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小説「北の街に春風が吹く~ある町の鉄道存廃の話~」第4話-③

第四話 存続協議会 その1

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 会議は沼太町役場で行われた。すでに五月だというのに、三月末に降った大雪の影響で役場の敷地には、まだ残雪が残っている。

 役場の会議室には瑠萌線沿線の首長と北海道鉄道の幹部が一同に会した。ただし、今回の会議では瑠萌市長が前回の会議を最後に協議会から抜けたために沿線自治体の席がひとつ減り結束が弱くなったように見える。

 まず、主催者である北海道鉄道からのあいさつ。担当者から瑠萌線の廃止を決めた経緯、現在の路線の収支状況そして沿線自治体との協議経緯が手短に説明される。

 そこまで終わった時点で、北海道鉄道の担当役員から改めてあいさつがなされた。 

「我が社としても一九一〇年(明治四十三年)の開業から、一世紀以上の間、沿線の皆様に愛されてきた瑠萌線を廃止することは、誠に断腸の思いでございます。しかし、自動車および道路網発展に伴う鉄道利用者の減少により既に瑠萌線の収支は会社単独の経営努力では手に負えない状況になっており、鉄道だけではなく他の交通媒体を含めて検討を行う時期を迎えたと考えています。なお、沿線自治体の住民の方の鉄道を残したいという気持ちも理解できますので、鉄道を残すことも除外はしていません」

 言葉は丁寧であるが、内容に関しては以前からの方針となんら変りもなく、要は瑠萌線の全線を廃止し、バスに切り替えたいという意図が読める。仮に沿線自治体があくまでも鉄路にこだわるのであれば相当の出資をしなければならない。出席している首長たちのため息が会場に漏れた。

 この時点で役員は席に戻り、再び担当者からの話となった。今日の主題である鉄道路線の存続に必要な各自治体からの費用負担受諾の回答である。

「鉄道の存続を自治体の皆さんが要望されたことに対して、前回の協議会では自治体からの費用負担額について提示をさせて頂きました。弊社としましても、鉄道の存続についてこのような形を取らざるを得なかったことを申し訳なく思います。ですが、この件につきましては、いつまでも結果を先伸ばしすると、以降の条件をさらに悪化させるかもしれませんし、沿線自治体で取られる対応策にも影響を与えかねないと思います。弊社といたしましては前回の協議会でその費用負担について、今回の会議で回答くださるようにお願いしております」

 担当者も言葉を選びながら進行しているのが明らかであった。

「今から回答について確認させて頂きたいと思いますが、全、…すべての自治体からの回答を頂けない場合は鉄道による瑠萌線を廃止させていただき、バス路線設定に関する協議を引き続き行って参りたいと思います。バス路線設定の素案については後ほど提示したいと思います」

 言葉とは裏腹に冷たく感じるその言葉、そして既にバス路線への転換の検討がなされていることに、出席している沿線自治体の市長および町長からどよめく声が上がった。

「では、今回の費用負担について、ご賛同いただける市町村は挙手をお願いいたします」

 みな、お互いに顔を見合わせた。いったんことが決まると路線を維持するためには費用負担を今後ずっと続けていかなければならない。町の財政も厳しい状況にある。しかも現状で鉄道を利用している住民の利用はごく少数であり、鉄道を利用していない住民はすでに廃線は止む無しとあきらめている状況だ。

つづく


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