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「正しさの傲慢、無垢の狂気」

舞台「あんなに優しかったゴーレム」をU-NEXTで鑑賞。2008年に行われた、劇団「ヨーロッパ企画」による第26回公演をU-NEXTで完全配信。

とある空き地の隅に眠っている「ゴーレム」と、ゴーレムと深い関わりがあるという人々のエピソードを断片的につなぎつつ、ファンタジック&サイコホラー風味に仕上げたコメディである。

スターとなった野球選手、ゴーレムの「科学的な存在証明」に人生を捧げている科学者風の男、ゴーレムに育てられともに暮らしているという少女……野球選手のドキュメンタリー制作のために町を訪れたテレビクルーはそろって彼らの話を否定し、冷笑するが、彼らの熱意とゴーレムの異様な存在感に触れるうち、少しずつ彼らの無垢な心に引き込まれていく。果たして、最後に彼らが目にする物とは……?

得体の知れない「ゴーレム」を主軸として、テレビクルーと観客の主観がめまぐるしく揺さぶられていく。町の人々(といっても3人だけなのだが)によって語られるゴーレムのほのぼのとしたエピソードに観客は安堵し、動くはずのない土の怪物に感情移入し、彼らを否定するテレビクルーの正しさに傲慢さを感じ、苛立つ。

しかし、ヨーロッパ企画は一連の物語を「無垢VS傲慢」という単純な構図で終わらせない。行き過ぎた無垢は狂気であり、傲慢の裏返しである。ある対象を無垢に信じ抜き、周囲をも巻き込む純粋さは信仰を全否定し、排除する構図とまったく同じだ。

センシティブなテーマをさらりと掘り下げつつ、ヨーロッパ企画らしいゆるいオチによって物語は幕を閉じる。ヨーロッパ企画ならではのゆるさとテーマ性の深さが同居した作品だ。

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