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ウクライナの教訓 -NATO

11月9日 European ECFR.EU  (13,927 文字)
防衛、抵抗、もう一度:欧州防衛のためのウクライナの教訓

0.サマリー

・2022年のロシアの侵略に対するウクライナの対応には、EUとその加盟国にとって貴重な教訓がある
・2014年以降、ウクライナは軍隊を変革し、予備役のネットワークを動員し、軍と民間の防衛機関を調整して、危機に対する社会横断的な回復力を優先させていた
・NATOのベストプラクティスを採用し、戦費を支援する独自のボランティア運動を通じてこれを実現した
・また、ウクライナ軍は、はるかに大きな敵に対する非対称な対応について、新しい技術を利用する革新的な方法を見出した
・EU加盟国はウクライナの経験から学ぶことができますが、これはインタラクティブ(双方向的)なものであるべきです
欧州諸国はウクライナへの武器供給と訓練を継続し、その見返りとして戦時中の実戦的な知見を獲得することができます

1.はじめに

 ロシアの侵攻に対するウクライナの対応は、他のヨーロッパ諸国にとって重要な教訓となります
キーウは、社会横断(挙国一致体制)的な抵抗を国防の中心に据え、すべての軍事・治安機関を単一の指揮下に置き、市民からの支援に支えられています
2014年以降、キーウは軍隊を変革し、兵站と通信を改善し、中堅将校に権限を与え、予備役のネットワークを整備し、危機に対するウクライナ社会の幅広い回復力を確保するための措置を講じました
このアプローチは、NATOのベストプラクティス(NATO標準)の採用と、戦力を支援するために資金を調達する独自のボランティア運動の両方で支えられ、防衛と国家の回復力を高めるための措置が単一のシステムの下に統合されています

 これは、スウェーデン、フィンランド、シンガポール、スイスの「総合防衛」モデル(軍と民間のアクターが一体となった社会全体の安全保障アプローチ)と、米国、ロシア、中国の強い階層的モデル(意思決定が政治指導部に集中)の間の「第三の道」を構成するものです
総合的な防衛アプローチでは防衛と抑止に集中しているが、ウクライナのアプローチの仕方は、政府内外のさまざまな勢力を包括的かつ機動的に調整し、レジリエンス(回復力)も優先されている

 欧州はこのことから学ぶべきです
欧州大陸の国々は、テロ攻撃や外国の悪意ある影響に直面したときに、特に文民組織と軍事組織の間で、安全保障と防衛の機関をどのように調整するかという問題に取り組んできた
しかし、最近、戦争でそのシステムを試されることになったEU加盟国はない
このレッスンは、欧州がウクライナに武器と訓練を提供し、その見返りとして、国家の弾力性と防衛のシステムを構築したウクライナの経験から学ぶという双方向のものであるべきです

2.ウクライナの国防の進化

 ウクライナの防衛は、8 年間の戦争で「対テロ作戦」から「統合軍作戦」へと進化してきました
政府は軍隊と法執行機関を単一の指揮下に置き、2022年2月のロシア侵攻後は、事実上の「総合防衛システム」を構築しました
 このシステムは、戦争に備えるために必要なすべての活動を、軍と市民防衛組織の両方にまたがる形でまとめ、社会全体の強靭性を高めるものでした
しかし、ウクライナのモデルは、政府と社会が対等なパートナーとして、ボトムアップとトップダウンの両方のアプローチをとっており、他国のような、古典的な総合防衛のアプローチではないのです

 このような変化は、現場の状況に対応するためにその場しのぎで行われたものもあれば、過去の経験やパートナーから学んだ教訓を実行に移した結果もあります
ウクライナ当局は、軍事活動の範囲、脅威の優先順位、対応に必要な兵力などを分析し、軍事組織、準軍事組織、民兵組織など様々な能力を持つ部隊を配置し、マネジメントしました
戦闘に参加する武装勢力や法執行機関を支援するボランティア運動の役割は、アドホック(臨機応変)でしばしば無秩序なものであり、中央からの指示なしに多くは個人の責任で構成されている
一方、治安機関(国内の防諜・政策機関)や州兵といった国家機関には、明確なマネジメントと階層化が必要であった

反テロ作戦
 2014年4月、ロシアのクリミア併合を受けて、ウクライナのオレクサンドル・トゥルチノフ大統領代行は、ロシアが「ウクライナ東部地域でクリミアのシナリオを繰り返す」ことを防ぐため、「軍隊の関与する対テロ作戦」を発表した
それは、「テロとの戦いに関する法律」に基づき、保安庁(SBU)テロ対策センターの指揮のもとで発足した
ドネツク州のスロビャンスクでの戦闘にロシア軍が関与した証拠があるにもかかわらず、ウクライナ政府は軍事作戦ではなく、反テロ作戦として開始した
「分離主義」はウクライナのテロ対策法の対象であり、また、翌月に予定されている大統領選挙を前に、戒厳令を発令することも避けたかったからだ

 反テロ作戦には、軍隊が平時に武器を使用できるのはいつか、直接武力戦闘があった場合に地上でどのように命令を下すか、関係者に退役軍人の地位を与えるかどうかなど、法的、組織的な問題が生じていた
法律では、反テロ作戦は時限法でなければならないが、ロシアによるウクライナ領土の一部への侵略と占領は何年も続いた
2017年には、地上の部隊を最適化し、任務を遂行するために、作戦形式の変更を求める声が上がり始めた
当時、国家安全保障・防衛評議会の長官だったトゥルチノフは、ウクライナの法律は20世紀の戦争の概念に基づいており、ロシアのハイブリッド手法に対応するには適切でないとコメントしている
ハイブリッド戦争の脅威からウクライナを守るため、また、長く一部領土の占領状態が続いていたため、その解放に関する国家政策を定めるために、新しい形式が必要であるという点で意見が一致した
そのためには、ロシアのハイブリッドな侵略に対して、軍隊やその他の軍事化された部隊(国家警備隊や治安維持隊など)を使用する権限が大統領に必要だった

共同部隊による作戦
 その結果、2018年には、新たな「脱占領法」によって、対テロ作戦は軍事指揮下の統合軍作戦(JFO)に変更された
これは、高度な指揮統制システムを持つ、いわゆる分離主義者が敵ではなく、主にロシア軍の正規兵
が敵であることを認識したからでもある
JFOの内容は、治安機関から軍参謀本部への指揮権の移譲、大統領が任命するJFO司令官の新設、占領地周辺を活動範囲とする全軍と法執行機関をJFO司令官の指揮下に置くというものであった

 これにより、一つの司令部のもとで地上の部隊がよりよく調整され、また、軍民行政機関(対テロ作戦の一環として2015年以降に設置された特別な地方政府機関)との協力も可能になった
また、軍だけでなく、法執行機関に対する訓練や装備など、国際協力も円滑に行われるようになった
この法律では、参謀本部には、各機関の長の同意があれば、軍隊やその他の情報機関、警察、文民機関などの資源(人員、軍事基地、武器、通信手段など)を活用する権限がある

 対テロ作戦とJFOは、それぞれ異なる目的を持っていた
JFOは占領地の解放を目的とし、対テロ作戦はウクライナ全土のテロの脅威に対抗することを目的としていた
ウクライナ全土に対するテロの脅威は2018年になっても消えることはなかった
サボタージュ、防諜、プロパガンダ、ロシアが引き起こした分離主義、違法な武装集団は依然として存在し、軍だけでなく治安局や警察の対応が必要だった
つまり、一つの作戦からもう一つの作戦に形式的に変わったにもかかわらず、関連機関は依然として反テロ作戦の機能を遂行していた
同時に、JFOにより、作戦地域内のさまざまな機関、特に軍事活動に参加する能力を持つ機関を一つの指揮下に置いて調整することが可能になった

総合的な防衛システム
 JFOは2022年2月24日、正式に終了した
ロシアの新たな侵略がウクライナ全土を対象としていたのに対し、JFOはウクライナ東部の一部地域のみを対象としていたからである
これまでの法整備やJFOの活動は、軍隊の指揮下にある各機関の連携確立に役立っていた
そして、戒厳令の導入により、戦力、資源の利用、指揮系統がさらに明確化されることになった

 しかし、現場の各機関の連携は概ね確立されたものの、最高レベルでの連携はまだ調整が必要であった
これは省庁間の調整と、国防省と参謀本部の機能分担の両面で長年の問題であり、機能の重複や明確性の欠如に起因する不祥事が多発していた
ウクライナでは建国後30年来、真に文民的な国防相が存在しなかった
国防相のポストを占めたのは退役軍人たちであり、彼らの役割は資源管理や政策立案だけでなく、軍を指揮することだと考えられていた
2021年、ゼレンスキー大統領は、軍最高司令官にヴァレリー・ザルジニー将軍、国防大臣に元企業弁護士のオレクシィ・レズニコフを任命し、責任分担について変革する道を開き、今年、重要な結果を残した

 レズニコフは2022年8月、「前任者たちはかなりの進歩を遂げたが、政策を立案し、軍の政治・行政管理を行う文民国家機関である国防省や、軍部の管理組織である参謀本部との連携を妨げる要因がまだある」と述べている
そのためには、法律の改正、機能の再分配、重複の排除が必要であり、さらに相互交流を進める必要があり、それには時間と人材の交代が必要だとレズニコフは主張した

3.構造的な変容

 2022年、それまで半分秘密だったロシアのウクライナ東部への関与は、公然の侵略となった
しかし、ウクライナのアプローチも2014年、2018年から変化していた
それは、ウクライナがNATO標準を採用し、侵攻の2カ月前に領土防衛軍を導入したことによる
どちらの要因も、現場部隊が必ず本部から直接命令を受けられるわけではなかった地上において、重要な役割を果たしてきた

NATO標準
 通常、軍事専門家は、ロシア軍とウクライナ軍の違いとして、中間レベルの指揮・通信と兵站の重要な二点について強調する
これらはいずれも、2014年以降、NATOとその加盟国による支援の優先分野となっている
侵攻初期には、NATOの職員はウクライナをどのように支援しているかを伝えることができないように見え、できないことを強調することがほとんどだったが、NATOの支援は不可欠であった
レズニコフが述べているように、ロシアは侵略を準備する際、ウクライナの軍隊が2014年以降どれほど変化したか考慮していなかった
つまり、ウクライナが8年間、事実上の戦争状態にあり、戦闘経験を積み、NATOのベストプラクティスを学んでいたことを考慮していなかった
2021年、ウクライナは、特に兵站、通信、部隊の利用と訓練に関するNATO標準の採用を加速させていた

 2014年、ウェールズで開催されたNATOサミットで、NATO同盟はウクライナにいくつかの「信託基金」を提供することに合意した
これは、加盟国が被援助国の特定のプロジェクトに資源を提供できるようにする仕組みである
その中には、ロジスティクスや標準化に関する基金や、コマンド、コントロール、コミュニケーション、コンピュータの(C4)に関する基金も含まれていた
2016年、さらに、ウクライナに対するNATO支援の統合と強化を目的とする「包括的支援パッケージ」で再確認され、拡大された

 物流・標準化信託基金には、サプライチェーン・マネジメントを改善するための取り組みが含まれていた
コスト・パフォーマンスの良い在庫管理、正確な業務把握、アカウンタビリティの確保、時間短縮が重要だった
これは、物流サプライチェーンの改善を小規模にテストすることで、物流性能を高めることを目的としたもので、サプライチェーンの指揮統制システムの改善と近代化、倉庫管理、物資の分配と(再)供給に重点を置いたものだった
最近のこの改革にもかかわらず、ウクライナの兵站システムにはまだ多くの弱点があり、資金も不足している
しかし、NATOの調達・流通原則に基づくこの改革により、プロセスのデジタル化や自動化など、遠距離での効果的な供給調整が可能になった

 ウクライナは、LFAS(Logistics Functional Area Services )-戦略的移動と輸送、多国籍展開の計画と実行、戦場での移動スケジュール、維持計画のためのNATOロジスティクス・プロセスを支援するためのツールセット-を導入し、支援国から兵器を受け取る際に重要となる透明性と信頼性の基礎を作っていた
また、EUCOMコントロールセンター・ウクライナ/国際ドナー調整センターの設立は、支援国から供給された武器をウクライナの最前線に迅速に届けることに貢献した
また、欧米の武器が闇市場に流出したとされるロシアのプロパガンダを否定することにも貢献した
ウクライナのボランティアが軍隊への供給に重要な役割を果たしたことは重要で、彼らの支援なしには、このような迅速で大規模な供給は不可能であっただろう

 C4信託基金の当初の焦点は、2014年にウクライナに無かった安全な通信システムを確立することだった
特に、NATOによる安全な戦術通信システムと商業衛星通信の提供が重要な役割を果たした
これに対し、ロシア軍のほとんどは、旧式の通信システムを持っているか、通信が簡単に傍受される個人の携帯電話を使用していた
そのため、ロシアの部隊間の連携がうまくいかず、軍の指導部と地上とのコミュニケーションも限られたものとなっていた
モスクワは軌道上に102基の軍事衛星を保有しているが、戦場での偵察、監視、標的設定、指揮統制システムの効率は、宇宙開発計画を持つ国としては予想以上に低いようである

 ウクライナ軍は、通信に関するリスクを最小限に抑えることを目指してきた
安全な通信の確立に気を配り、スターリンク技術(通信を可能にする衛星インターネット衛星)を利用し、偵察や戦場でのドローン使用も可能にしたことで、多くの場合、ウクライナ軍が戦術的に優位に立つことができた
支援国から衛星情報を受信する必要があったことも、ウクライナが通信の安全確保を優先する重要な理由だった
8 月にはフィンランド製の ICEYE 衛星を軍用に購入し、夜間でも天候に左右されずに撮影できる合成開口 レーダーで情報収集を始め、優位性を高めている
また、衛星を所有することで、より早く情報を入手することができる

 しかし、軍備に関係なく、現場で本当の違いを生み出すのは人である
NATOとウクライナの協力は、長年にわたり、ウクライナ軍内の上下関係の改革を目指してきた
そこには2つの重要な問題があった
1つは、ソ連軍では自発性や責任感が希薄で、上からの命令を待つ傾向があったため、中間層に指導力がなかったことだ
2014年のクリミアでは、多くの部隊がキーウからの指示を何日も待っていたため、それがウクライナ軍の不調の一因となった
第二に、軍幹部の人数が過剰で、プロの軍曹が少なすぎた
これに取り組むため、ウクライナは2022年2月、2016年版の政策に代わる「ウクライナ軍プロフェッショナル軍曹軍団育成のコンセプト」を採択した
この取り組みの目標は、専門的なトレーニング、スキル、社会的な利益の向上、そしてNATOとの相互運用性を高めることだった

 一方、ロシア軍は中央集権的でヒエラルキーが強く、欧米型の権限を持った下士官がいない
あるロシア政府筋はこう言っている
「大佐が多すぎるし、伍長も少ない。そのため、欧米ではもっと低いレベルで解決されるようなことでも、上層部の判断に委ねられてしまう」
これを裏付けるように、ロシア軍司令部は下級将校に権限を委譲することに消極的であると、他の軍事専門家も強調している
このような体制は、将校が戦闘に巻き込まれやすく、攻撃されやすいだけでなく、下士官に戦場の指揮経験が少ないことを意味している、との分析もある
ロシア軍の人的弱点として、下士官(NCO)の不足を挙げる論者は多い
ロシア軍に契約下士官がいるが、これらの契約下士官は責任を伴う指導的役割や、指揮官との職務分担はない

 ウクライナの場合、2014年以降の改革の成果もあり、それとは異なる
アトランティック・カウンシルのジョン・バランコ大佐が言うように、ウクライナ軍には下級レベルにおける優れたリーダーシップがある
NATO標準を採用したことで、ウクライナは下士官が果たす重要な役割を評価するようになった
ウクライナは下士官部隊の改革を完了していないため、この要因の影響についてはまだ議論がある
しかし、下士官による有能なリーダーシップという点では、米軍のドクトリンや訓練と一致し、明らかに優位に立っている
米国は、全体像を理解し、戦場での決定権を委譲された伍長や軍曹が部隊を率いるプロフェッショナルな下士官部隊の構築に重点を置いている
また、ウクライナの指揮官は比較的若い人が多く、軍司令官を含め、ソ連下ではなく、独立後のウクライナでキャリアを積み、戦闘経験を積んだ人が多くいる
その結果、独特の国家アイデンティティ、ビジョン、価値観を持った新しい世代のウクライナ人リーダーが誕生している
この紛争における多くの戦闘で、部隊が上位の将校と連携できない場合の、迅速な意思決定と独自の判断、そして時には独自に行動することの必要性が示されている
下級指揮官に現場の状況に応じて独自の判断を下す権限を与えたことが、2022年と2014年のウクライナ軍のパフォーマンスの大きな違いを示している
このため、本部を介した調整を必要とせず、地上の部隊間の機敏なアドホック調整が可能になった
マリウポルとアゾフスタルの防衛は、陸軍、海軍、内務省の国家警備隊、警察の間のこの種の調整と協力の一例であった
中央司令部から隔離されたこれらの部隊は、多くの決定を独自に行い、互いに効果的に協力し合った

 また、士気も重要な要素であった
これはどの国の軍隊でも重要なことだが、この戦争では特にその重要性が顕著に示された
ウクライナはこの分野で優位に立っていた
軍のリーダーシップをヒエラルカル(上意下達)なものから脱却する努力も、ウクライナ軍や他の準軍事組織に何のために戦うのかを伝える必要がなかったことからも明らかである
土地と家族を守り、人々を解放するために戦う彼らのモチベーションとモラルは自分の事のように分かる
それは、刹那的な国益や説明のつかない目標のためではないのだ
このことは、地元住民の支援からもよく分かる
対照的に、捕虜となったロシア兵へのインタビューで分かるように、ロシアの戦闘員は目的を知らないか、「脱ナチス化」や「ロシア語話者の保護」といったプロパガンダを繰り返している
後者は、ウクライナ人に現実に会い、占領地で受ける敵対的な歓迎に驚くことが多いので、簡単に論破されるのだ

領土防衛隊

 以前からキーウでは、ロシア軍に劣勢に立たされ、西側の武器や技術だけでは太刀打ちできないことが予想され、追加人員の確保が課題となっていた
数年前から、政治や市民社会で、戦争に備えた追加的な能力の必要性について議論が行われてきた
政策立案者は、フィンランドやスイスの予備軍の例や、2014年にウクライナ軍に参加した志願兵の経験などを研究してきた
2022年1月、ウクライナの領土防衛軍、つまり危機の際に軍に召集される特別な訓練を受けた志願兵部隊を設立する法案が可決された
当初、ウクライナの領土防衛軍は前線での戦闘には参加しない予定だった
しかし、2022年には、多くの地域でロシア軍と最初に対峙し、あるいは町を守るための唯一で最後の砦となったのがこの部隊だった
そのため、その機能と責任を見直す必要があることが明らかになった
2022年5月、ウクライナ議会は「国家抵抗法」の改正を採択し、領土防衛隊が地元地域以外でも活動し、戦闘に参加できるようにすることを決定した

 当初の計画では、国内の各行政区域に1個ずつ、25個旅団を設置する予定だった
2022年5月現在、32の旅団が機能しており、そのうち25の旅団が戦闘経験を積んでいる
各旅団は、他の地域の防衛のために派遣されるのではなく、自分の地域だけで活動することになっていた
戦時中または「特別期間(動員発表から始まり、動員、戦争、復興期間を含むこともある。ウクライナの経済、国家機関、軍、企業などの機能に関する特別体制が敷かれる期間。)」の領土軍の任務は、次のように想定されていた
・公共施設や病院、発電所、空港などのインフラ設備の防衛
・パトロール
・後方での治安維持活動
・道路、橋梁、トンネルなどの交通インフラを制御(検問)
これにより、ウクライナ軍主力部隊は、戦闘や偵察といった優先的な任務に専念することができるようになる
領土防衛隊は、特定の地域に迅速に配備できる訓練された人材の追加投入を意図したものであった

法律では、領土防衛隊には三つの区分がある

・平時の人員配置
合計1万人
大隊や旅団の組織・運営の中核をなすキャリア組の軍人からなる
この計画では、2022年2月末までに、これらのスタッフの70%が配置されることになっている
(侵攻の3日前である2月19日までにこの数字を達成したのは13の国境地域だけだったが、2月24日以降、この不足は急速に縮まっていった)

・特別期間要員
13万人
適性検査を通過し、領邦防衛隊の予備役として契約した民間人である
武器の使い方、戦術医学、戦闘調整などの訓練を行い、武器を割り当てる
2022年2月に募集キャンペーンが始まり、ロシア軍が国境に集中する中(2月24日以前に)、男女がそれぞれの地元で訓練を行っている
ロシアが2022年にキエフを攻撃したときに大きく貢献することになった
ウクライナ北部と西部の主要都市からの参加者が最も多かったが、関心は高くなかった
参加者の多くは、ロシアが攻めてきたときにパニックにならないよう、武器の使い方を学びたいというだけで、本当に戦争になると思っている人は少なかった
2月24日、全国に領土防衛隊への入隊を待つ人の列が、募集人員数を超えたとき、すべてが変わった

・地域共同体のボランティア部隊
これらは非契約の義勇兵で、年齢の上限はなく、必要に応じて領土防衛隊司令部が部隊を編成する
地域共同体は、ウクライナ国家内の正式な行政単位で、大きな町やいくつかの村が一緒になっていることもある
義勇軍部隊は主に小さな町や村の防衛のオプションとして想定されていた
領土防衛隊司令部は、特に国境地域や前線に近い地域の多くの町や村に義勇軍部隊を創設した
キーウ周辺で活発な軍事行動が行われたときも、このような義勇兵部隊がキーウで活躍した

4.ナショナル・レジリエンス(国家の危機対応能力)

 2021年、ウクライナは新たな軍事安全保障戦略を採択した
「抑止力、回復力、相互作用に基づく、包括的で事前準備の十分なウクライナの防衛」がその主目標である
近年、レジリエンスがウクライナ・NATO協力の重要な要素となっており、この分野の実践的な協力として2021年9月の初演習やウクライナの法改正の両方につながった

 2021年9月、ウクライナは「国家レジリエンス概念」と題する政策文書を採択した
これはNATOのレジリエンス基本要件にほぼ合致したものだ
「レジリエンス強化のためのコミットメント」はNATO加盟国が2016年の首脳会議で採択している
進化する安全保障上の課題に対し、レジリエンスを高めるには「同盟国は軍事能力とともに、また軍事能力を支援するために、重要な文民能力も維持・保護し、政府全体や民間部門と協力する必要がある」と述べている
その中で、レジリエンスを向上させる政府と主要行政サービスの継続性の確実性の7つの分野として
 ・弾力性のある食料供給と水資源、そして、その供給が途絶えたり妨害されたりしないようにすること
・弾力性のあるエネルギー供給
・弾力性のある輸送システム
・弾力性のある市民通信システム
・電気通信とサイバーネットワーク、そしてそれらが危機的状況でも機能するようにすること
・大量殺傷への対処能力
・無秩序な人の移動に効果的に対処し、人の移動と軍事展開とを矛盾させない能力
などを挙げている

 ウクライナのシステムは、基本的にNATOのシステムに、情報影響力作戦に対するレジリエンスと財政・経済的レジリエンスという2つの基準を加えたものである
今回の戦争は、このアプローチのクラッシュテストとなった
NATOとウクライナがこうした公約を打ち出したのは、両者が直面するハイブリッドな脅威の増大に対応するためであり、すべての危機に備えることは不可能だと受入れ、危機の結果に対して管理できるようなモデルを開発する必要があるという理解からである

 7 カ月に及ぶ戦争の後、ウクライナの弾力性への取り組みは重要であるこ とが証明された
政府と議会が首都に留まり、その機能を継続できたことは、地域レベルの国防と一般住民に大きな力を与えた
弾力性のある輸送システムは、民間人の避難や軍事物資の輸送に極めて重要であった
サイバーシステムが攻撃に耐えられたことで、政府の重要な機能や金融サービスを継続することができた
また、コロナの大流行によって、国家サービスのデジタル化が進んだことで、政府機関や金融機関は業務を継続することができた
情報セキュリティの強化によりロシアのプロパガンダを弱体化させることもできた

 また、通信の保護も重要な課題であった
ロシア軍が占領地で最初に行ったのは、ウクライナのテレビ、ラジオ、インターネット、携帯電話事業者の接続解除であり、情報の空白を作り、住民を抑圧することを狙った
占領地では対抗する機会はほとんどなかったが、SNSやVPNを積極的に利用し、政府がインターネット経由でウクライナのテレビを提供したりすることで、これを緩和することができた
それでも、電気の喪失は小さなコミュニティーに影響を与えた
しかも、現代の戦闘はインターネットへの依存度が高まっている
スターリンクの導入で「妨害されない」インターネットと通信が可能になったことは、戦場の状況を変える重要な要素になった

 しかし、ウクライナの 2021 年軍事安全保障戦略におけるレジリエンスの定義には、文民・軍事協力と危機における文民・軍事部門の相互依存と共同責任の認識が欠落している
これらは、レジリエンスに関する全てのNATO文書の中でも重要な要素である
NATOのレジリエンス強化へのコミットメントでは、軍と民間の関係を次のように定義している
「軍事能力を補完し、遂行可能にするために、我々は市民の備えを改善し続ける[...]我々は政府の継続性、重要サービスの継続性、重要な民間インフラの安全性を強化することで、国民と領土を保護する。そして、我が国とNATOの軍事力を、エネルギー、輸送、通信を含む民生資源で常に適切に支援できるよう取り組む。」

 領土防衛軍は、この民軍協力の一環として、軍側から始められた
しかし、2014年にロシアの侵略が始まって以来、ウクライナの対応は正規軍だけのものに限らなくなった
ボランティア運動や社会のレジリエンスを確保するための施策は2014年から行われていたが、2022年に新たな推進力を得て、多くの要素がグレードアップした
8年間の戦争で培った実践的な経験とネットワーク、サプライチェーンの確立が、この新たなムーブメントの基礎になっている
また、ボランティア活動の制度化により、より良い資金と専門的な運営を確保できるようになったことや、社会的責任のある企業やディアスポラ(避難者)からの貢献が増加したことも、改善に寄与している
レズニコフが言ったように、「ロシア軍とウクライナ軍の非対称性を考慮し、非対称性への対応と、安全保障・防衛部門だけでなく社会全体の即応性を保証する能力の両方を準備することが目標であった」のである

 軍隊を支援する大規模な慈善団体から、個人の小規模な取り組みまで、ボランティアは重要な役割を担っている
軍隊に車両や武器、あるいは食事を提供するための資金集めから、攻撃で荒廃した村への医療品や発電機の確保まで、さまざまな活動が行われている
2014年、これらの取り組みは軍隊の供給システムの貧弱な状態がそうさせた
2022年はシステムの改善によって、主に急激な人員増加のために必要になった
2022年と2014年の最大の違いは、これらの取り組みによって提供される物資の種類である
ボランティアの報告やクラウドファンディングの依頼から判断すると、2014年の支援物資は主に制服、防弾チョッキ、医療品、通信システム、暗視装置などであった
2022年には、それ以外の種類の装備、特に自動車やドローンが主流になり始めている

 2大チャリティが、民間の軍事支援に革命を起こした
プリツーラ財団は、戦闘用無人機購入のために1600万ドルを調達した
しかし、製造元であるトルコのベイカー社は戦闘用無人機3機を無償贈与すことを決め、代わりにその資金はウクライナ軍用の人工衛星の購入に使われた
また、ウクライナ特有の支援の例として、2014年から軍に物資を供給している慈善団体「カムバック・アライブ」がある
2022年6月に、致死性兵器を含む軍需品やデュアルユース商品(軍需転用可能商品)の購入ライセンスを取得し、メーカーから直接商品を購入したり、海外で軍需品を購入したりすることが可能になり、兵器産業の閉じたサークルに入り込んでいる

 こうした民軍協力のユニークな事例は、戦争への社会耐性強化の取り組みの一部である
国民が積極的に国防部門に支援しようとする姿勢は、国民が国防の重要な担い手であることを意味している
これまでのところ、こうした取り組みはほとんど場当たり的であり、多くの装備品が非公式に部隊に届けられている
このようなアプローチは短期的には有効であるが、紛争が長期化した場合、これらのイニシアティブは、その活動を促進するために、適切な調整、制度化、規制が必要となる
そして、そのような人たちの仕事を、煩雑な手続きで邪魔しないようにしなければならない

5.なぜこのようなことが重要なのか

 ロシア・ウクライナ戦争におけるウクライナ軍の活躍から学ぶべきことは多く、すでにいくつかのNATO加盟国は研究に着手している
イラクやアフガニスタンでの戦争は、ウクライナでの戦争とは非常に異なっていた
イラクやアフガニスタンでの戦争は、ウクライナでの戦争とはまったく異なり、対象範囲も敵のタイプも異なるため、観察者と戦闘員にはそれぞれ異なるスキルと知識が求められている
また、イラクやアフガニスタンでは、軍と法執行機関の連携もあまり必要なく、NATO 加盟国側にはボランティアや地域防衛部隊の役割もなかった

 ロシアの2014年のウクライナ攻撃は、脅威認識と作戦能力の両面において、NATOの変容を引き起こした
現在、2022年の侵攻は、個々の加盟国やパートナー(英国、ドイツ、スウェーデン、日本など)に、防衛・安全保障戦略だけでなく、軍隊や社会全体の組織的・物質的準備の見直しを促している
侵攻直後のNATO会合では、軍の地理的配置に関する決定、技術的・物質的能力の監査、 戦闘用無人機など特定の種類の装備品への関心の高まりが示された
しかし、特にウクライナの対応には、より包括的な教訓を得るプロセスが必要である

 これは双方向の関係であるべきだ
ウクライナは、戦闘と国家の回復力に関する包括的なシステムの構築に関する経験を共有することができる
NATOとウクライナは、弾力性に関するワーキンググループを設置し、ベストプラクティスを研究し、国境を越えた弾力性の構築に関する協力の方法を提案すべきである
共同教訓センターも相互の利益となり、戦争の終結を待つ必要はないだろう
同時に、ウクライナには武器だけでなく、訓練や軍事教育システムの改革への支援も必要である
すでに英国でウクライナ兵を訓練する構想や、2022年2月に欧州連合がウクライナへの軍事顧問・訓練団(EUATM)設置に基本合意するなどが注目され始めている
しかし、訓練の提供だけではその場しのぎに過ぎない
軍事教育システムの改革がウクライナの能力への長期的な投資を可能にするのだ
これらの取り組みをきちんと発展させていく必要がある
「‘Defend – Resist – Repeat’(防衛 - 抵抗 - もう一度)」は、過去 8 年間にわたるウクライナの安全保障への取り組みのスローガンと言えるかもしれない
ウクライナの経験は、非対称的な脅威に対応するとき、あるいは劣勢に立たされたときに、防衛とレジリエンスの概念が相互に関連し、依存し合っていることを示している
欧州が脅威の増大に直面して安全保障能力を見直す際、国家の弾力性を高めるプロセスは、国家の防衛力を高めることと並行して行われるべきものである

 ウクライナ防衛戦から欧州は偵察のための人工知能や敵の配備に関する市民の情報を収集するチャットボット「e-Vorog」などの新技術の活用について学ぶことができます
・無人航空機(ドローン)の役割とその迎撃方法
・通信と衛星通信の安全性
・ロジスティクス、特に国境を越えた供給メカニズム
などです
これらの要素は、戦争だけでなく、ロシアや中国などからのハイブリッドな脅威に直面したときにも役立つものがあるかもしれません
欧州の一部の国々が訓練された予備役という考え方に回帰するなか、ウクライナの領土防衛軍の経験は示唆を与えてくれるでしょう

ウクライナが2014年に学んだ教訓は2022年の対応に不可欠でした
ウクライナと欧州およびNATOのパートナーが2022年に学ぶ教訓が、次の危機に対しても同様に重要であるかもしれません
(終わり)

著者
ハンナ・シェレストは、外交政策評議会「ウクライナ・プリズム」の安全保障プログラム責任者であり、「UA:ウクライナ・アナリティカ」の編集長である。また、ワシントンDCの欧州政策分析センターの非専属シニアフェローでもある。以前は、ウクライナ大統領直属の国家戦略研究所オデッサ支部の上級研究員として10年以上勤務。

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