ガイドライン:AI等を用いた契約書レビュー等サービスと弁護士法第72条の関係

本稿のねらい


2023年8月1日(本日)、法務省が「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」という文書(以下「本ガイドライン」という)を公表した(法務省ウェブサイト)。

別の記事にて触れているが、これは2022(令和4)年10月に出されたグレーゾーン解消制度におけるAIを用いた契約書レビュー等サービスと弁護士法第72条の非弁行為抵触性に関する法務省回答がグレーゾーンを解消するものではなかったことから、2023(令和5)年6月の規制改革実施計画にて、AIを用いた契約書レビュー等サービスを適法と認めるよう政府から事実上の圧力がかけられた結果である。

本ガイドラインは「いわゆる生成AIを用いたサービスの提供と同条との関係についても、原則として同様の枠組みで判断される」とされているが(本ガイドライン1頁)、果たして…

本稿では、本ガイドラインの内容につき概説する。


本ガイドラインの建付け


本ガイドラインは、「AI等を用いて契約書等(契約書、覚書、約款その他名称を問わず、契約等の法律行為等の内容が記載された文書又はそれらの内容が記録された電磁的記録をいう。以下同じ。)の作成・審査・管理業務を一部自動化することにより支援するサービス(以下これらを総称して「本件サービス」という。)の提供」と弁護士法第72条の要件との関係を整理したものである。

以前の記事にて説明したとおり、弁護士法第72条は6つの要件により成り立っているが(下表参照)、本ガイドラインは、そのうち本件サービスとの関係で問題となる3つの論点に分けて構成されており、最後に補足的に弁護士が本件サービスを利用する場合の論点について触れられている。

筆者の2023年7月9日付けの記事から抜粋し一部加工

結果として、本ガイドラインは、次のような4部構成となっている。

  1. 報酬を得る目的との関係

  2. 訴訟事件その他一般の法律事件との関係 ⇦ 本ガイドラインの肝

  3. 鑑定その他の法律事務との関係 

  4. 本件サービスの利用者を弁護士に限定する

本稿では、一応、上記1〜4を順に概説する。
本件サービスを通常の方法で利用する場合に関しホワイトとブラックを分けるのは専ら上記2の訴訟事件その他一般の法律事件であり、最重要ではあるものの、以前の記事でも触れたように、通常、契約書レビューサービスを利用する場面では事件性がなく、一般的な契約書等レビューサービスはこれで適法状態となるため、基本的に詳説を要しない。
他方で、今回興味深い点は上記3鑑定その他の法律事務であり、傍論的にはなってしまうが、その点を中心に概説する。

1 報酬を得る目的との関係


ネットワーク効果やネットワーク外部性を志向し、何が何でもサービスの利用者を増やすために、当初サービスの対価を無償と設定する場合であっても、永劫無償でサービスの提供を行うことは不可能と思われるため、以前の記事ではこの点について特に触れなかったが、本稿では1点深掘りしてみたい。

(1)本ガイドラインの内容

◉「報酬」とは
報酬の定義については、「法律事件に関し、法律事務取扱のための役務に対して支払われる対価をいう」とされており、これは従前どおりの解釈である。

◉「対価」とは
そして、ここでいう「対価」には、次のいずれの場合も含むとされている。

  • 現金だけではなく、物品や供応を受けること

  • 額の多少は問わない

  • 第三者から受け取ること

そのため、当然ながら、本件サービスの提供者が名目を問わず一切の利益を受けることなく本件サービスを提供する場合は、「報酬を得る目的」が否定される。

(2)論点

この内容に関して、本件サービスの提供者が、他のサービスの広告料や宣伝料を得るにとどまり、利用者から一切の料金等対価を得ない場合に「報酬を得る目的」があることになるかどうかという論点がある。

この点、グレーゾーン解消制度における2022年10月14日回答「契約書レビューサービスの提供」に関する法務省回答では、次のように、他のサービスの広告・宣伝のみでも、本件サービスが他のサービスと一体となり、他のサービスの利用料が実質的に本件サービスの利用料としてカウントできるような場合は「報酬を得る目的」があるとされていた。

本件サービスの利用料を無料とした上で、他のサービスの広告、宣伝のみを行う場合であっても、個別具体的な事情の下で、本件サービスが当該他のサービスと一体のものとして当該他のサービスの利用料が本件サービスとの間で間接的な対価関係があると評価される可能性は否定できず、弁護士法第72条本文の「報酬を得る目的」がないと一概に判断するのは困難である。

2022年10月14日回答「契約書レビューサービスの提供」に関する法務省回答

これを端的に示したのが、次のアとイである。
次のアとイの場合には、本件サービスからは「報酬」を得ないとしても、「実質的に対価関係が認められる」として、「報酬を得る目的」があるとされる。

ア 当該事業者が提供する他の有償サービスを契約するよう誘導するとき
イ 第三者が提供する有償サービスを利用するよう誘導するとともに、本件サービスの利用者が当該第三者が提供する有償サービスを利用した際に当該第三者から当該事業者に対して金銭等が支払われるとき

本ガイドライン2頁

このアとイに関しては、「誘導」とはどういうことか、「媒介」や「斡旋」を意味するのかなど論点が残る。

この点、本ガイドラインは「対価」に関して次のようなメルクマールを打ち出しており、単にバナー広告を貼るなどは「誘導」には含まれず、本件サービスを利用すると他の有償のサービスを利用せざるを得ないような、事実上又は契約上の強制力をもったものが「誘導」に含まれるものと考える。

本件サービスの運営形態、本件サービスと他の有償サービスとの関係、利用者・事業者・当該有償サービスの提供者・金銭等の支払主体等の関係者相互間の関係、支払われる金銭等の性質や支払の目的等諸般の事情を考慮し、金銭支払等の利益供与と本件サービスの提供との間に実質的に対価関係が認められる

仮に、媒介や斡旋までいかずとも、広告・宣伝をもって「誘導」したことになると、「報酬を得る目的」があることになってしまう例はあり得ると思われる。

他方で、単に他社のサービスの広告・宣伝のみで、その対価としての広告料や宣伝料を受領するにとどまり、広告・宣伝の結果としての「契約の条件の確定又は締結に関与する対価」(銀行法等ガイドライン2−2〔2頁〕参照)を得ないのであれば、「報酬を得る目的」があることにはならないと考える。

2 訴訟事件その他一般の法律事件


(1)本ガイドラインの内容

「法律事件」とは
法律事件の定義は「法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は新たな権利義務関係の発生する案件」であり、「その他一般の法律事件」とは、列挙されている訴訟事件その他の具体的例示に準ずる程度に「法律上の権利義務に関し争いがあり、あるいは疑義を有するもの」であるをいうが、これも従前どおりの解釈である。

事件性必要?不要?
上記のとおり、「その他一般の法律事件」は「法律上の権利義務に関し争いがあり、あるいは疑義を有するもの」であることから事件性は必要であり、これも従前どおりの解釈である。
また、事件性の有無は、「個別の事案ごとに、契約の目的、契約当事者の関係、契約に至る経緯やその背景事情等諸般の事情を考慮して判断される」ことも従前どおりの解釈である。

事件性が認められる場合
取引当事者間で紛争が生じた後に、裁判外で交渉等を行い、当該紛争を解決して和解契約等を締結する場合、「法律上の権利義務に争いがあり、あるいは疑義を有するものとして『事件性』が認められる」。
したがって、そのような和解契約等を締結するに当たり、その作成に関して本件サービスを提供する場合には「その他一般の法律事件」に該当し得る。

事件性が認められない場合
次のような場合には事件性が認められないことが通常であり、「その他一般の法律事件」に該当しない。特に3点目が重要なポイント。

  • 親子会社間やグループ会社間で従前からの慣行で行われている物品調達や資金調達等のフローを明確にするための取引基本契約等を締結する場合

  • 継続的取引の基本契約を締結済みの会社間において、特段の紛争なく、当該基本契約に基づき従前どおりの物品等を調達する個別契約を締結する場合

  • いわゆる企業法務において取り扱われる契約関係事務のうち、通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話合いや法的問題点の検討については、多くの場合『事件性』がない

(2)論点?

この内容で、特に重要なのは、上記事件性が認められない場合のうち3点目(以下引用)であるが、そこには「当局の指摘」とある。

いわゆる企業法務において取り扱われる契約関係事務のうち、通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話合いや法的問題点の検討については、多くの場合「事件性」がないとの当局の指摘に留意しつつ、契約の目的、契約当事者の関係、契約に至る経緯やその背景事情等諸般の事情を考慮して、「事件性」が判断されるべきものと考えられる。

本ガイドライン3頁

この「当局」とは何だろうか。
弁護士法の所管は法務省であり、また捜査機関である検察庁が属するのも法務省であるため、「当局」は法務省以外には考えられない。
しかし、書きぶりを見るに、どこか第三者的であり法務省ではないように伺えるが、本心は事件性がないとは思ってないものの渋々書かされたためこういう書きぶりになったのだろうか。

3 鑑定その他の法律事務との関係


「鑑定その他の法律事務」
「鑑定」とは「法律上の専門的知識に基づき法律的見解を述べること」であり、「その他の法律事務」とは「法律上の効果を発生、変更等する事項の処理」であるが、これも従前どおりの解釈である。また、「これらの点については、本件サービスにおいて提供される具体的な機能や利用者に対する表示内容から判断されるべき」とされている。

そこで、本ガイドラインでは、本件サービスを次の3つに分解して、「鑑定その他の法律事務」該当性が説明されている。

  1. 契約書等の作成業務を支援するサービス

  2. 契約書等の審査業務を支援するサービス

  3. 契約書等の管理業務を支援するサービス

以下では、この3つの項目ごとに説明を行う。

いずれの場合でも、「個別性」がメルクマールとなっており、現時点でLegalForceに導入されているようなChatGpt等の生成AIによるアシスト機能どころか、あらかじめ設定されたチェックリスト等を参照することなく生成AIにより契約書を作成・審査・管理するようなサービスが誕生すれば、それはあまねく「鑑定その他の法律事務」に引っかかることになる。(以下では繰り返し述べているが、通常は事件性がないため、この点は論ずるまでもないが)

3.1 契約書等の作成業務を支援するサービス

(1)本ガイドラインの内容

以下のとおり、契約書等の作成業務を支援するサービスに関して「鑑定その他の法律事務」該当性を分けるメルクマールは、「個別性」であると考えられる。

「鑑定その他の法律事務」に該当する場合
次のような機能・表示があるサービスは「鑑定その他の法律事務」に該当するとされている。

  • 利用者による非定型的な入力内容に応じ個別の事案における契約に至る経緯やその背景事情、契約しようとする内容等を法的に処理して、当該処理に応じた具体的な契約書等が表示される

  • 利用者が、あらかじめ設定された項目について定型的な内容を入力し又は選択肢から希望する項目を選択する場合であっても、極めて詳細な項目、 選択肢が設定されることにより、実質的には利用者による非定型的な入力がされ、当該入力内容に応じ、個別の事案における契約に至る経緯やその背景事情、契約しようとする内容等を法的に処理して、当該処理に応じた具体的な契約書等が表示される

「鑑定その他の法律事務」に該当しない場合
上記「鑑定その他の法律事務」に該当する場合からも伺えることではあるが、次のような機能・表示をするサービスであれば「鑑定その他の法律事務」に該当しない。

  • 利用者があらかじめ設定された項目について定型的な内容を入力し又は選択肢から希望する項目を選択することにより、その結果に従って、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した複数の契約書等のひな形から特定のひな形が選別されてそのまま表示される

  • 複数のひな形の中から特定のひな形が選別された上で、利用者が入力した内容や選択した選択肢の内容が当該選別されたひな形に反映されることで、当該選別されたひな形の内容が変更されて表示されるにとどまる

(2)考察

この内容は、基本的には事前に策定された雛形を用いるフローチャート方式の現状のAIを用いた契約書レビューサービスでは問題とならないと思われる(以前の記事)。

他方で、生成AIを用いて「今回はA社が相手方であり◯◯という条件にしたい」という指示によりそのような条件を含む契約書ドラフトが出来上がるような場合には、「非定型的な入力内容に応じ、個別の事案」に即した法的処理となり、「鑑定その他の法律事務」に該当するという判断もあり得る。

なお、通常は事件性がなく、この点を論ずるまでもない。

3.2 契約書等の審査業務を支援するサービス

(1)本ガイドラインの内容

以下のとおり、契約書等の審査業務を支援するサービスに関して「鑑定その他の法律事務」該当性を分けるメルクマールは、3.1の作成業務を支援するサービス同様、「個別性」であると考えられる。
また、この文脈でいう「個別性」をかみくだくと、対象文書内の文言の法的な意味内容を踏まえ、類似点・相違点を探索し、それぞれにつき、対象文書の内容に即した、代替の条項例の提示・修正案の提示・解説の提示がなされることを意味すると考える。

「鑑定その他の法律事務」に該当する場合
次のような機能・表示があるサービスは「鑑定その他の法律事務」に該当するとされている。

  • 審査対象となる契約書等の記載内容について、個別の事案に応じた法的リスクの有無やその程度が表示される

  • 当該契約書等の記載内容について、個別の事案における契約に至る経緯やその背景事情、契約しようとする内容等を法的に処理して、当該処理に応じた具体的な修正案が表示される

「鑑定その他の法律事務」に該当しない場合
次のような機能・表示をするサービスであれば「鑑定その他の法律事務」に該当しない。

  • 審査対象となる契約書等の記載内容と、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容との間で相違する部分がある場合に、当該相違部分が、その字句の意味内容と無関係に表示されるにとどまる

  • 審査対象となる契約書等の記載内容と、同サービスの提供者又は利用者が あらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容との間で、法的効果の類似性と無関係に、両者の言語的な意味内容の類似性のみに着目し、両者の記載内容に当該類似性が認められる場合に、当該類似部分が表示されるにとどまる

  • 審査対象となる契約書等にある記載内容について、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容又はチェックリストの文言と一致する場合や、ひな形の記載内容又はチェックリストの文言との言語的な意味内容の類似性が認められる場合において、 ①当該契約書等のひな形又はチェックリストにおいて一致又は類似する条項・文言が個別の修正を行わずに表示されるにとどまるとき、②同システム上で当該ひな形又はチェックリストと紐付けられた一般的な契約書等の条項例又は一般的な解説や裁判例等が、審査対象となる契約書等の記載内容に応じた個別の修正を行わずに表示されるにとどまるとき、③同システム上で当該ひな形又はチェックリストと紐付けられた一般的な契約書等の条項例又は一般的な解説が、審査対象となる契約書等の記載内容の言語的な意味内容のみに着目して修正されて表示されるにとどまる

(2)考察

この内容は、基本的には事前に策定されたポリシーやチェックリストを照合する方式である現状のAIを用いた契約書レビューサービスでは問題とならないと思われる(以前の記事)。

他方で、生成AIを用いた契約書レビューサービスでは、ややグレーにはなると思われるが、あくまで現時点での生成AIを用いた契約書レビューサービスは、ChatGptを介して対象文書に即した修正案等の提示がされるものの結局は字義的な類似点・相違点のみ抽出するにとどまると推測されることから、「鑑定その他の法律事務」には該当しないと考えられる(ChatGptとの関係について触れた以前の記事)。

なお、契約書の修正等に関するやり取りに関しても、通常、訴訟事件に匹敵するような事件性はなく、この点を論ずるまでもない。
(契約交渉において事件性があるようなケースはあるか?)

3.3 契約書等の管理業務を支援するサービス

(1)本ガイドラインの内容

以下のとおり、契約書等の管理業務を支援するサービスに関して「鑑定その他の法律事務」該当性を分けるメルクマールも、「個別性」であると考えられる。

「鑑定その他の法律事務」に該当する場合
次のような機能・表示があるサービスは「鑑定その他の法律事務」に該当するとされている。

  • 本サービスを提供するために構築されたシステムにおいて、管理対象となる契約書等の記載内容について、随時自動的に個別の事案に応じた法的リスクの有無やその程度が表示される場合やそれを踏まえた個別の法的対応の必要性が表示される

「鑑定その他の法律事務」に該当しない場合
上記「鑑定その他の法律事務」に該当する場合からも伺えることではあるが、次のような機能・表示をするサービスであれば「鑑定その他の法律事務」に該当しない。

  • 管理対象となる契約書等について、契約関係者、契約日、履行期日、契約更新日、自動更新の有無、契約金額その他の当該契約書等上の文言に応じて分類・表示されるにとどまる

  • 管理対象となる契約書等について、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ登録した一定の時期や条件を満たした際に、当該事実とともに、同システムの利用者が契約書等に関してあらかじめ登録した留意事項等が表示されるにとどまる

(2)考察

基本的に3.2の(2)考察と同様。

4 本件サービスの利用者を弁護士に限定する


(1)本ガイドラインの内容

仮に上記1〜3の要件すべてを満たすとしても、本件サービスの利用者と場面を次のいずれかに限定して提供する場合には、弁護士法第72条に違反しない。

  • 弁護士又は弁護士法人に提供する場合であって、当該弁護士又は弁護士法人がその業務として法律事務を行うに当たり、当該弁護士又は当該弁護士法人の社員若しくは使用人である弁護士が、本件サービスを利用した結果も踏まえて審査対象となる契約書等を自ら精査し、必要に応じて自ら修正を行う方法で本件サービスを利用する

  • 本件サービスを弁護士又は弁護士法人以外のものに提供する場合であって、当該提供先が当事者となっている契約について本件サービスを利用するに当たり、当該提供先において職員若しくは使用人となり、又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士が上記と同等の方法で本件サービスを利用する

(2)考察

1点目が、外部弁護士が法律事務を行う補助として本件サービスを利用するパターンである。
これは、以前の記事でも触れたように、あくまで審査対象となる契約書の当事者ではない外部の弁護士が、自己の法律事務を遂行するに当たり、パラリーガル同様、本件サービスを補助的に利用するものであり、本件サービスにより契約書を審査しているわけではないことから、本件サービスが「鑑定その他の法律事務」を行っているとはいえず、弁護士法第72条に違反しない。

要するに、法律事務の主体が弁護士であり、本件サービスは法律事務との関係では補助(サブ)に過ぎない。

他方、2点目は、社内弁護士(インハウスロイヤー)が、自己の職務を行う補助として本件サービスを利用するパターンである。
これも短絡的に考えると、1点目のように弁護士が補助として利用するなら問題ないことになりそうである。
しかし、以前の記事でも触れたように、社内弁護士は、弁護士資格を有し、かつ、多くの場合弁護士会に登録しているものの、通常は、所属(勤務)する会社の従業員として当該会社の法務業務(法務機能)を担うのであり、弁護士としてその業務である法律事務を行うわけではない
したがって、社内弁護士が利用しようと素人の従業員が利用しようと状況に差異はなく、法律事務の主体が本件サービスとなってしまう。

もし社内弁護士が利用者となることに何か特別な事情を見出すのであれば、リテラシーの有無というほかない。

つまり、そもそも弁護士法第72条の趣旨は、弁護士資格を持たない第三者が法律事件に介入することを放置すると「当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになる」(最大判昭和46年7月14日刑集第25巻5号690頁)ため、その介入を禁ずるところにあった。しかし、社内弁護士が本件サービスの利用をコントロールすることで、法律秩序を害することを防止できるという理屈である。

これは、あえて弁護士法第72条の要件に落とし込もうとしても無理であり、刑法第35条の正当業務行為とか、可罰的違法性がないとか、そういう例外を持ち出すほかないように思われる。

以上

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