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小説「北の街に春風が吹く~ある町の鉄道存廃の話~」第5話-②

・第五話 存続協議会 その二


「大西さん、あなたは前回の会議で協議会から抜けたはずじゃなかったですか?」

北海道鉄道の幹部からきつい口調で質問があがる。大西は会議室にコの字型に並ぶ机に座る出席者の顔をひとりひとり確認する。緊張からか少しだけ身体が震えている。

「瑠萌市の大西です。私は前回の会議で石狩沼太から瑠萌までの区間の鉄道廃止およびバス路線への転換を承認し、今回から協議会を抜けさせてもらうことでみなさんの了解を得ました」

「で、今日はどういうことですか?」

北海道鉄道の社員からはさらに冷たい言葉が続く。

「はい、私はこれまでの協議会において瑠萌市管内の乗降客の人数の改善を提示されていましたが、鉄道が存続できるその人数を市民に提示し協力を求めてはいましたが、結局、条件となる鉄道利用者を確保することは出来ませんでした。瑠萌市民で鉄道を利用したいという人はごく一部に限られ、私はHRさんに回答ができないことで、これ以上協議会に参加する資格もないかと思いました」

そこまで話を終えると、大西は大きく深呼吸をして背筋を伸ばした。そして一呼吸したかと思うと再び話を始めた。

「でも、今日そこにいらっしゃる沼太町の石井課長さんが訪ねて来られて、新しい鉄道を一緒に考えてもらいたいとおっしゃられて提案の内容を聞きました。その提案は決して全てが実現できるというわけではないと、ご本人もおっしゃってましたが、私にはそれまで出口が見えなかった瑠萌線、そして瑠萌市の未来に光が射した思いでした」

「彼は私に『我々は本当に鉄道を廃止する前に、出来ること全てのことを試してみたでしょうか?』と尋ねました。一度線路を廃線にしてしまえば、その復活は二度とあり得ない。だから、鉄道会社と沿線自治体で考えられること全てを試してみたい。そしてそのために瑠萌市にも、もう一度参加してもらいたいと訴えられました」

 そこまで言うと大西は言葉に詰まった。下を向いて、しばらく沈黙をしていたが、光るものを振り払うと、今度は一転力強い言葉を続けた。

「私は北海道の鉄道、いや北海道全体の暮らしのために鉄道は必要になると考えなおしました。今、そして、瑠萌線を将来の子供たちに残せるかどうかが今を生きる私たちにかかっている。まだ、出来ることは必ずあります。一度抜けたことについては申し訳ありませんでした。でも、恥を忍んでもう一度参加させて頂きたい。どうか皆様の了解をお願いします」

 大西が頭を深く下げるその姿に会議室の一同がもはや声を出せないでいた。


つづく


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