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【読書感想文】「罪の境界」(作:薬丸岳)をAudibleで聴き読み

「罪の境界」をAudibleで聴き読み。
やはり小説を読まなければ、と思わせる内容だった。
感想をどうしても書きたくなって、noteを書いてみる。

あらすじ


3人の死傷者を出した渋谷の無差別通り魔事件から物語が動き出す。
被害者サイド、加害者サイドの両面で物語が綴られる。
被害者のうちの一人、明香里は頬に傷を受ける他10箇所以上も刺されて生死を彷徨う。意識が戻った後も後遺症や事件の記憶に苦しみ続けることとなる。記憶の中で、自分を守って死んでいった飯山の最後の言葉が気になっていた。
一方で、ニュースで事件を知った風俗ライターの溝口は、加害者の生い立ちに共感し、なんとか接触しようと試みるのだった。

感想

いくつかこの話を聞いて、考えたことがある。

やっぱり小説は必要

今回、被害者の心情や行動が細かに描かれているのを読んだ。
被害者の苦しみを読んだ私は、今までの鈍感さを恥じる思いだった。

悲しいことに、無差別に人を狙った事件は相次いでいる。
ニュースでは「〇〇人死亡」「○人重傷」というテロップが流れている。
あまりにそのニュースに慣れすぎて、「○人重傷」というニュースには、「死者が出なくてまだ良かった」という感想になってしまうほどだ。

だが、その重傷の人はどんな心情だっただろう。
いや、たとえ軽傷だったとしても、急に他人から傷つけられる恐怖の記憶、それはなかなか、忘れることはできないと思う。

○人の分だけ、言い難い苦しみがあることを理解していないといけない。

最近、あまり命が重視されていないように思う。
被害者にも原因があるようなことが言われる。
みんな、慣れすぎて鈍感になってしまっているのかもしれない。
また、人の気持ちがわからないゆえの誹謗中傷や炎上も多いと感じる。

そこで小説がある。

小説は、ニュースだけでは見えてこない、当事者の怒りや悲しみ、苦しみを追体験することにつながる。

小説なんていらないという人もいる。だが、感情の機微、他の人の気持ちを理解するためにこれほど良いツールはないと思う。

こういった事件や、交通事故、天災、ウクライナでの戦争…○人の一人一人に人生があり、その後があることをいつも意識していなければならないと感じた。

罪は連鎖していく

虐待を受けた過去が、周りを傷つけることにつながる。
そして、被害者がその後遺症に苦しみ、周りからも理解されないことから、加害者側に足を踏み入れようとしてしまう。

この罪が連鎖していく様子が聞いていてつらかった。
被害者が加害者になりそうなところは、「もうやめてくれ〜!」と、途中で音声を一時停止してしまったほどである。

最も罪深いのは、最初に罪の種を蒔いた人。
だが意外と、最初に罪の種を蒔いた人は、罰せられず隠れていることが多い。

もし被害者が精神的に病み、結果的に誰かを傷つけてしまったら、被害者のままではいられない。

被害者は、どんなに精神的に病んでいたとしても、加害者にならないようにするために踏ん張るしかないのだ。
その精神的コスト、どれほどのものだっただろう。

被害者でいることが許されない世の中


また、いつまでも被害者でいることに「うんざりする」周りの人もいる。
確かに、後ろ向きな人が同じ空間にいると、その感情にひっぱられてしまう、そういった気持ちはわかる。

ただ、当事者にしてみると前向きになろうという気持ちがまずわかない。
自分を立ち直すために全てのリソースを使ってしまい、周りの人を思いやる余裕などなくなってしまう。

犯罪被害者の会、などの集まりもあるだろうが、被害の程度は人それぞれ。
そこでも分かり合えない思いを抱えている人がいるのではないだろうか。

SNSには心ない言葉を投げかける人もいるかもしれない。
周りの人には違う日常が流れている。
交通事故で家族を亡くした方々の遺族にも「いつまで被害者なんだよ」という言葉が投げかけれることもあるそうだ。

確かに、過去の辛い事実を乗り越えて前向きになることは大事だ。
ただ、「前向きになれない」というのも偽らざる当事者の気持ちなのである。

それは、何年経っても、何十年経っても変わらない。
失ったものがとても大事なものであるからだ。

もし、周りに悲しい気持ちを持っている人がいたら、
前向きになろうとしているなら、そのお手伝いはできるであろう。
ただ、立ち直り方は人それぞれ。
その人の悲しみに寄り添える姿勢でいたい、と思う。

まとめ

この本を読んで、世の中の出来事について、私はもっと解像度をあげなければ、と感じた。

確かに当事者の気持ちに寄り添いすぎることでつらくなってしまうことはあるだろう。

ただ、当事者の気持ちに寄り添うことで何かできることが見えてくる可能性もあるのだ。




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