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小説「北の街に春風が吹く~ある町の鉄道存廃の話~」第4話-①

第四話 存続協議会 その1


「以前はここらへんにも鉄道が走ってたんですよね」

 吉田さんが車の後部座席からため息まじりの声を漏らす。

「そうだね。瑠萌線は昔は足毛まであったんだよ。当時はニシン漁でにぎわっていたこともあるけどね」

 親父はハンドルを左右にゆっくりきりながら答える。親父は元々瑠萌市の出身で、幼少時代には、この海岸線に沿った区間をよく列車に乗っていたと聞いたことがある。僕も助手席に座り、線路が残されたままになっている道路の左側にずっと見えている線路敷をずっと追っかけている。

 僕たち三人は瑠萌駅周辺で借りたレンタカーで足毛町に向かっていた。僕と吉田さんが朝日川に出かけてから一週間ほどが経った頃、親父から足毛まで一緒に行かないかと誘われたのである。沼太から直接車で行くことも考えたが、親父と僕が会員パスを持っていることと、最近になってレンタカーの料金が値下げされたこともあり、途中の瑠萌までは列車で来たのである。

道の右側には真っ青な空、それを映し出すように真っ青な海が広がっている。夏は北海道のベストシーズンであることは間違いない。このあたりの海岸は海水浴場になっているため、家族連れの車もけっこう多い。

「今度は海も行ってみたいね」

「えっ、海?」

 後方からの声だったので聞こえにくかったが、吉田さんは確かに「海に行きたい」と言った。一瞬、海水浴のことと想像したが、もしかしたら他の目的かもしれない。  

せっかく海に行きたいと人に言うなら、もう少し具体的に言ってもらいたいと思う。

「そうだね。今度は海に行こうか。で、泳ぐの?」

頭の中で考えすぎて、また間抜けな質問をしてしまう。自分でも分かっているが、考えすぎるのが悪いくせだ。

「えっ、この季節に海に行こうって言ったら、普通泳ぎに行くんじゃないの?」

「あ、そう?」

「あ、そうって、…私の水着が見れるかどうかが気になったんでしょ。いやらしい」

「いや、いや。海に行くっていろいろ目的はあるから、泳ぎに行きたいなら初めからそう言ってよ」

「もう、相変わらずはっきりしないわね。男ならもっと正直になりなさいよ」

「ははは、あかりさん、圭介を許してやってください。こいつは、子供の頃はほんと恥ずかしがり屋で女の子の友達がいなかったんだ。今、あなたと一緒にドライブしてるってのが、親としては奇跡だと思ってるんですよ」

 場を和まそうとして助け船を出してくれたのかもしれないが、僕は余計に恥ずかしくなった。

つづく


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