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小説「北の街に春風が吹く~ある町の鉄道存廃の話~」第2話-②

・第二話 列車のふたり


 僕が喜ぶそのテンションの高さに吉田さんの目じりが少しあがったことに僕は気づかない。

「私たちは足毛から乗って来たのですが、さっき車内改札をして回ってましたよ。私も初めて女性車掌さんを見ました」

「へぇ、女性の車掌かぁ。早く見てみたいな」

「でも、あなたたちおふたりと同席できて良かったです。昔の列車はこんな雰囲気でしたからね。向かい合わせた人たちと話をしながらですね」

「僕も高校時代は通学で深河まで通ってましたけど、友達とワイワイしゃべっていました」

「そうね。列車の中でお話するのは楽しいものよ。列車はある意味でひとつの社交場だったと思うわ。今日は、残念ながらお弁当はないけれど、……ほら、お家からおにぎりもってきたのよ。よかったら食べません?」

「あっ、ありがとうございます。いただきます」

昼食には、まだ早かったがおにぎりをひとつずつもらって食べた。

「おいしい」

「良かった。二人とも都会でおいしいもの食べてたでしょうから、おにぎりなんて口にあわないんじゃないですか?」

「いやいや、貧乏学生だったんでカップラーメンばかり食べてましたから」

「でも、列車の中で食べるお弁当っておいしいですよね」

吉田さんがあらためてお礼をいうと、

「おにぎりには……、はい、これ!」

 ご婦人はくしゃくしゃのアルミ箔をバッグから取り出すとおもむろに開いた。その中にはあざやかな黄色のたくあんと紫色のしば漬けが入っている。

「合う~っ! この組み合わせは最強ですね」

 そして、さらに「お茶は熱いのに限るって思いません?」と言って、紙コップに魔法瓶らしいポットから熱いお茶を注ぐと渡してくれた。

「う~ん、おいしい」

「日ごろはペットボトルのお茶ばかり飲んでいるんじゃないの?」

「ええ。あまり良いとは思ってないんですけどね。つい……」

「今の若い人はお茶の葉から淹れることなんて、ほとんどしないのじゃない?」

「あ、でも私は大学の講義でプラスチックごみの海洋廃棄の問題とかを聞いたりしたんで、ゴミを出さないためにも、あまりペットボトルは買わないようにしてます」

「へぇ、そうなの? 偉いね、吉田さん。あれだよね。細かく砕かれたプラスチックを魚が食べるやつだね」

「そう。マイクロプラスチックって言われてる小さなかけら。結局、その魚を人間が食べる訳だけど……、日本のペットボトル使用量は世界で二番目なのよ」

「うん、人間の経済活動のために地球がもう限界に来ちゃっているかもって。2030年までに人間が暮らし方を変えることが出来ないと地球がおかしくなるって。テレビで特番やってた」

その会話を聞いていたご主人が僕たちに言った。

「若い君たちの世代に負の遺産を残すことになるのではないかと思いながらも、私たちの世代は便利さばかり求めていたのかもしれないね」

「地球がおかしくなったら農作物もとれなくなっちゃうからやばいよね」

 僕はいつも仕入れをお願いしている農家の人たちの顔を思い浮かべた。


つづく

北海道の鉄道を元気にしたいと思い作品をつくています。ぜひ、下の作品も読んで頂きたいと思います。

こちらは妄想おじさんの恋愛劇です。


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