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事実はなぜ人の意見を変えられないのか

人間の「影響力」の科学!

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教室、会議室、SNS…私たちは常に、他者に影響を与え、影響を受けながら生活しています。

しかし、そのメカニズムは?

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本書では、認知神経科学の最新研究に基づき、人の考えを変える「真実の武器」を明らかにします。

なぜ、「客観的な事実や数字」は人を動かせないのか?

人を説得する際に陥りがちな「罠」とは?

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事実で人を説得できるか?

言い争いや議論になると、「私が正しくてあなたが間違っている」ことを示す攻撃材料を突きつけたくなるのが、人間の本能だ。

しかし、こと言い争いについていえば、事実は人の考えを変えられるという私たちの本能は当てにならない。

結局のところ、人間がどんなにデータ好きであろうと、脳がそのデータを評価して判断を下すときに用いている価値基準は、私たちの多くが脳はこれを使っているに違いないと信じている価値基準と全く別物だ。
情報や論理を優先したアプローチは、意欲、恐怖、希望、欲望など、私たち人間の中核にあるものを蔑ろにしているからだ。

情報や論理で説得できない理由は、賛成意見しか見えない(確証バイアス)からである。
人は自分の先入観を裏づける証拠なら即座に受け入れ、反対の証拠は冷ややかな目で評価する。
誰もが同意するたった一つの真実など存在せず、私たちはしょっちゅう相反する情報にさらされているため、この傾向は両極化の状況を生みだし、それは時を経て情報が増えるたびに広がっていく。

では、どうしたら変化が起こるのだろうか?
次のシナリオを頭に描いてほしい。
あなたは小児科医である。
ある幼児が、父親に付き添われて検診に訪れる。
ところが父親は、MMRワクチン(麻疹、おたふく風邪、風疹の三種混合)についてひどく懸念している。
このワクチンが自閉症のリスクを高めると聞いたからだ(1998年の研究論文で、ワクチンと自閉症の関連性が初めて取り沙汰されて以来、予防接種を拒否する親は増えている)。
その後数年に及んで調査が行われた結果、MMRワクチンと自閉症には関連性がないという結論が出された。
話を病院に戻そう。
医師のあなたは厄介な任務を果たそうとしている。
子どもに予防接種を受けさせるよう、目の前の父親を説得しなければならないのだ。
あなたは、ワクチンと自閉症には関連性がないことを論理的に説明するだろうか?
これは合理的な戦術に思われるが、うまくいかないことが研究から分かっている。
なぜなら、情報は事前の信念に応じて評価されるからだ。
新しいデータが、すでに確立した信念とかけ離れるほど、そのデータの信頼性は低く見積もられる。

この問題を解決するため、心理学者たちは新たなアイディアを思いついた。
凝り固まった信念を払拭するのではなく、全く新しい考えを植えつけようと試みたのだ。
彼らの推論によると、子供に予防接種を受けさせるかどうかの決断には、二つの要素が関わってくるという。
ワクチン接種によるネガティブな副作用と、ポジティブな結果。
ワクチン接種を拒否する親は、副作用の可能性(自閉症のリスク増大)に対して既に強い信念を持っている。
この認識を変えようとしても抵抗にあうだけだ。
心理学者は、MMRワクチンは自閉症を引き起こさないと説得する代わりに、同ワクチンが死に至る可能性のある病気を防ぐという事実を強調することにした。
これは最も抵抗の少ない道である、ワクチンが子供たちは麻疹、おたふく風邪、風疹から守ってくれることを疑う理由はないのだから。
両親にとっても医者にとっても、優先すべきは子どもの健康だ。
意見の食い違いよりも共通点に注目することで、変化は訪れるのである。
もとの考えを値絶やしにするのが難しいときは、新しい種をまくのが正解なのかもしれない。

議論の内容が銃規制でも、フットボールでも、ワクチン接種でも、まずは相手の気持ちを考慮しなければ意見を変えることはできない。
相手の持論を考慮すれば、自分ではなく相手にとって最も納得のいく議論の展開法が明らかになってくる。
私たちは本能的に、自分が正しく他人が間違っている証拠を大量に抱いて議論に挑もうとしがちだが、それでは袋小路に入り込んでしまう。
ここで紹介した研究からわかるように、反対意見をもつ人々は頭から拒絶するか、必死になって反証を探そうとするだろう。
変化を上手く導くには、ゆえに共通の動機を見出せばいい。


快楽で動かし、恐怖で凍りつかせる

ある研究チームは大掛かりな計画に着手した。
彼らは病院内での手洗い率を大幅に上昇されるべく、二年の歳月と5万ドルの予算を投じた。
治療室にはもともと、簡便なジェル状の手消毒剤や洗面台が部屋ごとに備え付けられており、医療スタッフが手洗いを忘れないよう、至る所に注意書きが貼られていた。
それでも、順守率はビックリするほど低かった。
これに対して何ができるだろう?
チームは意見を交わし合った末に、監視カメラを購入し、手消毒剤と洗面台が映るように設置した。
その上で医療スタッフにカメラの存在も伝えた。
ところが衝撃的なことに、見られているのを知っていながら、ルールに適う手洗いをしたスタッフは10人中1人だった。

次なる作戦によって、医療スタッフの行動に急激な変化が訪れることになる。
研究者たちは、スタッフが自分たちの行動をすぐにフィードバックできるよう、各部屋に電光掲示板を設置した。
医療スタッフがきちんと手を洗うたびに、掲示板に示される数値も上がっていく。
するとなんと、順守率が90%近くまで上昇したのだ。

最初の作戦は典型的な「ムチ」作戦である。
次の作戦は「アメ」作戦、つなり肯定的なフィードバックというご褒美だった。
こうしたフィードバックが即座に返ってくると嬉しい気持ちになることが予想できるから、従業員はさもなければ時々サボっていたことを行うようになり、しばらくするとそれが習慣になる。
研究結果によれば、いったん習慣になれば、肯定的なフィードバックを永遠に返し続ける必要はないという。

病気の蔓延、金銭上の損失、体重増加、学業不振を警告して人の行動を変えようとすることの難しさは、残念ながら、それらがすべて不確かな未来の「ムチ」だという点になる。
医療スタッフが手を洗わなくても病気にならないかもしれない。
起こるか起こらないかわからないことのために人に何かをさせるのは至難の業だし、未来のムチを無視して「まずい習慣を続けたって平気」と自分に言い聞かせるのはいとも簡単んだ。
だからこそ、いつか重大な損失を被るぞと脅すよりも、「ささやかでも確かな報酬をただちに与える方」が効果的なこともあるのだろう。
なぜなら脳のゴー回路は、快楽と行動を結びつけているからだ。


『まとめ』

人の意見を変えたい場合、情報や論理を優先したアプローチではなく、まずは相手の気持ちを考慮しなければ意見を変えることはできない。


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