見出し画像

オリジナル短編小説 【曲がりくねった小道を歩く旅人 〜小さな旅人シリーズ19〜】

作:羽柴花蓮
ホームページ:https://canon-sora.blue/story/

+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+

 その日から、ルームシェアに武藤が入ってきた。男兄弟三人の中に入るのは可哀想と、万里有達は言ったが、大河達しばらくの我慢、と言って四人でワンルームになった。征希を早く追い出したいというところだ。自分達の方がさっさと籍を入れているのに後から籍をいれた征希が結婚式を挙げるとは、という男のジェラシーである。そして普通なら夫婦の夜なのだが、万里有もマーガレットも征希が留学から帰ったらといって、自室に戻る。この夫婦、大丈夫かしら、と想っているのは一姫と亜理愛だけである。征希も征希で、そういうことにしておこうと素直に従っている。が、男四人のむさい部屋から出て、リビングのソファで寝ることにした。
 夜中、リビングの扉から光がもれているのを見て水を飲みにきたマーガレットがそっと扉を開けると、語学勉強に励む征希の姿があった。
「征希、四人は狭すぎるわ。追い出されたのでしょう? 別の部屋で眠れば?」
 いいんだ、と征希は言う。
「一人だと悶々と煩悩に悩まされるから、勉強してる方が気が楽なんだ」
 さすがは年頃の男の子というところだろうか。征希とて妻と初夜を迎えられないのは不満らしい。かといって兄を立てることを考えるとそれは難しいのだ。
「お兄さん思いなのね。そうだ。さっき、マリーとも話したんだけど、これから恋占いをすることにしたの。でも。その前に征希とマリーに話したいことあるの。私がどうして恋占いをやめてしまったかという理由を」
「それはみんなの前で話した方が・・・」
「その前にマリーに私という旅人の背中を押して欲しいの」
「やっと、背中を押して欲しいという時が来たのか」
「征希?」
 征希はリスニングの音声を止めてマーガレットに向き直る。
「以前、写真を見て泣いていたのを見たことがある。それにマリーは最近マギーが何か悩んでいると思っている。俺もだ。何があるのか知りたかったが、無責任なことはできない。だからこうして話してくれるのを待っていた」
「征希」
「リーディング、ガイドブック読みながらでもいいならするわよ」
「マリー!」
「戻ってくるのが遅いから何かあった、って思ったから来たのよ。大丈夫。部屋着だから征希も変な気起こさないわ」
「えらく信用されたな。一応、年頃の男の子なんだけど・・・」
「まぁまぁ。まずはマギーの背中押すリーディングよ。マギー、入った入った」
 万里有に押されてマーガレットが入る。その後ろから万里有が入る。
「みんなに話す前に気持ちを整理したいのね」
 ええ、と心細そうに答える。
「征希。参考書直して」
「へいへい」
「まさき~」
「はい!」
「よろしい」
 新婚家庭の一片を見せられたマーガレットはくすり、と笑う。
「マリーもついて行けばいいのに」
「マギーを一人にして行く事なんてできないわ。さ。リーディングはじめるわよ」
 マーガレットが反論するひまも与えず、万里有はカードをシャッフルし出す。
「慣れたわね」
 と言っている先からカードをこぼす。
「一枚ならジャンプカードだけど三枚も出ちゃねー」
 といってまたシャッフルしだす。そしてマーガレットとは違う引き方をする。
「こっちの方がわかりやすいの」
 といって一枚のカードを選ぶ。
「相手に決めさせないのね」
「だって。事前準備だもの。選んでもらえないわ。だから私が選ぶの」
 なるほど、とマーガレットは頷く。
「と。出たカードは24番・・・と。『Meandering pathway』、『曲がりくねった小道』。キーワードは『流れ』。今までの紆余曲折もそうだけど、一本道で目標や目的が見えている道を歩くより、曲がりくねった道でいろいろ迷ったりしながら歩く過程を楽しむ、いえ、この場合は、経験するってことね。この曲がりくねった人生を経験することで幸せが来る、っていうことだと思う。マーガレットの単調な生活に私達が入ってきたことがマギーにはよかったんだわ。これからも迷いながら進もう。征希は行っちゃうけど、代わりに切れ者の武藤さんが入るわ。きっと何か意味があるのね」
 万里有がガイドブックを読みながら解釈を聞いているマーガレットは、次第に明るい表情になってきた。
「マリー。やっぱり、あなたは私の救い、よ。明日、みんなに話すわ。どうして私が恋占いができなくなったかを。今日はもう寝ましょう。それとも征希と万里有はここで二人きりになりたい?」
 いたずらっぽい目で二人を見る。二人して突っ込む。
「できるわけないでしょー」
 深夜のため大声は出せない。
「じゃ、新郎さんから花嫁は奪い取るわよ」
「どうぞどうぞ。あ。その前に、お休みなさいのちゅー」
 征希は立ち上がりかけた万里有の首に手を絡めて引き寄せるとキスをする。
「お休み。マリー。マギー」
「もう。これだからお年頃の男の子は・・・」
「愚痴なら部屋で聞いてあげるわよ」
 二人とも一緒に出る。
「俺の渡米までに間に合うといいけど」
 ぽつん、と一人言がリビングに落ちた。

 翌朝、あくびをこらえる万里有と征希を見て、もしや、とマーガレット以外は全員疑う。
「違う。違う。夜中にマギーをリーディングしてたから!」
 二人は必死で否定する。
「マギーを?」
 全員の視線が征希達からマーガレットに向かう。
「そうなの。背中を押してもらったの。私から話したいことがあるの。どうして恋占いができなくなったかを。まだ今は起きたてだから、お昼のお茶の時間に話すわ。ほんとよ。かばってないから」
「マギーがそう言うのであれば、我々も待とう。武藤、早速会社で電話番してくれ。三時には戻ってきていいから」
「人使い荒い重役だなー」
「それが平の仕事ですから」
 武藤はにこやかに言って去って行く。
「うわー。去って行く姿スマートすぎる」
 一姫がぞんざいな言葉で言う。
「姫は、武藤を見なくていい」
「わかってるわ」
 また甘い、新婚家庭劇場が開演する。
「どこを向いても新婚家庭。目の毒だわ」
 そう言ってマーガレットはお気に入りの指定席へと向かった。

 午後三時、空調の効いたテラスルームに全員が集る。武藤とマーガレットだけが一人づつ座っている。
「アリー。今日のお茶は?」
「もちろん春にふさわしい水出しアイスティーとさっき届いた美樹さんの新作タルト」
「た!・・・なんでもないです」
 タルトに反応しかけた征希は万里有ににらまれ、座り直す。
「もう。いいわよ。アリー。タルト頂戴。マギーが呆れる前に食べさせてあげないとね」
「はいはい。結婚したてで単身赴任の可哀想なご家庭にタルトを進呈するわ」
「ご家庭って。子供もいないのに」
「マリー。新婚劇場を早く終わらせて。話せないわ」
 マーガレットの突っ込みに恐縮する征希であるが、しっかりタルトを食べさせてもらう。
「こら、私の手はタルトじゃないわよ」
「こうでもしないとマリーを食べれない」
 余りの恥ずかしさに耳まで真っ赤になる万里有である。
「はいはい。新婚劇場終わり~。マギー、話って?」
 一姫が仕切る。
「私の家系が占いというのは知っているわね? 生れた者は皆、占いの道に進んでいるわ。父や祖父は世間にかなりの影響力を与えるほどになっている。私も恋占いが出来るようにと祖母のマーガレットの名前をもらった。小さいマーガレットということでリトル・マーガレットとつけられたの。マリーのおじい様はそれを知っているからリトル・マギーと呼ぶのよ。問題はそこじゃない。私はある事件を境に恋占いが出来なくなった。私には幼いときから仲良くしていた男の子がいたわ。一族の末筋に生れたリチャードという男の子。でも仲良くすればするほど父や祖父は反対した。末筋というだけで私はリチャードと一緒にいるのを禁じられた。それでも目をかいくぐって会っていたわ。あの日もそうだった。二人で田園の道を歩いていると一台の車が私達に向かって飛び込んできたの。リック、リチャードは私をかばって車の下敷きになった。命は取り留めたけれど、十年近く経っても昏睡状態。今も目を覚ましてないの。あの事件を境に私は自分の恋と恋占いを封印したの。リチャードが、リックが目を覚ますまでしないつもりだった。だけど結愛達を見ているといても立ってもいられなくなった。そして自らの封印を解いたの」
「マギー」
 いつものガールズトークメンバー三人でマーガレットの側に行って抱きしめる。マーガレットのメガネに滴が落ちる。
「つらかったわね。私達に出来ることはないの?」
 わからない、とマーガレットは首を振る。
「マリーのリーディングでは私は曲がりくねった小道を歩く旅人、なの。もっと紆余曲折に至るかもしれないわ。何が正解で、どうしたらリックが目を覚ますかわからないの。私達の家系には魔力というものがあるの。マリーの、野口家から伝わったエンゲージリングももともとは私の家に伝わっていたもの。だから、落ちたの。私が落としたの。抜き方を知っていたから。そうでないとマリーは命を失う道しか残っていなかった。何度リーディングしてもマリーは死ぬ運命だった。だから私が介入したの。本来、道を曲げることはゆるされてないわ。でも、私はマリーを失いたくなかった。だから介入した。それで、なんとか道は元に戻ったわ。そして、今度は私が背中を押してもらう番なの。みんなに力を貸してほしいの。リックを目覚めさせる力を貸して欲しいの」
「といわれても我々にはなんの力もない」
 ほとほと、困ったと大樹が言う。
「普通の人にもあるの。わずかながら、魔力が。その魔力でリックを目覚めさせて欲しいの。あなた達の愛の力がきっとリックを目覚めさせるわ。まさか、こんなに恋人同士が集るなんて思いもしなかったけど」
「それじゃ、結愛と武藤さんも手伝ってもらいましょう」
 武藤がびっくりして亜理愛を見る。
「あなた達の愛も必要なの。きっと多くの愛がマギーとリックを救うわ」
「アリー、ありがとう」
「いつ、行けばいいの? リックの元に」
「日は定まってないわ。でも。月の力が満ちる満月の夜に愛の力がこもったものを飲ますことが出来たらきっと・・・」
「わかった。その日までは征希は渡米しないこと。その飲ます薬はいつ作れるの?」
「死と生が交わる新月の夜に・・・」
「わかった。各自愛を育てること。さて、私はタルトを楽しもうっと。征希、マリーに食べさせてもらうのはいいけど手までかじるのだけやめて。刺激が強いわよ」
「姫?」
「私も長い間、欲求不満なの」
「ひめ!!」
 大樹が大慌てしいてる。それをくすり、と見守るマーガレットだ。
 必ず、リチャードをマーガレットの元に。征希と万里有は視線を交わしてうなずき合う。

 時は動き始めた。曲がりくねった小道がまた進み始める。

 あなたの道を後押しします。

 マーガレットにもその救いがもたらされようとしていた。


【Fin.】

+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
応援したいと思ったら「いいね」♡
他の作品も気になる方は「フォロー」♪
コメントで感想もお待ちしています!
+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+


この記事が参加している募集

#恋愛小説が好き

4,957件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?