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オリジナル短編小説 【ポインセチアの物語〜花屋elfeeLPiaシリーズ25〜】

作:羽柴花蓮(旧 吉野亜由美)
ココナラ:https://coconala.com/users/3192051

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 そろそろジングルベルが鳴る頃になると、花屋elfeeLPiaにもポインセチアが並ぶようになる。花屋elfeeLPia、妖精の感じられる場所、という造語だ。しかしこの花屋elfeeLPiamには花の妖精がいる。ポインセチアにも。誰の恋を成就させようかと客を品定めしている。

 ポインセチア。日本では特にクリスマスが近づくと飾られるようになる。クリスマスとの関係は、十七世紀にメキシコのタスコ付近に住み着いたフランシスコ修道会の僧たちが、ポインセチアの色と開花時期から「赤は清純なキリストの血」、「緑は農作物の生長」を表しているとして、誕生祭の行列に使うようになったのが始まりと言われている。
またポインセチアの大きな花びらのように見せるのは、包葉で真ん中にある黄色い粒状のものが花で開花はしない。
英名の名前の由来はこの花を初めてアメリカに紹介したアメリ初代メキシコ公使のジョエル・ロバーツ・ポインセットの名前にちなんでいる。原産国のメキシコでは「ノーチェ・ブエナ」、聖夜と呼ばれている。
ポインセチア全般の花言葉は「祝福」、「幸運を祈る」、「私の心は燃えている」、「清純」である。

 赤い、「私の心は燃えている」という花言葉を持っている、ウィンター・ローズは気まぐれな妖精で恋多き男女の恋を取り持っていた。何度も行って帰ってきている。向日葵から次で最後、と厳命が下っていた。たまにはそういう気まぐれな妖精もいるのである。

 中学校から向日葵が飛んで帰ってきた。マフラーを取って、制服を一樹の自宅に置くと店に飛んでくる。従業員用のスペースはあるが、向日葵はまだ正式な店員でもないため、萌衣の取り計らいで隣家の自宅を使わせてもらっている。
「もう。いたずらはだめだからね」
 向日葵が少し伸びた髪を結わえながら、ウィンター・ローズに言う。葉も包葉も柔らかな曲線を描き八重で綺麗なのだが、見た目で買うと痛い目に合う。今期はもう四回帰ってきている。恋泣かせの妖精だ。
 花言葉の「私の心は燃えている」要素が過剰なのだ。相当の自信がないと言えない恋心だ。

“わかってるさ”

 花の妖精は女性だけではない男性もいる。子供も老人もいる。この花の妖精は飛び抜けて男性性が高く、プライドも高いのだ。そのプライドに見合う客がいないのだ。
「次でちゃんとおムコに行ってね」

“何度も言われなくとも”

 ふん、とそっぽを向く。
「ツンデレなんだから」
「ひまちゃ~ん」
「は~い」
 向日葵がポインセチアの側を離れると妖精は客を見定め始める。そうこうしているうちに可愛らしい女性が鉢を取り上げた。
「まぁ、綺麗。私、この子もらって行こうかしら」
 可愛らしい女性の声に向日葵も一樹も凍り付く。
「あ。あ・・・」
「何か?」
「いえ、何かあったら返品承りますので」
 一樹がそつなくこなす。
「そうなの?」
 その女性の肩にメロメロになったポインセチアの精がのっている。好みだったらしい。
「いっちゃん。あれ、見て」
「みたいだねぇ」

 こうして難者のポンセチアは出て行った。

女性はポンセチアを窓際に飾る。
「ねぇ、ポインセチアさん、クリスマスにあの人と過ごせるかしら?」

“どこのどいつなんだ。そいつは!”

 ポインセチアの精が騒ぐ。惚れているので相手がいるのが癪なのだ。この恋の成就を今まで取り壊してやりたい気になる。だが、惚れた女性の涙はみたくない。複雑な心境である。

「そうだ。あの人にこの子の画像送ってみようっと。それから一緒に過ごせませんか、って。あー、勇気がいるわー。どうしよう」
 女性、美和湖は部屋の中をうろうろする。

“あー。じめじめと。心を燃え上がらせろ。さっさとメールを送れ!!”

 ポインセチアの精はそう言うと力をたぎらせる。つながっている女性の心に力がわいてくる。
「あら。ポインセチアさんを見たら、大丈夫って思えるわ。送ってみよう。まぁ、仕事だろうけど」
 美和湖はポインセチアを撮ると画像と一緒にメッセージを送る。ぽん、と可愛らしいスマホの音がしてメールはとんで行った。
「あー。もう何も手が着かない。どうしよう。断られたら」
 そう言ってまたうろうろしだす。

“もう、落ち着かん人間だな。どっしり構えてろ”

 しかし、燃え上がる心を持った人間がこのポインセチアを持つと心の情熱の炎が異常に高ぶるのだ。余計落ち着かなくなる。何も手に着かなくなるのだ。
 そうこうしている内に、メールが返ってくる。
「まぁ。可愛いポインセチアだね、って。その花屋に行きたいって。わー。一緒にって。ポインセチアさん、ありがとー。あなたがいてくれたからよ。勇気出して良かったわ」
 鉢を持ってくるくる踊る。
 回りすぎて足下がおろそかになる。
「あ、危ない!」
 鉢がとんで行きそうになったのを必死で受け取った美和湖である。
「ごめんね。ポインセチアさん。ありがとうね。返品なんてしないわ。これから私の子供よ」

“子供かい”

 突っ込むが聞こえはしない。まぁ、美和湖の守護妖精として生きる覚悟は出来ている。もう戻らないぞ。向日葵。どーだ。嫁ぎ先見つけたぞ。と思っているが向日葵は知らない。

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