の事由により必要があると認められるときは、父母間の協議により、子の監護をすべき者、父又は母と子との交流その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定めることができる。
この協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の申立てにより、当該事項を定めることができる。

(注1) 本文の規律が適用されるかどうかの判断基準(例えば、別居期間の長さを基準とするなど)を明確化するものとする考え方がある。また、別居等の場面においても、子の監護について必要な事項や婚姻費用の分担に関する定めが促進されるようにするための方策を講ずるものとする考え方がある。
(注2) 父母の婚姻中における子の監護に関する事項の定めについては、明文の規律を設けるのでなく、引き続き解釈(民法第766条〔離婚後の子の監護に関する事項の定め等〕の類推適用)に委ねるものとする考え方もある。

中間試案9頁

これは要するに、婚姻関係にはあるものの父母の一方が子を連れて別居している状態において、事実上、父母の他方(いわゆる別居親)と子が交流する機会がないなどの場合に、何らかの定めを行う必要があるのではないか、という問題意識に対し、民法第766条第1項の類推適用で対応する実務や判例の内容を明文化しようとする提案である。

協議離婚経験者1000名に対して調査を行った「協議離婚制度に関する調査研究業務」報告書(日本加除出版、令和3年3月)によれば、離婚に先立って別居した者(430名)のうち、別居する前に話合いをしていた者は全体の約66.3%(285名)であり(Q17)、そのうち「同居しない親との面会等の仕方」について合意ができたとするのは約38.6%(110名)であった(Q18の4)。

部会資料29・27頁
家族法制部会第29回武田委員提出資料3頁

この点、仮に父母が離婚等により婚姻関係にない状態であれば、民法第766条第1項の適用や準用(同法第771条等)により、面会交流/親子交流を含む子の監護について必要な事項を協議や家庭裁判所の手続により定めることになる。

他方で、この論点が前提とする場面は、上記のとおりであり、民法第766条第1項を直接適用することができない結果、"宙ぶらりん" な状態に置かれることになる。

そこで、実務上及び判例上、このような場面においては民法第766条第1項を類推適用することにより対処することがある。

父母の婚姻中は、父母が共同して親権を行い、親権者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負うものであり(民法818条3項、820条)、婚姻関係が破綻して父母が別居状態にある場合であっても、子と同居していない親が子と面接交渉することは、子の監護の一内容であるということができる。

そして、【要旨】別居状態にある父母の間で右面接交渉につき協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、民法766条を類推適用し、家事審判法9条1項乙類4号により、右面接交渉について相当な処分を命ずることができると解するのが相当である。

最決平成12年5月1日民集第54巻5号1607頁

この判例の理由付けについては、なんとも言えない。
第1文と第2文の接続詞が「したがって」ではないことから、第1文が第2文の理由というわけではなさそうである。むしろ理由だとしたら問題であり、子の監護の一内容としてのみ面会交流/親子交流を捉えるとすれば、監護権がない父母の一方(別居親)は面会交流/親子交流ができないことになる。

ということで、この判例のいわんとすることは、おそらく、次のとおりと思われる(言葉足らずも甚だしい)。

未だ婚姻関係にある以上、父母の双方に親権、つまり監護権があり、父母の一方(別居親)と子の面会交流/親子交流は当然可能であるが、それを実現するための協議が調わないのであれば、家庭裁判所の手続により実現させることも可能とすべきである。離婚に至った場合ですら、民法第766条第1項によりそれが可能なのだから。

なお、孫引きで恐縮だが、この点について、「面接交渉が認められる実質的根拠が、親と子とは、子の福祉に反すると認められる特段の事情がない限りは、両親が離婚した後であっても、互いに交流を継続することが子にとって望ましいということにあるのであれば、いまだ離婚に至らない場合であっても、両親が別居し、子が一方の親の元にいる場合には、他方の親と子との面接交渉を認める必要性は、離婚が成立した後と比べて優るとも劣らないと考えられる」との調査官解説があるようである(部会資料29・27頁)。少しズレている気はするが1つの説明にはなる。

このように考えると、民法第766条第1項の類推適用の基礎は、父母の婚姻関係の有無にかかわらず、「互いに交流を継続することが子にとって望ましい」という価値観を共通にしていることと考えられる。したがって、中間試案の(注1)のように、別居期間の長短等を適用や類推適用の判断基準とする必要はなく、単に父母の一方が子と別居していることのみが要件となる。

ともあれ、この提案については、ほぼそのまま部会資料29や要綱案たたき台に採用されており(ルール適用の要件も「別居」のみと考えられる)、クリティカルな反対意見はなかったものと思われる。

(3) 家庭裁判所が定める場合の考慮要素

«中間試案»

家庭裁判所が父母と子との交流に関する事項を定め又はその定めを変更するに当たっての考慮要素を明確化するとの考え方について、引き続き検討するものとする(注2、3)。

(注2) 父母と子との交流に関する事項を定めるに当たっての考慮要素の例としては、①子の生活状況、②子の発達状況及び心情やその意思、③交流の相手となる親と子との関係、④親子交流を安全・安心な状態で実施することができるかどうか(交流の相手となる親からの暴力や虐待の危険の有無などを含む。)などがあるとの考え方がある。このほか、交流の相手となる親と他方の親との関係を考慮することについては、これを肯定する考え方と否定する考え方がある。
(注3) 親子交流を実施する旨の定めをするかどうかの判断基準を明確化すべきであるとの考え方がある。

中間試案9−10頁

この提案は、父母が協議離婚又は別居に際し父母の一方(非監護親又は別居親)と子の面会交流/親子交流についての協議が調わない場合、民法第766条第2項・第3項により、家庭裁判所の手続により定められることになるが、その際の判断基準が「子の利益を最も優先して考慮」すること(同条第1項後段)以外明確ではないことから、それを明確化する趣旨である。

(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第766条
 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前2項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。

民法

この点、考慮要素を明確化すべきという意見と引続き解釈に委ねるべきであるという意見が対立している。

筆者としては、特に中間試案で挙げられている4つの要素については、特段明文化するまでもなく当然考慮される要素だと思われることから、あえて明文化する必要はなく、メルクマールとしては、「子の最善の利益」で十分であと考えている。

考慮要素を明文化するのであれば、面会交流/親子交流の場面は、監護者を指定する場面と比較して二者択一ではないこと、つまり面会交流/親子交流は原則として行われる必要があることからすれば、むしろ例外として親権喪失や親権停止のような要件に当たらない場合には面会交流/親子交流が認められるという、原則・例外を意識した規定とすべきである。
もちろん、これは「子の最善の利益」で読み込めることではあるが、勘違いがある者も多いという意味で、こういう建付けであれば明文化することに賛成である。

ちなみに、「交流の相手となる親と他方の親との関係を考慮すること」については明確に反対である。今更いうまでもないが、面会交流/親子交流は父母と子の関係に基づくものであり、父母間の関係は何ら影響しないし、してはならない。 "チルドレン・ファースト" の観点からは、そもそもこういう要素は発想すらしない。

なお、筆者が見逃している可能性があるが、家族法制部会第24回以降、この家庭裁判所が定める場合の考慮要素の議論は監護者の指定の箇所も含めたち消えとなっており、引続き解釈に委ねるべきであるという意見が勝ったのだろうか。

(4) 親子交流に関する裁判手続の見直し

この点につき、中間試案では、①調停成立前・審判前の段階での暫定的な親子交流を実現するための制度と②成立した調停・審判の実効性向上に関する手続の2点が提案されていた。

この2つは文脈が異なる項目であるため、以下では区別して説明する。

┃ ① 暫定的な親子交流制度(⇨試行的親子交流)

«中間試案»

親子交流等の子の監護に関する処分の審判事件又は調停事件において、調停成立前又は審判前の段階で別居親と子が親子交流をすることを可能とする仕組みについて、次の各考え方に沿った見直しをするかどうかを含めて、引き続き検討するものとする(注1)。

ア  親子交流に関する保全処分の要件(家事事件手続法第157条第1 項〔婚姻等に関する審判事件を本案とする保全処分〕等参照)のうち、急迫の危険を防止するための必要性の要件を緩和した上で、子の安全を害するおそれがないこと本案認容の蓋然性(本案審理の結果として親子交流の定めがされるであろうこと)が認められることなどの一定の要件が満たされる場合には、家庭裁判所が暫定的な親子交流の実施を決定することができるものとするとともに、家庭裁判所の判断により、第三者(弁護士等や親子交流支援機関等)の協力を得ることを、この暫定的な親子交流を実施するための条件とすることができるものとする考え方(注2、3)
イ  家庭裁判所は、一定の要件が満たされる場合には、原則として、調停 又は審判の申立てから一定の期間内に、1回又は複数回にわたって別居親と子の交流を実施する旨の決定をし、【必要に応じて】【原則として】、家庭裁判所調査官に当該交流の状況を観察させるものとする新たな手続(保全処分とは異なる手続)を創設するものとする考え方

(注2) 親子交流に関する保全処分の要件としての本案認容の蓋然性の有無を判断するに際して、子の最善の利益を考慮しなければならないとの考え方がある。また、親子交流に関する保全処分の判断をする手続(本文の(1)アの手続)においても、家庭裁判所が、父母双方の陳述を聴かなければならず、また、子の年齢及び発達の程度に応じてその意思を考慮しなければならないものとする考え方がある。本文の(1)イの手続についても、同様に、父母双方の陳述や子の意思の考慮が必要であるとの考え方がある。
(注3) 本文(1)アの考え方に加えて、調停又は審判前の保全処分として行われる暫定的な親子交流の履行の際にも、家庭裁判所が、家庭裁判所調査官に関与させることができるものとする考え方もある。

中間試案12−13頁
2023年9月10日筆者作成

ちなみに、上図②の考え方は、いわゆる「原則実施論」などと言われて批判されていたものに類似するようだが、それは「同居親に対して配慮が十分ではない調停運営が行われたこと」によるらしい(家族法制部会第6回会議議事録〔細矢委員発言〕7頁)。

その上で、現在では、同居親や別居親のいずれにも偏ることなく、「子の利益を最優先に考慮する立場」、つまり "ニュートラル・フラット" な立場からの新しい調停運営が行われ始めているとのことである(同上、なお考慮要素等は部会資料29・28−29頁に詳しい)。

この新しい運営モデルですけれども、調停委員会が先ほど述べましたニュートラル・フラットな立場で子どもの利益を最優先にしながら、面会交流を実施することによって子の利益に反する事情があるかどうかという観点を踏まえて、直接交流、間接交流それぞれについて、実施しないこととするか、あるいは実施するかどうか、実施する場合はどのような内容、方法が一番よろしいかどうか、その子どもにとって一番ふさわしいオーダーメードの面会交流の在り方を見付けようとするものでございます。
この選択肢の中には,面会交流を実施しないということも入っております。実施するということも入っております。幅広く考えていきたいと思っています。
この検討に際しては、6つのカテゴリー、安全、お子さんの状況、それから親の状況、親子関係、親同士の関係、それから環境、これらに尽きるものではないのですが、これらを中心に円環的な検討、これは、まず主張背景事情をしっかり把握し、課題を把握し、それを当事者と共有し、課題の解決に向けた働き掛け・調整を経て、その働き掛け・調整の結果の分析・評価をし、必要があればこの過程を繰り返し、なるべく実態に合った面会交流の在り方を見付けようというものでございます。(中略)
なお、この6つのカテゴリーのうち安全については、最優先に、調停のどの段階でも最優先に検討すべき事項と考えており、調停委員会は、常に、安全に関する情報についてはアンテナを鋭く張って、どんな小さな情報でも見逃さないようにしようと考えております。

家族法制部会第6回会議議事録〔細矢委員発言〕7-8頁

親同士の関係を見たり、安全について最優先に考えたり(※)と、どのあたりが "ニュートラル・フラット" なのかよくわからないが、理念としては、このとおり、子の利益を最優先に考える必要がある。

※ 安全性について非監護親や別居親に証明・疎明が求められるのかどうかわからないが、それは無茶であるし、またそこに力点を置くこと自体、監護親や同居親に偏っていることにほかならない。

«部会資料29»

親子交流等の子の監護に関する処分の審判事件又は調停事件において、調停成立前又は審判前の段階で、家庭裁判所が、継続的な親子交流の実施の可否やその方法について調査するため必要があると認めるときは、親子交流の実施が当該子の心身に害悪を及ぼすおそれがない限り、当事者に対し、事実の調査のために別居親と子との交流の試行的実施を促すことができるものとすることについて、どのように考えるか(注1)。

(注1) 家庭裁判所は、本文(1)の親子交流の試行的実施を促すに当たって、交流の方法(直接交流、間接交流の別など)を定めるとともに、第三者の関与を必要とすることその他適当と認める条件を付することができるものとするという考え方があり得る。

部会資料29・22頁

部会資料29では、中間試案における提案など見る影もなくなっている。

これは、総論的にパブコメにて反対意見が多かったものと思われること、また上図②(中間試案イ)については、次のような理由により挫折したようである(部会資料29・31参照)。

  • 法的性質について整理する必要がある

  • 新たな手続を、審判前の保全処分や試行的面会交流とは別の手続として位置付けるとすれば、現行の手続とは別に、そのような手続を創設することが手続法上なぜ許容されるのかについて、説明が必要となる

  • 新たな手続による決定の効力と、その後に予定される調停又は審判との関係も整理する必要があると考えられ、当該新たな手続による決定の効力が調停又は審判がされるまでの暫定的な効力しかないのであれば、 その法的性質は審判前の保全処分とほとんど変わらないことになる

法的性質もなにも、父母が子と交流することに何らか根拠が必要なのだろうか。本源的に、父母は子と交流すべきなのではないだろうか(それが父母の責任でもあるのではないか)。

次の点にも関係するが、なぜ面会交流/親子交流についてのみ許容されるのかについては、上記のとおり、本源的に行われるべき親子間の交流が、監護親や同居親により妨げられているものを正常な状態に復帰させるという点で他の手続とは異なる。

3点目は何を行っているのかよくわからないが、審判前の保全処分の要件を新たな手続と同様に緩和するのであれば別に異論はない。

さらに、上図①(中間試案ア)については、次のような理由により挫折したようである(部会資料29・31参照)。

  • そもそもなぜ親子交流に関する事件のみ審判前の保全処分の要件を緩和することが許容されるか

  • 要件を一部緩和するとしても、この手続が、本案を認容したのと同じ状態(親子交流の継続的、定期的実施) を一時的に実現するものである以上、その決定をするためには、審判前の保全処分一般に要求される「本案認容の蓋然性」を満たす必要があると考えられるが、このような手続を設けても、本案認容の蓋然性についての審理には一定の時間を要することとなり、裁判所の判断が示される時期は、結果的には本案の判断がされる時期とさほど変わらない可能性もある

単に要件を緩和するのではなく、発想を逆転させる必要があるのではないか。つまり、何らか「親子交流の実施が当該子の心身に害悪を及ぼすおそれがない限り」、原則として面会交流/親子交流は認めるという発想をすれば、本案認容の蓋然性は通常認められるのではないか。

あるいは、そのような発想を転換した上で、保全処分ではなく速やかに本案の審判を下すことでも構わないが。

その他の点は、要綱案たたき台の説明にて。

┃ ② 成立した調停・審判の実効性向上手続(直接強制等)

«中間試案»

親子交流に関する調停や審判等の実効性を向上させる方策(執行手続に関する方策を含む。)について、引き続き検討するものとする。

中間試案12頁

この提案には、2つの内容が含まれており、1つは親権者の変更等であり、もう1つは直接強制である。

つまり、現行法において、面会交流/親子交流の定めに関する調停・審判がされたにもかかわらず、監護親や同居親がこれに従わない場合の対応策としては、現行法上、①民事執行法に基づく間接強制と②家事事件手続法に基づ く履行状況の調査及び履行の勧告の制度が用意されているが、実効性を欠くという意見がある(中間試案の補足説明76頁)。

そこで、監護親や同居親が正当な理由なく親子交流の実施を拒んでいるなどの事案においては、そのような監護親や同居親の態度を親権者の変更等の手続において考慮すべきという意見や、それでも親子交流の定めに関する調停又は審判の実効性が向上されないようであれば、直接的な強制執行の導入も含め、その執行手続の見直しも視野に入れた検討をすることが考えられるとされていた(同上)。

筆者としては、面会交流/親子交流の法的性質は、非監護親や別居親から監護親や同居親への「権利」とされることが多いものの、その内実は父母が子に対して負う責任・責務を全うするところにあり、監護親や同居親からその責任・責務を全うすることが妨害されているのであれば、親権者たる適格性がないと考えられ、親権者の変更等によるのが正当だと考える。

その上で、親権者の変更等にもかかわらず子の引渡しに応じない場合は、子の引渡し請求により最終的には直接強制で解決することになる。

要綱案たたき台〜親子交流に関する規律〜

(1) 子と別居する親と当該子との交流

要綱案たたき台

1 子と別居する親と当該子との交流
⑴  子と別居する父又は母と当該子との交流について必要な事項は、父母の協議で定めるものとする。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならないものとする(注)。
⑵  上記⑴の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、上記の事項を定めるものとする。
⑶  家庭裁判所は、必要があると認めるときは、上記⑴及び⑵の規定による定めを変更することができるものとする。

要綱案たたき台5頁

上記で説明したとおりである。

(2) 裁判手続における親子交流の試行的実施

2 裁判手続における親子交流の試行的実施
⑴  家庭裁判所は、子の監護に関する処分の審判事件(子の監護に要する費用の分担に関する処分の審判事件を除く。)において、子の心身の状態に照らして相当でないと認める事情がない場合であって、事実の調査のため必要があると認めるときは、当事者に対し、父又は母と子との交流の試行的実施を促すことができるものとする。
⑵  家庭裁判所は、上記⑴の試行的実施を促すに当たって必要があると認めるときは、交流の日時、場所及び方法並びに家庭裁判所調査官その他第三者の立会いその他の関与の有無を定めるとともに、当事者に対して子の心身に有害な影響を及ぼす言動を禁止し、その他適当と認める条件を付すことができるものとする。
⑶  家庭裁判所は、上記⑴の試行的実施の状況について、家庭裁判所調査官に調査をさせ、又は当事者に対してその結果の報告(当該試行的実施をしなかったときは、その理由の説明)を求めることができるものとする。

要綱案たたき台5-6頁

上記のとおり、中間試案段階での提案とはまったく異なる提案になっている。

これは、結局、"ペアレント・ファースト" な反対意見に押された結果であると思われるが、家庭裁判所がほんとうの意味で "ニュートラル・フラット" な運営をする限りにおいて、一歩前進という意味では賛成できるように思われる。

つまり、試行的親子交流を促す要件としては、「子の心身の状態に照らして相当でないと認める事情がない場合」であり現行の審判前の保全処分の要件よりは緩和されており、効果についても、家庭裁判所が父母に対して試行的親子交流の実施状況に関する結果報告理由説明を求めることを通じて、事実上、面会交流/親子交流が行われやすくなるという利点はある。

実効性も何もないが、(要件緩和提案後の)審判前の保全処分がされたとしても、その実効性を図るためには親権者の変更等が必要であることは上記のとおりであり、いずれにせよ実効性は乏しいのである。

試行的親子交流の促しについて実効性を図ろうと思えば、正当な理由のない不実施を親権者の変更等の要件・要素と結びつけるなどが必要となる。

また、試行的親子交流の促しについては、その場所・方法について条件が付けられることになっており、オンラインでの交流となる可能性がある。この点、比較的安全・安心であるとして、家庭裁判所等の責任回避思考からオンラインでの交流に安易に流れることのないよう、運用については十分な考慮と検討を期待したい。

なお、要綱案たたき台や補足説明からは明らかではないが、部会資料29によれば、監護親や同居親の同意は試行的親子交流を促すための要件とはならないとのことである。

同居親が親子交流に消極的な意向を示している場合であっても、その背景事情には様々なものがあると考えられ、現在の家庭裁判所の実務においても、こうした背景事情を踏まえて、消極的な意向を有している当事者に対しても、子の利益を最優先に考慮した上で望ましいと判断される場合には、その段階に応じた親子交流の実施を働きかけること自体は行われているものと思われる。(中略)
家庭裁判所からの適切な働き掛けによって、父母の意向が変化したり、父母間の葛藤が低下したりすることも期待されるところである。
そうすると、審判前又は調停成立前の段階に行われる家庭裁判所による親子交流の試行的実施については、親子交流の実施が当該子の心身に害悪を及ぼすおそれがない限り、必ずしも当事者双方がその実施に同意したことを要件とする必要はないとも考えられる。

部会資料29・34頁

以上


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