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小説「北の街に春風が吹く~ある町の鉄道存廃の話~」第6話-⑤

・第六話 存続協議会 その三


今日の会議にこちらから提案を行うことで、今後の話し合いに一石を投じることが出来ればと思っていた。

「こんなこと、勝手に考えて……出来るわけないじゃないか」

鉄道会社の本音とも思える声が会場で聞こえる。鉄道会社の堅い扉は容易には開かれない。さすがに自治体側からも本音と思われる声が上がり始める。

「私たちだって、無策のままの鉄道に資金援助を呑むわけにはいかない」

沿線の自治体、鉄道会社の出席者の誰もが感情的になり、相手に対して罵声があがる。雄二は、その状況を見ながら、やはりこの問題には出口がないことを改めて思い知らされる。


「静かに! みなさん、静かにしてください」

 会場の様子をずっとモニター越しに参加していた鈴井であったが、突然スピーカー越しに大きくそして迫力のある声が会議室に響く。

 会場の誰もが、その声でモニターの知事を見つめる。

「みなさん、落ち着いてください。すいません、私にもう一度発言させてください」

その声には、何かしらの決意が感じられ、会場は一転落ち着きを取り戻す。

「これまでの議論見させていただきました。みなさんありがとうございます。そして、このような熱い議論は久しぶりに見たような気がします」

鈴井は淡々と語った。

「沿線の方がなんとしても鉄道に乗り続けたいという気持ちも分かりましたし、鉄道会社の方もこれまでやれることをやった結果での廃線を決定した無念な気持ちもわかります」

自治体の町たちも会社の人間もおとなしくその言葉を下を向いて噛みしめている。

「私はモニターで参加していた訳ですが、だからこそ双方の意見を少し離れた距離で聞けたような気がします。まず北海道鉄道さんにですが、『沼太町は鉄道会社の味方です』ってくり返し言われてましたよ。同じ会議の場にいると場の雰囲気で気付かなかったかもしれませんが、そのことだけは忘れないでください。彼らは決して敵ではなく一緒に状況を改善したいという味方であることを」

冷静なコメントが鉄道会社の出席者の昂ぶった気持ちに届く。

「私が今回の議論を見ていて思ったことですが、鉄道乗り放題という思い切った発想に心惹かれました。鉄道は大量輸送機関であることをなんとなくは知っていますが、年会費で乗り放題ということは考えたことがありませんでした。それと収入を会員費で稼ぐということ、……八百億円でしたかね。議論では百万人の会員で計算がされていましたが、二百万人の会員を集めれば半分になるということですよね。

確かに現状の輸送力に見合った適切な会員数があるかとも思いますが、公共交通という性格の鉄道であれば出来るだけ安く設定できれば良いと思います。

私も知事として鉄道が生まれ変われば、北海道の経済がもっと活発になるかと思います。景気というのは人と物の動きです。鉄道で人が動けば駅や駅前にビジネスチャンスが生まれます。また、駅から観光地へのアクセスも必要となり、路線バス等の交通手段でも新たな需要が生まれるはずです」

雄二には鈴井の気持ちも少し昂ぶっているように聞こえる。これまで燻ぶっていた気持ちを晴らすように発言を続ける。


つづく


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