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小説「北の街に春風が吹く~ある町の鉄道存廃の話~」第3話-④

第三話 動物園でデートしよう

 色々な旗を確認しながら走ったこともあり、退屈もせずあっという間に朝日山動物園に到着した。レンタルサイクルを停めようと専用の駐輪場に向かう。

 駐輪場の入口には、またもやシロクマの顔のゲートがあり、『自転車を使ってくれてありがとう。ぼくたちの住処の北極の氷がとけないようにエコな交通機関を使ってくれてありがとう』と書かれたメッセージが書かれている。

「こういうの見ると、列車で来て良かったって思うね」

「プラスチックもだけど、ほんと二酸化炭素の排出もまじめに考えないとやばそうだよね」

「どうする? 動物園のパスポートは買う?」吉田さんに尋ねる。

「そうね。久しぶりだけど、今からまた何回も来たいから買おうよ」

 動物園の入場料は千円だが、年間パスポートの価格は千五百円である。このパスポートで年間を通して何回も入場できる。吉田さんは即答してくれたが、誰と一緒に来たいと考えたのだろう。尋ねてみたいが今一つの勇気がない。

 彼女は楽しそうに話を続ける。

「なんだ。よく考えたら列車もおなじように早くから年間パスにすれば良かったのじゃない?」同じことを僕も考えていた。

「そうだよね。こんな大きな施設はお客さんがいなくても、たくさん入っても人件費は対して変わらないんだろうから。列車も空でも満員でも運転士と車掌で走らせることが出来るんだからね。誰がこれに気付いたんだろう?」

「本当に親父が、考えたのかな?」

吉田さんと話しをしながら、動物園を歩く。今までに経験したことがないくらい大勢の人で賑わっている。

「ディズニーランドもだったけど、やっぱり人が多い方が楽しいよね」

人の多さに東京で友人たちと遊びに行ったディズニーランドのことを思いだしていた。動物園ではシロクマのばくばくタイム、ペンギンの散歩、ガラスばりのトンネルなど。動物の生態をそのまま見せる〝常態展示〟で全国的に有名になった。この日、人気施設では長い行列に並ばないといけなかったが、彼女とお互いの大学時代のことを楽しく話していると時間も短く感じた。

「あー、楽しい。」

 僕は吉田さんが喜ぶ姿を横に見ながら歩く。偶然であったがお互いの手が触れる。その指を勇気を出して握ってみる。彼女は……彼女も僕の手を握り返してくる。

 これから僕は吉田さんと一緒に何度この動物園に来るだろう。いや、もっと色々な場所に一緒に遊びに行くのだろう。際限なく広がる楽しい北海道の生活を予感していた。


つづく



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