見出し画像

西側には対ロシア政策の明確なゴール設定が必要だ

11月17日 CEPA:(3,232 文字)
ニコラス・テンザー

民主主義が戦争に負けない方法

 欧米諸国、特に米国とNATOの欧州加盟国が、ロシアのウクライナに対する戦争を真剣に受け止めてこなかったと主張する人はいないだろう
ウクライナ軍の最近の勝利(直近では重要都市へルソン奪還)は、特に米国のHIMARS誘導ロケット弾と、射程は短いもののフランスのシーザー榴弾砲の軍事支援が決定的であった
まだ不十分ではあるが、紛争のあらゆる局面でウクライナ市民と住居やインフラへの攻撃から守るために、米欧の兵器が不可欠であることが証明されている

 米国が提供する情報もカギになっている
しかし、ウクライナの解放、さらに言えばドンバス地方でのウクライナ軍の急速な前進に決定的な役割を果たす特定のタイプの武器、特に長距離ATACMS弾道ミサイルについては欠けている
先進的な戦闘機についても同様である

 要するに、ロシアの侵略を前にして、22年間も受身でいたことを改め、同盟国はウクライナを死守するという決意を示したという印象である
しかし、ロシアを完全に打ち負かすという点では、それほど毅然としていない

 最近、フランスのマクロン大統領はキーウへの支持を明確にしながらも、いつかロシアと「テーブルにつく」必要があると語ったが、交渉という言葉は公然と使わず、それがプーチン率いるロシアを意味するのかどうかは明言はしなかった
米国陸軍のマーク・ミーリー統合参謀本部議長は、ウクライナが失った領土をすべて取り戻すことができるかどうかについて疑念を示し、今後の交渉の必要性を喚起した

 また、アメリカでは、ゼレンスキー大統領はクレムリンとの協議の原則を受け入れ、「最大利益主義」にならないようにと圧力をかけられるているのかもしれないという噂が執拗に流れている
また、今年の2月24日にクレムリンが征服した領土と、2014年以降に占領した領土、特にクリミアを、法的にも戦略的にも無意味な区別をする人も出てき始めた

 このように、私が平和の暗雲と呼ぶものが再び現れ始めている
それは、プーチン政権の完全かつ完璧な敗北を欠いた平和である
また、中立を装ってはいるが、実際にはクレムリン支持国である特定の国々、インドや中華人民共和国などが民主主義国に対し、まるで、調停が必要であるかのようにして調停を申し出ていることも知られている
このような後退は、自由世界の信頼と安全保障にとって破滅的である
しかし、なぜ西側諸国に迷いが見えるのかを理解しておくことは重要だ

 まず、そうすることは、我々の戦争目的がウクライナ以上のものであることを受け入れることは、ロシアと戦争していないフリを終わらせることを意味するからだ
もちろん、法的にはロシアと戦争しているわけではない
しかし、この戦争は私たちのものであり、ウクライナ人の殺害は、ヨーロッパやアメリカ人の殺害と同じように民主主義世界にとって有害なのだ
私たちは同じ世界に住んでいるからだ

 第二に、抑止力とプーチンに留まらない、それ以上の中長期的の対ロシア戦略目標がないからである
中長期的、対ロシア戦略目標が必要なのだ
単にウクライナ戦争の終結とウクライナへの安全保障の付与を求めるだけでは、中長期的戦略目標があるとは言えない
もちろん、モスクワの政権交代プロセスを直接「操縦」できるとは考えにくい
しかし、私たちはモスクワの出来事に影響を与えることができる手段を定義する必要がある
また、ウクライナへの戦争被害賠償(ロシアの民間インフラへの全面攻撃以前でも3260億ドルと推定される被害がある)など、民主主義同盟が譲歩できない義務もある

 戦争犯罪、人道に対する罪、大量虐殺の罪、侵略の罪という4つのカテゴリーの犯罪について、ロシアの指導者と加害者に正義がもたらされなければならない
戦争が終わったからといって、侵略者の責任を免除し無償の侵略戦争を許すわけにはいかないので、このことが最初に果たすべき政治的責任になる
そして、時効のない犯罪の処罰は拘束力のある法的義務であり、法律上、万一被害者遺族が和解に応じたとしても交渉の余地はない

 制裁を維持し、必要であれば強化するなど、モスクワ政府に対する強力かつ絶え間ない圧力を維持しなければ、いずれも達成できないことである
よって、私たちはロシアに関心を持ち続け、いつか彼らが国家共同体の一員に戻る条件を整えなければならないだろう
そのためには、経済的、社会的措置を含む包括的な移行政策が必要である
1991年の失敗を繰り返してはならない
旧来の安全保障機構を放置し、私益追求のために強度の汚職を許し(西欧の銀行家、弁護士、不動産業者を想像してほしい)、大きな貧困と社会保障制度の解体がもたらした一般ロシア人の苦しみに目を向けず、その責任は西欧にあるとされたのだ

 第三に、すでに述べたことがあるように(https://tenzerstrategics.substack.com/p/what-does-vladimir-putin-want)、これは純粋な破壊であり、自由、法律、尊厳という価値観に対する宣戦布告なのだ
プーチンは殺人と犯罪を用いる、それは単なる行動様式にとどまらず、プーチンのプロジェクトには常に必要不可欠なものだ
西側の指導者たちは、長い間見て見ぬふりをしてきたし、おそらく今でも部分的にはそうしている
彼らは、ロシアの外交を、「過激」かもしれないが、結局「正常」な国家の行為だと見なし、具体的事例から目を背け抽象化し、利害関係、合理性、交渉というカテゴリーで考えることができると信じているのである
要するに、ウクライナが救われ、ロシアが国境を越えて押し戻されさえすれば、クレムリンは自らの行動の危険性を理解し、最終的に軟化すると考えているのだ

このような三つの誤りのために、戦争の結果とロシアが敗北を受け入れる必要性について明確な考えを持てない西側諸国の指導者がいる
彼らはロシア政策について、巻き返しというより、せいぜい封じ込め、現状維持のようなものだと想像している
彼らは明確な目標を持っていないに過ぎない

 ここに、彼らが受け入れなければならないことがある
ロシア政権の絶対的な敗北は、ウクライナだけでなく、ベラルーシ、シリア、ジョージア、モルドバ、ミャンマー、アフリカと中南米の一部、バルカン、ハンガリーにとっても、そして我々の民主主義の完全性にとっても必要だということだ
(注:私見では、カザフスタン、アゼルバイジャン、アルメニアにとっても必要である)

 政権の離脱によってもたらされるポジティブな連鎖、すなわち、より安全で、より美しく、より尊厳のある、そして何よりも人間の生命にとって、より脅威の無い世界を理解する時が来たのだ
そして、それは中華人民共和国や、反腐敗、グッドガバナンス(良い治政)など、多くの問題に波及する可能性があるのだ
そうしないことは知的欠如、戦略的近視眼性の表れであり、究極的には極めて無責任である

Nicolas Tenzer is a Non-resident Senior Fellow at the Center for European Policy Analysis (CEPA) and Chairman of the Center for Studies and Research on Political Decision (CERAP). He is currently a guest professor at the Paris School of International Affairs (PSIA, Sciences-Po), the director of the online journal Desk Russie and blogger on Tenzer Strategics, a blog on international security and foreign policy issues

サポートしようと思って下さった方、お気持ち本当にありがとうございます😣! お時間の許す限り、多くの記事を読んでいただければ幸いです😣