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無駄撃ちも大量鹵獲も必然

(1,338 文字)
露軍の大量の無駄撃ちと、撤退に伴う大量の鹵獲は露軍の前時代的なロジスティクスとその崩壊による必然だということを簡単にまとめてみる

まず、前線が露軍優勢で動いていたときの露軍のロジスティクスをおさらいしておこう

1.前線から100km後方で列車を止め、人力で貨物を下ろす
2.数時間かけてトラックに積み替え、100km先の前線に輸送する
露軍のトラックは西側の軍用トラックよりも積載量が少なく、そして西側よりもかさばる木箱を使っている
3.前線付近の集積所にトラック到着
4.人力で荷下ろし、ひと箱ずつ地面に直置きする
5.トラックを駅に戻す
6.駅に戻ったトラックは再度、弾薬を満載し集積所を目指す


今更、露軍の前近代性を指摘する必要は無いだろう
要点を絞ろう

大量の無駄撃ちも、大量の鹵獲が出るのも、前線は移動するのに、集積所を移動させることが不可能であるということが根本的な原因である

不可能な理由は主に3つある
1.集積所間の輸送専門のトラックが無いこと
2.集積所の移動を指示できる上官への情報伝達と、上官から前線までの指示のタイムロスがおおきいこと
3.荷積みの要するコストが大きいこと

もしかしたら、トラックの不足が全ての原因であり、大量のトラックさえあれば問題は解決するのでは? と考えた方もいるかもしれない
しかし、そうではない
なぜなら、仮に、トラックの数を増やしても、露軍の組織構造は、後方から前線に輸送する砲弾の量を増やすだけだからだ

露軍では、前線からの求めに応じ、あるいは上層部の予想によって、弾薬は供給される
そして、一度、集積所に下ろされた弾薬を別の集積所に移動させることは考えられていない
空のトラックはいつも列車を目指して走っている

つまり、前線が露軍有利に動いている間は、前線の動きに追い付くように、集積所の弾薬を消費できなければ残置するしかないのである
これが、8月、9月まで大量の無駄玉が撃たれた根本的な要因だ
前線の露兵たちは、解決不可能な面倒を抱え込むより、気晴らしをして解決することを選んだ

前線が露軍優勢で動いている間は、この問題はあまり表面化しなかった
それが、前線が劣勢になり、大量の鹵獲品と言う形で、問題が表面化したのである

集積所を「処理(移動または破壊)」する権限は露軍の一兵卒には無い
上官の指令が必要だ
「処理」のタイミングは、最前線の兵士を見捨てることになるので非常に難しい判断になる
大きなタイムロスがあることは、適切なタイミングで判断することが難しいという事だ


仮に、移動をしようとするなら、空のトラックと相応の人員を手配し、計画的に動かなければならない
大きなコストが必要になる
そして、多くの集積所の現状を把握しておかなければならず、輸送ルートも確定させなければならない
放棄された露軍の駐留地、集積所のありさまを見る限り、その判断を強いられた人間は勘に頼るしかなかっただろう
そして、今では、露軍にとって軍用トラックは、数百キロの弾薬に比べて、はるかに貴重品となっている

このように、露軍の持つロジスティクス・システムの細部に目を向ければ、大量の無駄撃ちも、大量の兵器の放棄も必然だったことは納得してもらえると思う

参考:

(終わり)
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