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「壮大なる親ガチャ?」

ネットフリックスオリジナル「ブリトニーVSスピアーズ」を鑑賞。今や世界的なパフォーマーとして知られるブリトニー・スピアーズのアーティスト人生を親族との確執を中心に追ったドキュメンタリー。

圧倒的な歌唱力とダンスの才能を発揮し、10代のうちからトップアーティストとしての地位を築き上げてきたブリトニー。しかし、その華やかすぎる栄光の裏には親族(主に父親)との確執や葛藤、そして、長きにわたる法廷闘争があった……。

ブリトニーが世界的アーティストとして頂点を極めた2008年、彼女の父親はブリトニーに対し成年後見制度を申請し、父親である自分自身が後見人として就任。

成年後見制度は病気や障害により公的な手続きが自力では難しくなった人に代わり後見人を適用する制度のこと。後見人が指定されれば本人の決定権は大きく制限され、公的手続きはもちろんのこと、日常の買い物さえも自分の判断では行えなくなる。

成年後見制度はあくまでも判断力が著しく衰えたと認められる当事者に対して適用される制度であり、ブリトニー・スピアーズのような若く経済力も充分にある人間に適用されるのは珍しい。そのうえ、後見人は親族をのぞく第三者が就任するのが望ましいとされており、実の父親が後見人を務めるケースはきわめて稀である。

ブリトニーに後見人がつけられるまでの経緯は以下の記事を参照のこと。

まだ充分に若く、健全な判断力を保っているブリトニーにとって、成年後見制度は見えない檻のようなものだ。公演のスケジュールはもちろんのこと、恋人と触れ合う時間でさえも自分の意志でコントロールできない窮屈な暮らしに彼女は辟易し、心身ともに疲弊していった。弁護団の力を借りて何度となく成年後見制度の撤回を裁判所へ申し入れるものの、父親はその度に理由をつけて要望をはねつけた。当然、その間にもブリトニーの公演は続き、(そしてここが最も重要なポイントだが)成年後見制度が維持されるかぎり、ブリトニーが稼ぎ出す巨額な収益のほとんどが父親をはじめとする親族に入ってくる。

これを(合法的な搾取)と呼ばずして何と呼ぶのだろうか。

2020年、ブリトニーと弁護団による成年後見制度の撤回申請が認められ、12年間にわたる搾取は幕を閉じる。

しかし、これで終わりではない。20代から40代という人生のうちで最も輝ける時期を奪った者の罪はあまりにも大きいだろう。

私自身洋楽には疎く、ブリトニー・スピアーズにもさして興味関心はなかったが、本作を見て彼女の言葉の重さに共感したと同時に成年後見制度の在り方を考えるきっかけになった。

同時代を彩るトップアーティストでありながら、両親から才能を認められ、少なくとも幼少期にはのびのびと育てられたテイラー・スウィフト。世代こそ若干違うものの、(親ガチャ)という観点で対比するのも興味深い。


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