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短編 『晴れの日でも雨女』

「わたし大事な日はいつも雨なんだよね」と笑っていた女性は、現在空を見上げて眩しそうな表情をしている。

晴天に恵まれた本日。天気予報では、降水確率80%だったが、見事に外れたようで、太陽がさんさんと僕らを頭上から照りつける。今日は、マッチングアプリで知り合った女性と2回目のデートで姫路まで来ている。

「今日晴れたのは、ワタルくんのおかげだね」と女性が明るく言い放った。彼女はメイという名前だ。マッチングアプリをしていると、たくさん女性に会う機会を得る。メイは同じ趣味でマッチングをした。その趣味は海外旅行だった。

「今まで何カ国行きましたか?」、「どこの国に行ったことがありますか?」とこの手の質問は同じ趣味を持つマッチングアプリの中では通過儀礼のような質問である。

メイが「ここに行ったよ」と挙げてくれた海外の国は、僕が行ったことない国ばかりだった。逆に、僕が行った国は、彼女は行ったことがなくお互い新鮮だね、という印象を持ちとんとん拍子に会うまでに至った。

「姫路には太陽公園といって、世界遺産のレプリカが点々としている観光地があるんだよ」と僕がいうと、メイは非常に興味を持ってくれて、2回目のデートで行くことになった。

僕とメイは目的地行きのバスに乗り込む。車内では、メイがスマホゲームのツムツムをしていた。これもお互い初めてのデートの時に知った共通のゲームである。

「ワタルくんいつもスコアすごいよね。今ここでやってみせてよ」

メイは意地悪な顔をしながら言い放った。僕はスマホを取り出して、慣れた手つきでツムツムを起動する。レディーゴー!とゲームがスタートした瞬間、ぶつぶつとメイがぼやいている。おそらく邪魔をしているつもりなのだろう。バスの車窓から「あ、あれ!」と何か言っている。気になるがゲームに夢中で目が離せない。

ゲームが終わるとスコアが表示された。いつもよりスコアは多少低いがまずまずのスコアだった。そのスコアを見て、「ふ〜ん」とスマホの画面をメイは覗いている。

「アイテム使ったやろ?」
「使うわけない」
「そんなスコア出せるん、教えてよ」

メイはそう言うと、自身のスマホを開いて再びツムツムを起動させた。僕が彼女のスマホを借りて、そのスマホでツムツムをスタートした。

「このキャラあんまり使ったことないからな」
「早速言い訳するん?」

本日で2回目のデートだった。会うまでにメッセージを何度も重ねたし、初めてのデートでは居酒屋で深く語り合った。それもあってか、2回目なのにとても親しくなっており、良くも悪くも馴れ馴れしい年下のメイに魅力を感じていた。

ツムツムがタイムリミットを伝える。スコアを見ると、いつも以上にスコアが低く、メイのアベレージスコアよりも断然低かった。僕はカッコいいところを見せれずに項垂れた。

「全然あかんやん」

メイは笑いながら、僕の肩を何度も叩く。バスの後部席の2人席に座っている男女2人は端から見ると、カップルに見えなくもないな、と感じた。それが少し誇らしく思えた。

「てかさ…メイって自分がハイスコア出た時だけハート送ってくるよね」
「バレた……!?」
「バレバレ。あれハートもらえて嬉しい反面ちょっと悔しいんだよね」
「悔しいの?ワタルくんの方が断然スコアすごいのに」

メイは少し照れくさそうにしていた。ニコッとした時に、口角の端に八重歯が覗く。それがとてもチャーミングだった。僕はこの時点で、付き合えたらいいな、と安易に思っていた。2回目だとまだわからない、という声もあるかもしれない。でも、メイは回数を重ねなくてもわかる魅力が溢れていて、早く自分の恋人にしたいという独占欲が既に湧いていた。

バスがプーッと音を立てて停車する。そのままエンジン音だけが車内に響き、停まったままであった。すると、バスのドライバーが後ろを振り向き、「終点ですよ?」と伝えた。僕とメイは顔を見合わせて、「へっ?」と情けない声を出した。

姫路の太陽公園の近くにあるバス停に行くはずが、そこは小豆島行きのフェリー乗り場だった。青い海が眼前に広がっている。フェリー乗り場は閑散としており、お客さんといえる人は、僕とメイの2人しかいない様子であった。

「やってしまった……」

バスを降りた一言目がそれだった。僕はメイの前で失敗をしてしまった、と焦ってしまっていた。メイの顔を見れず、どうしようか、と焦っていると、メイは「海綺麗だねぇ」と呟いた。眼前に広がる青い景色に圧倒されているようだった。

「これさ、雨だったら最悪だけど、晴れていたからこれだけ綺麗なんだよ。よっ!晴れ男」

メイはそう言って、フェリー乗り場の案内図、時刻表に近寄り、まじまじと眺めていた。

「このまま小豆島行けたら楽しそうだよね。流石に日帰りは無理……?試してみる?」

メイは悪戯っぽく笑った。僕が乗るバスを間違えたこと、降りるタイミングを見失ったことに対して言及もせず、責めることもなくひたすら明るかった。この女性の良いところって、こういうところなんだろうな、と感じた。

「小豆島は流石に厳しいでしょ。でも、メイの明るさに救われた気がする。ありがとう」
「そうなの?」

僕がそう言うと、メイはきょとんとした顔で、僕の顔を見ていた。なにが救われたのか?と問いたいような表情をしていた。そんな自然な表情ができるメイに惹かれてしまう。今にでも告白してしまいたい衝動に駆られた。

「今からだともう時間がないから太陽公園諦めて、姫路にあるもっと新しい場所発掘しない?」とメイは明るい口調で言った。そういうのって付き合った後に、する感じのやつじゃないの?と疑問を呈したかったが、口では「うん、そうしよっか」と答えていた。

メイは既にその気分になったようで、僕に背中を見せて、次何時にバスが来るか時刻表を眺めていた。僕も彼女の側に近寄って、時刻表を眺めた。時刻表は頭に入らなかった。僕は時刻表を見ているふりをして、メイの横顔を見ていた。

太陽は以前として明るく僕らを照らして、青い空が見下ろしてた。

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